心理学から考える子どもの行動と教材

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 子どもとかかわる時、理論を持たなくても、先人の教えを知らなくても、子どもの行動を理解できる天性の資質の方がいる。 

そうでない私は、どうしたら子どもの行動の意味が分かるか、子どもと楽しい時間を共有できるか 、かかわる時の理論の根幹を知りたいと考えてきた。

子どもと付き合う経験が少ない若い時ほど、そういうものだ。

梅津八三の行動理論を知ってかかわる

梅津八三という心理学者がいる。

現在の山梨県立盲学校で、日本で初めて、盲聾重複障害児に教育を行なった心理学者だ。

梅津理論は、行動調整法を説く。

人の行動を様々な座標軸から考える。 ()内は私の稚拙な解釈であり、私の力では未だ構造化されていない。

1.自己調整系の行動と相互調整系の行動(自分一人の行動と相手とやり取りする行動)

2.粗大な行動と微細な行動(大雑把な行動と丁寧な行動)

3-1  開放系の行動と自律系の行動(自分を開いて行く行動と閉じて休む行動)

3-2  接近行動と回避行動 (好んで近づく行動と避けて関わらない行動) 

4.救急行動と緩衝行動(パニックが起きる状態とパニックにならないように緩める行動)

5.確定域と不確定域(得意な領域と苦手な領域)

6.自全態と不全態(十分に展開し完了する状態と不十分な状態)

7.呪術と工作(「こぼさないで」のような言い聞かせとスプーンを平らにした物理的な工夫)

8.相互障害状況と相互輔生(お互いに分かり合えない状況とお互いに生かし合う状況)

梅津八三『心理学ー梅津八三の仕事 第3巻』春風社 2000年 「心理学的行動図」1976年(57~90頁)より

大学図書館に収蔵されている場合あり。古書専門店の間では現在20万円ほどで取引されています。

重複障害児との相互輔生: 行動体制と信号系活動|梅津八三

以上の座標軸は、どちらか一方が良い行動・悪い行動ということではなく、両者の間を人は粗大に微細に調整しながらその時々を行き来して暮らしているということである。 

そしてこれらの梅津理論は、赤ちゃんから高齢者まですべての人の行動に当てはまる。

人だけではない、動物全体に当てはまる理論だ。

子どもの行動に立ち会う時、梅津の考えを頭に入れておくといい。

梅津理論から考えると、それまでは奇異な行動に思えていた子どもの行動が、人間行動としてもっともな行動に思えてくるから不思議だ。

子どもの行動を単にいいか悪いかで見て行くのでなく、どういう理由で接近しているのか、どういう理由でパニックになっているのかが観察できるようになる。

梅津八三の理論『心理学的行動図』の正統的な解説については、中野尚彦の著書「障碍児心理学ものがたり」Ⅱ巻 第1章心理学的寓話 第4節行動の系譜(37~46頁)を是非参照されたい。

Ⅱ巻 第1章 心理学的寓話 第4節 行動の系譜(37~46頁)明石書店2009年

梅津八三の接近仮設でアプローチする

また梅津は、子どもへアプローチする時の接近仮設も説く。()内は私の稚拙な解釈。

1.現勢の保障(子どもの今の勢いを保障して見守る) 

2.共感と同行(子どもの興味関心を理解し、子どもの土俵で同じことをしてみる)

3.確定域の拡大(そうだね・これだねと確定を共有する。好きなことを拡大してやる)

4.踏み出し(確定の勢いと自全態により新しい場面へ踏み出す)

梅津八三『心理学ー梅津八三の仕事 第3巻』春風社 2000年 「各種障害事例における自成信号系活動の促進と構成信号系活動の形成に関する研究」1977年の(139~142頁)から

前回の投稿で書いた菅井裕行氏の水道水の泡の話は「コップの水入れを繰り返す現勢の保障」「コップの水入れを一緒にやってみる共感と同行」「綺麗な音だねと言う確定」がある。

前々回の投稿で書いた大谷幸雄先生のぺたんこのスプーンは「表裏を区別しないたかちゃんのスプーンの使い方でいいという現勢の保障」「先生が金槌でスプーンを平らにしたアイディアによるたかちゃんの食事への踏み出しの継続」がある。

私もここ25年ほどは、梅津の接近仮設を子どもとのかかわりで意識している。

中野の「確定共有」で教材を工作する

私の仕事の出発点が、大谷幸雄先生のぺたんこのスプーンであることは前々回の投稿に書いた。

子どもの行動をよく観察して、教材を改良変更することで子どもの行動が変わる。

数百点の創作教材を開発した中野尚彦の教材理論がまさにそれだ。

填め板という教材がある。

丸い木片は丸い穴に入り、三角の木片は三角の枠の中に入る。

丸や三角という言葉を言えなくても、「これはここだね」「これはここだね」 と2種類の木片が填まる瞬間に2人が立ち会い、「ヤッター!その通りだね!」を共有する。

それを中野は「確定共有」と呼ぶ。

梅津八三が山梨県立盲学校で盲聾二重障害児しげ子さんとただおさんの二人に実践した教育方法だ。

しげ子さんとただおさんの教育は、丸・三角の填め板から出発し、音声を出したり、点字作文を打ったり、連立方程式を解いたりするところまで成長した。

「丸は丸に、三角は三角に、そういうふうに丸と三角を分けるというところから、言葉というものが生まれる」と中野は言う。

分類対応
一対一対応

分類と見本合わせ、それが言葉を育てる教育の基本だという。

填め板に 透明蓋で 線図形へ移行する
見本合わせ 填め板 不透明蓋で線図形カードへ移行する
一対一対応 小型の薄い填め板から 線図形カードへ
見本合わせ 線図形タイルから 線図形カード重ねへ

確かに、人は赤ちゃんから高齢者まで、毎日、分けることと比較照合することを繰り返し生活している。 

大谷幸雄先生のぺたんこのスプーン、中野尚彦の「確定共有」の教材理論、後に梅津八三の行動調整法と接近仮設が加わって、今の私の心理学的な仕事がある。

次稿からは、初期学習、概念形成の教材の系統性、言葉の発生の系譜について、先行研究を紹介します。

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 病院小児科で臨床発達心理士をしています。
 梅津八三の心理学、行動調整法、子どもの行動理解、育児、教材、ソーシャルスキル、介護、猫の行動について投稿中です。

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