通院の時の車をどうするか?
ヤエさんが杖で楽に動けるうちは、通院や買い物時の、福祉車両を考えたことがなかった。
介護タクシーも、実際に見たり利用したりする経験もなかった。
ヤエさんが83歳で認知症の診断を受けた時は、一点杖でどんどん歩けた。
私は、トヨタのパッソに乗っていた。
ヤエさんの歩行が次第におぼつかなくなる中で、自家用車は何にすべきか漫然とした不安はあった。
介護12年目、ヤエさん95歳、要介護4の時、パッソの買い換えになり、この時初めてパッソの福祉車両を考えた。
パッソの助手席が、車外に出るタイプの福祉車両を選ぼうかと、ギリギリまで迷った。
しかしヤエさんは、私の介助があれば、自力で助手席へ乗り込むことがまだできていたので、私が先の見通しを持っておらず、決心がつかなかった。
今振り返れば、この時パッソの助手席が車外に出るタイプを、選んでおくべきだったと反省している。
準備は、早い方がいいのだ。
ヤエさんは、96歳から急に運動機能も認知も退行し、97歳ではデイサービスの車に乗るときに計画が立たず、あらぬ方向を見ていて、乗降に時間にかかった。
車に乗り降りする時の、運動手順の認知・言語化が、ヤエさんになくなった。
左手でドアに捕まって、右手をダッシュボードに置いて、右足を上げて、お尻をつけて、 左足を引き込んで乗る、という計画がもうできなかった。
車の助手席のドア寄りの、フロントAピラーに、乗り込むときの取っ手がある車がいいなと、切実に思った。
97歳のヤエさんは認知の退行だけでなく、片足で立つような運動能力も退行していた。
1分から2分、車のドアにつかまったまま、車の往来を指さして、注意がそれていた。
注意を向けた方が良いものに、注意を向けられないのは、 ADHD の子どもだけではない。
我々も認知症になれば、こうなる。
ホンダN-Box スロープ仕様車のススメ
ある時、ヤエさんが送って来てもらったデイサービスの送迎車に、車椅子の利用者さんが後方に乗っていた。
ダイハツの軽自動車、タントの福祉車両だった。
ダイハツフレンドシップシリーズに、タントスローパー、アトレイスローパーなどがある。
いつか我が家も、福祉車両利用の日が来るかもしれないと思い、ダイハツタントを頭の隅に登録した。
スズキの軽自動車WITHシリーズにも、スペーシア、エヴリィ等の車種に福祉車両があるそうだ。
まずは皆さんが乗り慣れている車に、福祉車両があるかどうか、ネットやスマホで見ておくといい。
ヤエさんを車椅子ごと乗せる車両が、本当に必要だと感じたのは、ヤエさんを病院から退院させ、自宅へ連れ帰る時だった。
グループホームに連れて行く時は、私の介助で、パッソの助手席に乗ることができた。
しかし40日後、病院を退院させる時、ヤエさんをパッソの助手席に乗せることが私一人ではできなかった。
車椅子のアームを、両手で押して立つ立位の力が、2ヶ月の寝たきり生活でヤエさんからなくなった。
全力でヤエさんのお尻を抱えて、やっとの思いでヤエさんを助手席に乗せた。
看護師さんが見送りに来たり、車椅子からの移乗を手伝ってくれることはなかった。
4週間の入院中は、点滴で解熱して寝かされているだけで、立位等のリハビリは一つもなかった。
毎日、午後、私が車椅子に移乗させて、病院内を車椅子で何時間も散歩しただけだ。
2ヶ月、寝たきりだったので、ヤエさんはもう立てなかった。
自宅に戻り、介護認定で要介護5になった。
この時初めて、ヤエさんを車椅子ごと乗せる福祉車両が、絶対に必要だと思った。
退院2週間で、ホンダN-Boxの購入を決めた。
自治体から、福祉車両の購入に10万円の補助金が出ることを、ケアマネさんに教えてもらい、すぐに見積書とともに、事前申請手続きをした。
車両購入の後で、領収証とともに事後申請をして、10万円が振り込まれた。
福祉車両は、器具の取り付けに時間がかかるのか? N-Boxが4月に新発売されたばかりだったからか、納車に2ヶ月かかった。
6月はじめに注文したホンダN-Boxスロープ仕様車が、8月に納入され、ヤエさんは10月までの2か月で、わずか10回利用した。
N-Box スロープ仕様車は、車椅子の乗降が電動でできるタイプにした。
介護者の押す力の負担が少なく、とても良かった。
自治体には、福祉車両のレンタル制度もある。
しかし借りたい時は、事前に遠方の福祉車両車両場まで申請書類を書きに行き、当日借りに行き、済んだら返却する、ヤエさんの通院の他に、車を借りるために3回足を運ばなければならない。
ほかの自治体も、みんなそうなのだろうか?
予約の電話で、当日借りて返却すればいいのではないか?
自宅に貸し出し、車両を届けてくれるサービスがあってもいいくらいだ。
介護で疲労している時は、こういう申請手続きの事情に本当に心が折れる。
3回、足を運ぶ気力が起きない。
気力を物理的なもので補うために、我が家は福祉車両を購入した。
私は、駐車場から玄関前へ車を移動させるだけで、ヤエさんを乗せることができる。
ヤエさんも、玄関前から車椅子ごと乗降できる。
福祉車両には、車椅子が乗降するスロープがついている。
我が家は玄関に2段の段差があったため、その2段を車椅子で乗降するケアスロープを毎月600円の介護保険制度で借りられた。
コンパクトに2つ折りできて、軽く邪魔にならず、とても便利だった。
物理的な工夫は大事で、介護の疲労を軽減すると思った。
自動運転はイライラを少なくさせた
余談だが、ホンダN-Box には、ホンダセンシングという自動運転装置が完備されている。
ブレーキアシストや速度アシストが、運転を非常に助けてくれる。
自分でアクセルを踏んでいると、渋滞にイライラする。
自動運転に任せると、運転中、イライラしなくてよい。
自分でアクセルを踏まず、機械に任せていると、穏やかな運転になる。
これなら、煽り運転はなくなると思う。
自分の足と気持ちが入り込まずに、機械任せになれる。
ヤエさんの病院に、毎日往復110 km パッソで走っていたころに、N-Box にしておいたら、アクセルを踏み込む私の足がもっと楽だったのにと、買い替えが遅すぎたことを反省している。
ヤエさんの病院へ通った28日間で、3000 km 走った私の太もも後ろの筋肉疲労は、その後、痛みが取れるのに1年かかった。
N-Box にするのが遅かったからだ。
機能の維持か? 楽な介護か?
在宅介護の14年目には、認知が退行したヤエさん97歳を通院させることも、私は億劫になっていた。
12年目のころに、ヤエさん95歳が車の助手席に楽に乗降できるうちに、福祉車両にしておけばよかった。
介護に初めて出会うときは、経済的な事情も関係して、いつもギリギリで決断していたから、苦しかった気がする。
ヤエさんの運動機能を失うまいとして、車椅子や福祉車両を先送りしていた。
ヤエさんにも負荷をかけ、自分にも厳しい介護が続いた気がする。
楽な在宅介護をするためには、物理的な道具の早めの決断が必要なんだと、過ぎてからわかる。
今、在宅介護の渦中にいる方は、道具の採用に迷っていたら、ギリギリになってからよりも早めの決断をされることをお勧めする。
介護保険制度が予防の役割を意識して、利用者に潤沢な支援をしてくれると、物理的な工夫で在宅介護は楽になる。
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