教材No.11-1 描画の発達
描画の発達について、中野尚彦は、「障害児心理学ものがたり小さな秩序系の記録Ⅱ」(2009年明石書店)の第1章「心理学寓論 第6節 確定域」(57~61頁)に詳述している。
是非、ご一読いただきたい。
あらすじを載せれば、『子どもは世界万国共通で、ある時期、おたまじゃくし人間を描く。次にグシャグシャという殴り描き、グルグルも描けるようになる。そして風船のような丸と棒の運動の痕跡を描く。このおたまじゃくし人間に、あらゆる家族の名前をつける。これは僕、これはママ、これはパパ、これはにゃんにゃん、これはわんわん、という具合に、おたまじゃくし人間を膨大に描く。子どもが「再現性」というものを獲得するのだ。また、中野によれば、描画の発達の他に、子供は音素を獲得し、ついで意味素を獲得し、さらに文を獲得するという。描画も構成信号であり、言葉も構成信号である。そしていずれの発達も、共有する相手との確定が重要だ』と述べている。
「障害児心理学ものがたり小さな秩序系の記録Ⅱ」(2009年明石書店)の第1章「心理学寓論」第6節”確定域”(57~61頁)
教材No.11-2 獲得と退行
6歳まで音声の言葉のなかったかなちゃんが、7歳でひらがなを獲得し、音声が伴うようになった。
音声が出るようになる直前、かなちゃんは、かな文字を書きながら、唸るということが目立った。
かなちゃん自身は、無意識だった。
これは、書くという運動に伴った音だった。
手で文字を書きながら、かなちゃんはウーウーと、喉で唸ることで、その文字の軌跡と音を獲得していった。
唸りが1年近く続き、ひらがなを獲得したかなちゃんは、言葉を喋る人になった。
かなちゃんと同様にに、97歳のヤエさんが、何でもない時に、時々唸るようになった。
本人に自覚はない。
大声ではないので、耳障りというわけではないが、入れ歯が合わないのか、何か言いたいことがあるのかと問いかけてみたが、本人は唸っていたことにも気づいていない。
ヤエさんが手持ち無沙汰なとき、小さく唸ることは半年ほど続いた。
そしてヤエさんは、ほとんど喋らない人になった。
かなちゃんの発達とは逆の順序をたどる、脳の言語中枢の退行が起きている気がした。
ヤエさん97歳要介護4は、牛乳を要らないと言えなくなったから、牛乳をまけて、意思表示した。
ヤエさんは、「色で分けて箱に入れる」ができなくなり、ただ単に片方の「箱に入れた」。
ヤエさんは、文字をなぞれなくなった。
ヤエさんは、意味を取れないから文字全体が書けなくなった。
かなちゃんは唸る運動と共に文字と音を獲得し、要介護4になったヤエさんは、文字と音をなくして唸る運動が残った。
かなちゃんは障害児と呼ばれ、ヤエさんは認知症と呼ばれるが、呼び方はともかく、人に共通して起きる「発達と老化」だと思う。
いずれ私も、脳が萎縮すれば、老化でそうなる。
教材No.11-3 丸と棒が描ければ、色々と描ける
描画の力は、ことばの力に関係する。
描画の力も育てたいと思えば、やってみるしかない。
太いホワイトボードマーカーが持てるようになり、描くことに興味を示したら、親子で、先生と、並んでたくさん描くといい。
おたまじゃくし人間、なぐり描き、ぐるぐる描き、一重丸を描く、大きい丸と小さい丸、顔を丸だけで描く、など。
「シャー」「スーッ」「ザーザー」と、大人が擬態音をつけて、見本の直線を描く。
「グルグル」と、丸を描く。
「テンテンテンテン」 「チョンチョン」と、点を描く。
線をとめる、長い線と短い線、丸と直線で色々なものを描く、点つなぎなど。
力を入れて塗りつぶすことも、経験できるといい。
描画は、実物の再現だから、再現するときに、言語概念が形成される。
教材No.11-4 なぞり描き模倣
保育園・幼稚園や小学校で、絵が苦手な方は、トレーシングペーパーでなぞり描きをすると良い。
キャラクター・家族・場所・花・木・友だち・遠足・プール・運動会などの写真をマジックでなぞった線画を描いて与え、写真を見せてイメージを与え、線画の上をトレーシングペーパーでなぞり描きしてもらう。
描くこと教えない保育園もあるが、描画が苦手な子どもについては、なぞり描きをさせてもらえるといいと思う。
