木村允彦の生活体と梅津八三の接近仮設からソーシャルスキルトレーニングを考える

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金沢のアカシヤこどものへやの木村允彦氏は、子どもも大人も皆、「一個の生活体」であると捉え、障害児と健常児という線引きをしません。

誰でも、生活を調整して暮らしている「生活体ということで同じ」だと言います。

一人一人が生活体

木村氏は、子どもや保護者に対して、深い敬意を持って係わっています。

アカシヤこどものへやのホームページトップを、お訪ねになってみてください。

http で S が付いていないので「安全ではありません」と出ますが、そんなことはない、安全なホームページです。

子どもたちに対する、深い尊敬の言葉が、ホームページのあちこちに書かれています 。

木村氏は、出会った初めに、子どもたちが持っている調整(こだわりなど)を、とても大切にします。

図の左の4つの木村氏の言葉は、アカシヤこどものへやホームページの「こどものへや開設の趣旨」から引用

木村氏は、子どもと一緒に、子どもの見ているものを探し、子どもの見ているものを見つめ、工作的な教材で見比べを提案し、子どもに選んでもらう、そういう係わりを丁寧に積み重ねます。

一人一人の子どもさんへ、見比べを提案する教材は、量といい質といい膨大なものです。

コロナが終息したら、是非皆さんも、アカシヤこどものへやを訪れて、考え抜かれた教材の数々を見てください。

金沢まで行けない方は、アカシヤこどものへやの教材 DVD を頒布してもらうことも可能です。

アカシヤこどものへや、ホームページメニュー左の、教材の項目をご覧ください。

猫のブログ「木村允彦の生活体」で知ったと、お書き添えください。

教材の全貌は、別に「こどものへや教材ライブラリィ」に収めてあるので、必要な方があれば、送料とDVD代金を負担していただいてお届けしたい。
このブログでも木村氏の「生活体」の考え方を紹介しています

相互障害状況(梅津1978)

梅津八三も、お互いに分かり合えない状況を「相互障害状況」と呼んで、一方だけに障害があるわけではない、と言いました。

「相互障害状況」の出典は、
➊『各種障害事例における自成信号系活動の促進と構成信号系活動の形成に関する研究ーー特に盲聾二重障害事例について』教育心理学年報 17集 101~104㌻ 1978年
❷『重複障害児との相互輔生 行動体制と信号系活動』第6章  盲聾二重障害事例への接近 79~85㌻ 1997年
❸『心理学ー梅津八三の仕事 第3巻 各種障害事例における自成信号系活動の促進と構成信号系活動の形成に関する研究 1978」 139~142㌻ 春風社 2000年

木村允彦氏も梅津八三も、「行動調整」というひとつの軸で、人を捉えています。

大人も子どもも、障害があってもなくても、我が家の猫の花ちゃんでも、皆等しく自分の行動を調整して暮らしている、ということです。

これこそ、バリアフリー、ユニバーサルデザイン、インクルージョンだと、私も思います。

付き合うとき、ご家族も私も、自閉症児、ダウン症児、なんて思って、係わっていません。

子どもたちと付き合う時は、一平君、聖也君、大剛君、研人君と、その個人名で付き合っています

どのお母さんも、子どもの暮らしぶりと行動調整を誇りに思っていて、「どんどん子どもの名前を出して使ってください。」と言ってくれます。

まだ、年齢の小さい子どもを育てる若いお母さんがたの参考になればと、実名でブログに投稿して良いと言ってくれます。

金沢のアカシヤこどものへやでも、のぶあき君、ゆきひろ君、はじめ君、ゆかりさんなど、実名で登場する子どもさんがたくさんいます。

係わるときの接近仮設

それでは、梅津八三や木村氏は、どんなふうに子どもに実際に接近するのでしょうか。

その時、頼りになるのが、梅津八三の「接近仮設」(仮設=かかわる時の足場=手がかり)です。

梅津八三が、こどもとの係わり方、人との係わり方を「現勢の保障➡共感と同行➡確定域の拡大➡踏み出し=革生行動」と、整理しました。

下の図は、梅津の言葉を左に、私の解釈を右に書いたものです。

図の左の「現勢の保障➡共感と同行➡確定域の拡大➡踏み出し=革生行動」の出典は、梅津八三『重複障害児との相互輔生 行動体制と信号系活動』第6章 盲聾二重障害事例への接近79~85㌻東京大学出版会1997年 ②梅津八三『心理学ー梅津八三の仕事 第3巻』「各種障害事例における自成信号系活動の促進と構成信号系活動の形成に関する研究」139~142頁春風社2000年

特に係わりの一番初めに、「現勢を保障する」という構えを持っていることが、重要だと私は考えています。

不安の強い子どもさんや、行動が激しい子どもさん、不登校の子どもさんなど、係わりが難しい子どもさんに係わる時に、頼りになる4段階の指標です。

誰でも、自分が今持っている考えが「いいね!」と認められ、自分の行動を「どうぞ続けて」と保障され、その行動に「一緒にね」と同行してくれる仲間ができ、「これだね!」と共感されれば、嬉しくてたまりません。

その満足の後で、「これをやってみよう」と提案されたら、つい、苦手なことにも新しいことにも踏み出してしまうでしょう。

そういう現勢の保障の上に、子どもの得意な領域を見つけて、確定域を教材によって拡大し、信号系を細やかにする工夫をすれば、これまで起きなかった新しい行動が子どもに起きるという、梅津の仮説です。

