人は誰でも、言葉によって行動しています。
そり返り、かんしゃく、噛みつき、押し倒し、なども、行動という言葉です。
梅津八三は、言葉の発生の順序を「言語行動の系譜」にまとめました。
言葉とは
①泣く笑うなどの生得的な行動そのものが言葉です。
➡➁哺乳ビンなどの触れる実物も言葉です。
➡➂触覚や視覚で取り込んだ脳内イメージが言葉です。
➡④脳外の象徴的合図=表情・模型・写真・絵・身振りも言葉です。
➡⑤マーク「👀」=漢字「目」=文字「め」=音声「メ」のように、異なるものを結びつける脳内操作が言葉です。
音声の言葉をまだ話せない赤ちゃんも、触覚・視覚・聴覚などを使って、脳内イメージを豊かにしています。
おとなしくて寝てばかりいる赤ちゃんでも、世話をする人からの働きかけや応答が大事ですね。
やがて音声の土台の喃語が出て、ハイハイで欲しいものに接近するようになり、事実や要求を伝える指差しが出て、歩ける頃には音声の言葉を話すようになります。
言葉の発達が遅れている時
子どもの言葉の発達が遅れると、保護者や保育士などの世話者との間で、気持ちの伝達が難しくなります。
大人が上記の、梅津八三の言葉の発生の系譜をよく理解していれば、音声にいたる手前の言葉を注意深くキャッチすることが可能です。
言葉を話せない子どもも、イメージと考えを持っています。
イメージと考えを持っているので、大人が伝えてくる意味がわからないと、そり返ったり、かんしゃくを起こしたり、激しく泣いたりして、「わかりません」「困っています」という意味を行動で伝えてきます。
大人が、音声の言葉だけを使っていては、子どもに通じない期間があります。
子どもに音声の言葉がまだない時、大人は実物・模型・身振りなどを使って、大人の意図を伝達するようにします。
子どものそり返りやかんしゃくへの対応
感覚過敏があると、反り返りで「わかりません」「困っています」と伝達してきます。
保育園では、他の子どもの行動を目で見て、子どもは考えを持つことが多いので、音声の言葉の発達が遅れている子どもさんは、一番最後に誘えば良いと思っておきましょう。
みんながしていることを見て、真似してくれると思って、他の子どもの世話を先にしておきます。
訪問した保育園の1歳~3歳のクラスで、まだ音声の言葉のない子どもさんが、お昼のセットが入っているバッグを先生に見せてもらって、「席に座ろう」と誘われたのですが、泣き出して立ち尽くしました。
音声の提案「席に座ろう」「お昼を食べよう」「カバンだよ」などを、数秒間控えてみます。
先生は強制せず、見やすいように、バッグを机の上にデンと置きました。
バッグという実物が、「給食です。座りましょう」の言葉ですね。
9人のうちの8人全員が椅子に座り、バックから取り出した給食の身支度を先生と一緒にしています。
その子どもさんの赤いバッグだけが、机の上に目立っています。
10秒ぐらい経つと、その子どもさんは泣き止んで、自発的に自分のバッグに向かって歩いて行き、席に座りました。
先生が音声のプッシュを控え、実物の言葉を見せて待機し、仲間の模倣が起きて、かんしゃくなしに着席行動が自発しました。
実物のバッグという分かりやすい言葉と、自己決定による行動が、それ以上のかんしゃくを防ぎました。
感覚過敏があり、音声の言葉がまだない子どもさんに対しては、実物の言葉や、仲間の模倣、自己決定行動が大切なんですね。
噛みつきや押し倒しへの対応
子どもに不器用があり、音声の言葉の発達が遅れると、相手の立場に立てず、おもちゃの取り合いで、噛みつきや押し倒しが起きることがあります。
噛みつきや押し倒しのマイナスの行動に、大人は気を取られることなく、他の遊びの場面で、その子どもと運動感覚を満たしてたっぷり遊びましょう。
保育士さんと一緒に、ブランコ・トランポリン・三輪車・手押し車などで、身体を使って運動感覚を満たします。
その中で、力の調整を「100いっぱい」「0ゼロ、なーし、終わり、おしまい」などを根気よく、大げさな身振りと共に入力していきます。