自由な発想で自由に描けというのは、力のある子どもの場合だ。
なぞって、真似して、描き方を獲得していく子どももいる。
平板だったコップや、平板だった家が、いつ立体的に描けるようになったのか、私の場合は先生に習ったか、友達の真似で、そう描けるようになった気がする。
自分の実力や、自分の発想には、なかった。
三角や四角やひし形が描きにくいときは、なぞりがきのように正答を教えるやり方も十分行ない、次は頂点を描いてやり、点つなぎで練習するとよさそうだ。
割りばしで三角と四角を構成してからでもよい。
以上のような描画の土台があることで、ひらがな文字・カタカナ・漢字を書けるようになる。
教材No.11-5 音声の言葉の発達
「うちに子も、話せるようになりますか」と、お母さんたちに聞かれる。
「音声のことばが出るには、たくさんの運動が必要です」、とお母さんたちに話す。
①歩行できる、平均台や自転車に乗れるようなバランス、などの身体運動機能の促進
②ケンパ、ラジオ体操、お遊戯の模倣、縄跳びなどの身体粗大組み合わせ運動の促進
③払う、離す、握る、捨てる、持つ、取る、拾う、滑らす、入れる、はめる、合わせる、重ねる、並べる、つまむ、回転させる、裏返す、たどる、塗る、などの手指の微細運動
④笑う・泣く・吸う・はく・吹く・なめる・舌打ちする・食べる・飲む・噛む・奥歯で噛む・硬いものを噛む、などの口腔運動の促進
口で吹いてボールを浮き上がらせるおもちゃ(呼気統制)
⑤口形の模倣が起きるには、子どもの側に、相手をじっと見る、相手の口元を見る、喃語が出るなども必要。対する大人は口の動きを口紅で目立たせたり、向かい合って模倣させたり、二人並んで鏡の中で模倣させたり、写真やビデオで模倣させたりすることも必要。
音声はやさしい順に、
・口を開く音「ア」「ハ」
・口を閉じる音「オ」「ホ」(口角を広げるイ段・エ段は難しい)
・口を結んでうなる音「ン」
・唇を閉じる音「パ」「マ」「バ」
・口唇を突き出す音「ウ」「フ」「プ」「ム」「ブ」
・2つの口形で1音を作る「ワ」は一端 ウの口形を作ってから「ウワ」「ヤ」は一端 イの口形を作ってから「イヤ」
・舌を使う音タ行・ナ行・ラ行・ダ行
・歯と歯の間から音を出すサ行・ザ行
・のどを硬くする音カ行・ガ行
となる。
⑥発音しやすそうな単語例
・アーア、アッアッアー、アイ、ハ、ハイ、アオ、ホン、パパ、パン、パイ、パイパイ、ママ、マンマ、メ、
・バー、バーバ、バイバイ、フーフー、ブ、ブーブー、ブンブン、ワンワン、
・アッタ、ナイ、ナイナイ、イナイイナイ、イタイイタイ、ポン、ポンポ、ポイ、など
⑦・トランポリン・ボール投げなどの身体運動に伴って声が出る
・指差し・首でのYesNo・手を出すときのちょうだいなどの要求に伴って声が出る。
・動作の直後にことばが出る。
・実物、写真、絵、マーク、身振りサイン、数字、文字、単語を見てことばがでる。
・ひらがな50音がわかり、トーキングエイド・iPadかなトークのような、液晶画面文字表示同時音声翻訳機を使って話す。エイドやパソコンキィを押す運動と共に、音の分化がいっそう促進される。
「かなトーク Plus」をApp Storeで (apple.com)
・ソニーのトーキングプレーヤーも大人気だったが、全国的にはマイナー商品なのか生産されなくなった。後継にソフィア教育研究所の録音できるポップアップイングリッシュプレイヤーを使った。しばらくして録音機能のない再生のプレイヤーしかなくなってしまった。
⑧音の発達のチャンスは3回以上ある
1回目は音を耳で聴いて憶えて音を使うとき、
2回目は目で見える文字を憶えた時に一音一文字対応で音が生まれるとき、
3回目は手の運動によってキーボードを叩いたり鉛筆で文字が書けたりするとき。
母音の口形、子音の構成の苦手な方がいることがある。
滲出性中耳炎などで軽度の難聴がある場合もある。
口角の開閉運動が難しかったり、長音・促音・拗音の表記が難しかったりする。
以上のような条件の違いがあっても、描画の発達も音声の発達も、 10代の時だけでなく、20代30代でも発達の可能性がある。
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