若い頃の私の仕事は、確定域の拡大から、踏み出しをねらう係わりが多かったです。

新しい踏み出しが難しい子どもさんに出会うに連れて、梅津の「現勢の保障」を大事に思うようになりました。

ソーシャルスキルトレーニング教材

通常学級の子どもたちは、新しい踏み出しの起きやすい子どもたちです。

ことばも書き文字も音声言語を持っていて、先生の音声の説明で社会ルールもわかります。

特別支援教育の対象になる子どもたちは、社会適応の常識の手前で、「現勢の保障」「共感と同行」が必要な子どもたちです。

木村氏の言う、こだわりを否定せず、「生活体として尊重して認めた」うえで、その子がまだ持っていない、新しい社会的行動を形成することが重要です。

「寝転ばないで」というよりも「疲れたのかな?暑いのかな?椅子に座って休んでほしいよ」や、

「走らないで」「登らないで」よりも、「歩いてね」「降りてね」と、伝えたいです。

社会ルールについては、音声だけのいい聞かせではなく、 填め板や身振り、 絵に描いて伝えるなどの工作的な教材が必要です。

お母さんや先生の脳内にある社会ルールや常識を、触れる教材・脳外の目で見える絵図にしたいですね。

文字や数の学習はもちろん、ソーシャルスキルと言われる社会的行動の形成について、梅津、中野、木村の考えを真似て、信号系に合うソーシャルスキルトレーニング教材を、以下の図のようにまとめてみました。

年齢が小さいほど、障害が重いほど、コトバ信号系が初期的なほど、内包対応のSST教材=填め板・磁石・身振り・絵に描いて伝えるなどの教材が要ります。

言い聞かせの音声言語は、最高級に難しい言葉なのです。

この図が、保護者の皆さんや、保育園・学校の先生方の、子どものソーシャルスキル教材を作る時の、参考になれば嬉しいです。

猫ちゃんブログの上部トップメニューのカテゴリー「ソーシャルスキル」をクリックすると、SSTの関連記事が、出てきます。

以下の記事で、TOSSかるたの具体例や購入先についても投稿しています。

行動調整のかるたTOSS教材

「教室の床に寝ないで、授業中は机と椅子で休んで欲しいよ」と絵カードで伝えたSST事例は、以下に投稿しています。

後日、事例の子どものお母さんから、「学校で、寝転ばなくなった」と、うかがいました。

言葉で伝えやすくする 画像を使ったコミュニケーションシートの作り方

猫ちゃんブログへのコメント

  1. こすもす より:

    猫ちゃん様
    今回のブログでも、猫ちゃんのお考えになった関係図が、大変理解しやすく、子どもと係わるうえでとても役に立ちました。
    『木村氏は、子どもと一緒に、子どもの見ているものを探し、子どもの見ているものを見つめ、工作的な教材で見比べを提案し、子どもに選んでもらう、そういう係わりを丁寧に積み重ねます。』
    と投稿されていたように、木村氏のように子どもと係わっていきたいと思いました。
    このコメントをしている「こすもす」と「Aちゃん」は、梅津先生のいう「相互障害状況」でした。
    猫ちゃんの「梅津八三の接近仮説の図」を参考に「こすもす」は、考えました。
    ①子どもの今の勢いを肯定する。
    ②子どもの興味に共感し同行する。
    「Aちゃん」は、人への関心が薄く、自分の身体を自己刺激していることが多いお子さんでした。おもちゃや教材は、渡すと放り投げていました。
    「こすもす」は、100円均一ショップへ行き、いろいろな感触のおもちゃやグッズを買ってきて「Aちゃん」と遊びました。
    ついに「Aちゃん」の好きなものを見つけました。
    ③得意を生かした教材を工夫
    そして、その好きなものを使った教材をいくつか作り、「Aちゃん」と遊びました。
    「Aちゃん」と、その好きなもの教材に取り組み、「Aちゃん」は、10個続けて容器に入れることができるようになりました。
    ④きっと新しい行動に踏み出す
    こすもすは、「Aちゃん」の好きなものでたくさん遊んだ後、「ちょっとこれやってみない?」
    と木で作られた図形のはめ絵を提示しました。
    「Aちゃん」は「こうだよね」と言わんばかりに、穏やかな表情で、4つの図形を入れ分けました。
    「こすもす」は、嬉しくて、嬉しくて、
    「これだね」「そうだよ」「はめられたね」「できたね」と言いました。
    猫ちゃんのブログに
    『そういう現勢の保障の上に、子どもの得意な領域を見つけて、確定域を教材によって拡大し、信号系を細やかにする工夫をすれば、これまで起きなかった新しい行動が子どもに起きるという、梅津の仮説です。』とあります。
    このように、これからも、教材を工夫して、子どもと係わっていこうと思いました。
    梅津先生、中野先生、木村先生の理論やお考え
    猫ちゃんのお考え、わかりやすいご説明と関係図、写真などの視覚情報をたくさん投稿いただき、ありがとうございました。
    byこすもす

    • 猫ちゃん より:

      こすもすさんへ
       猫の願い事が叶いました。
       梅津八三や木村先生、中野先生のお考えを伝達できたこと、大変嬉しいです。
       こすもすさんがAちゃんとなさったやり取りの経過は、まさに
        梅津八三の「行動調整、言葉の発生」
        木村先生の「生活体として尊敬し、その子のこだわりを尊重する」
        中野先生の「内包的対応関係の教材」
        そして猫の「教材づくりは取り掛かり易い100円ショップで始めたらいい」
       などを実践されたやり取りだと思いました。
       感覚遊びの確定域から填め板へ革生行動を起こした、Aちゃんの笑顔が目に浮かびます。
       そしてその行動が起きるように工作した、こすもすさんの笑顔も浮かんできます。
       うれしい実践報告のコメント、ありがとうございました。
                猫より

       

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