「ちょっと」「優しく」「少し」などは、抽象的な言葉なので、子どもにとって難しいです。
100・50・0など数字を使って、抽象的な言葉を数値化して共有しましょう。
アンパンマンのくるくるチャイム・円柱さし・アンパンマンひらいてぴょこん・スリット通し・填め板パズルなど、目と手の協応のおもちゃ遊びが、運動感覚を満たし、先生とのやりとりを緊密にし、手の使い方を微細にします。
保育室も全員が一箇所で遊ぶのでなく、先生を中心に、2箇所3箇所に物理的にシートなど敷いて分けて、遊んでみましょう。
子どものパーソナルスペースは1㎡ 四方くらいです。
噛みつきや押し倒しのある子どもさんのそばに先生が付き、先生がその子と他の子どもとの間に入って遊び、誤解が生じにくいように物理的に工夫します。
万一、噛み付きや押し倒しが起きてしまった時は、被害者の子どもにコミュニケーションをとり、加害者の子どもには冷静に「しません」と言って、「かしてね」という良い行動や、「何々があるよ」と他の遊びを提案します。
噛みつきや押し倒しのある子どもさんが何を好きか、何に興味を持っているか、その子の好きな物を大切にして、好きなもので遊べるように配慮してみてください。
実物の言葉が子どもにわかりやすい保育環境
訪問した保育園は、1歳~3歳のクラスで、透明の帽子掛けケース、玄関の靴箱に用意された靴下ケース、腰を下ろして靴下や靴を着脱するときの長椅子など、子どもの行動の流れに沿って物理的環境が工夫された素晴らしい保育園でした。
透明の帽子掛けケースは、「帽子をかぶりましょう」「帽子をしまいましょう」の言葉と同じです。
靴下ケースは「ここに脱ぎましょう」「ここから履きましょう」の言葉と同じです。
手作りの長椅子は、「ここに座りましょう」の言葉と同じです。
実物が言葉の代わりになる、子どもにわかりやすい工夫ですね。
決まった位置にある物理的な道具は、記憶になりやすく、子どもの行動を起きやすくします。
保育士さんも、子どもの行動をよく見て、待機する、無理をしない、余裕のある保育をなさっていました。
透明箱に入れたスプーンが「お昼だよ。お部屋に入ろう」の合図
それでも大人は一般的に、言葉は音声だと思っているので、園庭遊びから給食へと切り替える誘い方が「お昼だよ。お部屋に入ろう」という音声の誘い方になります。
そこで私が介入して、透明ケースに入れたスプーンを「ご飯だよ」と見せると、まだ音声の言葉のない2歳の男の子が遊びをやめ、透明ケースのスプーンを取りに来て、手に持って、保育室に入ろうと玄関に向かって歩き出しました。
ご飯だよの音声は遊びを切り替えることができませんでしたが、スプーンの実物は給食の合図として非常に有効な言葉になりました。
このスプーンケースを数回繰り返すと、次はスプーンの写真の切り抜きで済むようになり、やがてはスプーンで食べる身振りで給食に移れるようになります。
大人のエプロンのポケットに入れておくと、合図として使えますね。
実物➡写真➡身振り➡音声という順序で、遊びから給食への切り替えを、大人から伝達すること、子どもが了解することが起きます。
そり返り、かんしゃく、噛みつき、押し倒しなどのマイナスの行動を止めよう・消去しようとダメ出しで係わるよりは、その子の好きな運動感覚を満たす遊びに一生懸命になること、子どもの言葉の発達を理解して、実物や身振りを使うこと、をお勧めします。
年齢が大きくなった子どもさんについても同じです
マイナスの行動に注目するよりも、感覚過敏と不器用を理解して、その子の好きな確定域で、たっぷりと遊んだり学習したりしましょう。
学習に身振りを使って記憶を助けたり、状況をわかりやすくする絵を描いたりして、話し合いましょう。
大人が身振りや絵を使うことが、子どもの脳内イメージと言葉の遅れを助け、子どもの落ち着きや他者心理理解を助けます。
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