電気は大事 電気代は高い
1920年生まれのヤエさんにとって、電気代は高いもの、電気は節電するもの、という考えが、若い時から90歳代まで、染み付いていた。
90歳で要介護3になったヤエさんに、5年にわたって、節電行動とコード抜き事件が何度か起きた。
90代のヤエさんは、夜中に2度ほど自分でトイレに起きる習慣だった。
ヤエさんの節電行動は、決して悪いものではないが、冬、暖房している家族にとっては、困った事態になった。
トイレヒーターのコードを抜く事件
ヒートショックのない部屋の作りとはいえ、トイレには戸があり、室温と多少の温度差がある。
冬、室内温度を15°Cから18°Cくらいにして、寝ていた。
要介護1、90歳のヤエさんが一人で夜中に、一度目のトイレに起きた時、狭いトイレが多分20°Cくらいで室温より高く、ヤエさんは便座に座った時に、トイレを暑く感じたのだと思う。
トイレヒーターのスイッチが、朝、切ってあった。
明け方6時頃が一番冷えるので、ヤエさんが2度目のトイレに起きたときに、トイレが寒いことを私は心配した。
私は、トイレのヒーターのスイッチを、紙コップの蓋の底の部分で隠した。
ヤエさんは、トイレのヒーターのスイッチが見えなくなったので、ヒーターとは反対側のコンセントから、コードを抜いた。
暖房便座のコードもコンセントが一緒だったので、便座は冷たくなり、トイレの水も流れなくなった。
認知症の方は、自分がこうしようと思った時の、それに向かっていく時の自己解決力がすごい。
徘徊が頻発するかたは、外に行こうと思うと、家族のほんのちょっとした行動の合間に、家を出て行くそうだ。
私は、元のヒーターの位置をの180度反対側に変えて、ヒータースイッチもコードコンセントも、便座に座ったヤエさんから、一番見えにくいところに、ヒーターを置いてみた。
90歳では、またまだ文字が有効だったので、文字でも「触らないでね」と、ボール紙に書いて頼んだ。
コンセントが見えないように、コンセントを文字の紙で覆った。
これで、ヒーターのコードを抜く事件は、解決した。
その後は、認知の退行で、次第にコードを抜く考えもなくなって、トイレ暖房を切る事件は起きなかった。
エアコンのコードを抜く事件
要介護3、91歳の夏、ヤエさんがエアコンのコードを抜いた。
エアコンのコードは、壁の高い位置にある。
ヤエさんはベッドに登り、壁からコード抜いて、エアコンを止めた。
エアコンコードの3点プラグは、簡単にさっと抜けるものではない。
ヤエさんが帰宅する前に、タイマーで稼働していたエアコンが寒かったのか、音がうるさかったのか、夕方一人で留守番している1時間のうちに、ヤエさんがエアコンコードを壁の高い位置にあるコンセントから抜いた。
足が悪いはずのヤエさんの行動力に、びっくりした。
そこで、トイレのヒーター同様に、コンセントをボール紙で見えないようにした。
コンセントとコードを、ボール紙に書いたお願いの文字で覆った。
ボール紙は折って高さを作り、コンセントから離れるように画鋲で取り付けた。
同様の状況は、介護施設のエレベーターボタンに、透明の蓋がつけてあることと、似ている。
我々は、透明の蓋を持ち上げて、必要な階を押す。
認知症の方は、透明のフタを開けることに、考えが及ばない。
私はふさいだ紙に、夏の「涼しく」だけでなく冬の「暖かく」も書いた。
さすが、にエアコンのコンセント位置が高いせいか、これは二度目は起きなかった。
まだ、文字も、ヤエさんに有効な時期だった。
温水ルームヒーターのタイマーを切る事件
要介護3、91歳の冬、今度は温水ルームヒーターの、タイマーを切る事件が、夜中に起きた。
夜中、ヤエさんがトイレに向かって歩いていくと、正面に温水ルームヒーターの緑色の時刻ランプが見える。
翌朝、暖房が入るように、タイマーを設定してある。
90歳、要介護1までは、そういうことはなかったが、91歳要介護3のヤエさんは、その緑色の時刻ランプを、暖房機のオン状態と考えて、毎晩切った。
赤い、「切」ボタンを押しても、緑の時刻表示は消えない、切ろうとして何度も何度も赤い切ボタンを押したらしい。
オンオフを繰り返されて、マイコンが一時的に壊れて、朝、私がスイッチを入れても暖房がつかなくなった。
この時、まだ私は、ヤエさんと別の階で寝ていたので、夜中のヤエさんのこの行動を知らなかった。
ヤエさんと同じくらいの認知の力がある方は、施設で様々にこういう行動が起きるのだと思う。
たまたまヤエさんは、自宅で毎日付き合う家族が決まっているので、ヤエさんが起こす行動の理由がわかりやすい。
施設では、介護士さんが交代で見るので、困った行動だけが大きく取り上げられ、理由の推測は5倍の時間と労力がかかる気がする。
夜中のヤエさんの行動を知らない私は、2度にわたって修理業者を呼んで、、室内機を修理に出し、室外機も調べてもらったが、原因がわからなかった。
マイコンの一時的な故障なので、コードをコンセントから抜いて初期化すると、1日後には復活した。
その繰り返しだった。
ある時、明け方、ヤエさんの様子を見に起きた私は、温水ルームヒーターの赤い切ボタンを押しているヤエさんと、ばったり出会った。
「あー、そうだったのか」と原因がわかり、ヒーターに大きな紙をかけて緑ランプが見えないようにした。
翌年は、夜間に新聞をかけておけば済んだ。
緑ランプが見えない、物理的な対応が一番効果的だった。
朝、タイマーで稼働するヒーターの背面の排気の関係も考えて、オンオフボタンだけを出しておき、緑ランプは見えないように小さな紙を横長に貼って使用した。
加湿空気清浄機についても、デロンギオイルヒーターについても同様にして、操作部分に紙を貼ってヤエさんに見えないようにした。
このボール紙と文字で隠すやり方は、要介護3の間、有効だった。
電気釜のスイッチを切った事件
94歳、要介護4、電気釜のスイッチを切る事件も起きた。
朝、ご飯が炊けていなかった。
やはりタイマーの緑ランプが、ヤエさんにとってはオン状態に思えたらしい。
そこですぐタイマーの緑ランプが見えないように黒い紙を貼った。
効果があった。
また、可能な限り、ヤエさんがデイサービスに行っていて、我が家にいない間に、タイマーでご飯を炊いた。
94歳の同時期、他のことでは、ヤエさんはトイレの場所がわからなくなった。
トイレを行き過ぎてしまうので、ボール紙のトイレの表示が、ヤエさんの目の前に飛び出るように、手前に貼った。
私もヤエさんと同じ部屋で寝るようにして、ヤエさんがトイレに起きると、私も起きて介助した。
95歳からは夜間リハビリパンツになり、つなぎパジャマで一晩中寝ているようになり、コンセントからコードを抜く行動はなくなった。
問題行動に終わりが来る
要介護1から要介護4まで、ヤエさんの節電行動とコード抜き事件が何度もあった。
97歳、要介護4の後半、ヤエさんから音声の言葉が失われ、テレビを見ても拍手や指差しで身振りに退行したころは、上記のような事件を起こす力もなくなった。
徘徊や暴力、強迫行為など、強い症状にお困りのご家族がいらっしゃると思う。
一概には言えないが、我が家の例では、3~4年でその症状も小さくなり、その行動もその力もなくなっていく気がする。
問題行動のトンネルも、きっと出口が来る。
そう思って、対処法を見つけて凌いで欲しい。
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