統合保育で保育園に通う、音声のない自閉症スペクトラムの子どもさんの、自傷の場面を2回見ました。
1回目は、椅子取りゲーム「フルーツバスケット」のルールがわからなかった時、2回目は初めての給食当番を音声言語で誘われた時でした。
2回とも、私が直接その場で、その子どもの支援に回らせてもらいました。
子どもの自己決定を尊重すること、実物を言葉として提供すること、の2つで自傷はやみました。
子どもの行動を言葉の発達のレベルで考える
梅津八三によれば、言葉の難易度は、音声➡絵や身振り➡実物の3段階になります。
音声が最も難しく、実物が最も分かりやすい言葉です。
①「音声」指示を理解して、脳内にイメージして、行動することが一番難しい。
ゲームのフルーツバスケットとは、「りんご」「バナナ」「みかん」「メロン」「いちご」「ぶどう」「フルーツバスケット」と言われたら、別の椅子に移動するというゲームです。
座れなかった最後の一人が、次の「くだもの」の指示を出す役になります。
フルーツバスケットのルールが分かるには、4~5歳のことばの力が要ります。
➁次に、友だちの様子を「目で見て真似て」、自発的に同じように振る舞うことが難しい。
友達と同じようにやりたいという気持ち、および2~3歳の言葉の力が要ります。
自閉症スペクトラムの子どもさんは、広い空間、多方向から一度に交わされる大勢からの情報、聴覚過敏による賑やかさが苦手です。
うるさい状況では、耳を押さえたり、目をつむったりしている自閉症の子どもさんを見かけますね。
③最も分かりやすいのは、実物という言葉による指示です。
保育園で、この子どもさんは、沢山の実物が、沢山の合図の言葉になっていました。
通園バッグを見せると、通園バッグから、給食のお箸セットを、出し入れすることができる。
お箸セットを自分の机に置いて、椅子に座って待つことができる。
清潔セットの袋を見せると、歯ブラシを取り出して口に入れることができる。
水筒やコップを渡すと、口に水を含んで、飲むことができる。
トイレに行くと、足首までズボンやパンツを下ろすことが出来、便座に座って排尿が出来る。
これらはすべて、保育園の先生が、1年近くかけて作ってきた応答の行動の力です。
実物を出されて、意味がわかると、他の子と同じように、すんなりと行動しています。
しかし、フルーツバスケットと給食当番では、それが難しかったのです。
音声の言葉のない自閉症の子どもさんと関わる時に大事なこと
我々が伝えようとしている指示の意味が、本人に分かったのかどうか、指示の後の行動を、本人の自己決定に任せて待つことが大事です。
果物の名前で動く、フルーツバスケットで動く、というルールは、首から下げたバナナのカードではわかりませんでした。
友だちのカードや友だちの移動を見ても、その子どもさんには、いつ椅子から動くのか?というルールが分かりません。
友だちの音声の合図で、席を立って、空いている席に動くように、先生がその子どもの後ろから身体に触って促すと、椅子を立たされる意味が分からなくて、後ろからの接触の3回目に、おでこを床に打ちつける自傷が1度起きました。
意味が分からなくても、2回は我慢していたのです。
2回とも、少しうなっていました。
その子どもさんが状況をどう理解しているか、子どもの側に立って考えないと、この小さなうなりは聞き逃してしまいます。
フルーツバスケットに参加させたい、皆と同じようにさせたい、その思いが強く、小さなサインを見逃すと自傷が起きます。
子どもさんと先生のそばに行って、私から先生に以下のように伝えました。
まずは、この部屋にみんなと一緒にいられること、それだけで素晴らしい適応です。
しかもこの賑やかな状況の中で、自分の椅子に座っていること、移動しなくてもそれだけで十分素晴らしいです。
「ルールが分からない」と、最も緊急な SOS で教えてくれたこと、それもその場での先生への意思の表出です。
子どもの前へ回って、私が下から手を出して、立ってくれるのかどうか自己決定を待つと、手をつないできて、自己決定で立ってくれました。
行動がゆっくりなので、空いている椅子に座れず、一番最後に残ってしまい、2回続けて私と一緒にフルーツバスケットの鬼の役(私が代わって発話)をしました。
それでももう、自傷は起きませんでした。
「先生と手を繋いで、椅子を移るらしい」
その子どもさんは、フルーツバスケットのゲームのルールは分からなかったが、普段から手を繋いでくれる先生への信頼から、私とも移動することが起きました。
初めての給食当番は実物のことばで指示が伝わった
給食を楽しみにしているその子どもさんは、通園バッグからお箸セットを取り出して、自分の席に置いて、にこやかに給食を待ちました。
そこへ「お当番だよ」という音声指示がやってきました。
その子どもさんはすでに、お箸セットを置いて椅子に座れば、給食を待つだけといういつもの予定を持っています。
音声指示では、給食当番の意味が分からず、先生に手を引かれて移動する時、床におでこを打ち付ける自傷が起きました。
「この椅子と机の場所で給食を食べられるはずだ、どうなってしまうんだろう」という気持ちだったと思います。
給食当番の意味を伝えるのに、実物の言葉がいくつか必要だと思いました。
お当番の意味のエプロンと、配膳の意味のお盆です。
先生から、実物の言葉の合図として、給食の白いエプロンを貸してもらいました。
いつもの椅子に着席したまま、この子どもさんにエプロンを着せてみると、素直に着てくれます。
子どもを給食の配膳台まで引っ張っていくのでなく、配膳のための空のお盆を、その子の机の所に持って行ってみました。
そして、安心のためのお箸セットを、空のお盆の端っこに載せました。
このお箸セットが手元にある限り、「給食にありつける」と思って、安心して私と一緒に移動してくれます。
その子にお盆を持たせ、私がご飯やみそ汁を載せて、横に並んで手伝って、一緒に配膳して歩きました。
1度もうなる事なく、配膳を終了し、席について、嬉しい給食になりました。
この子どもさんの給食当番には、実物の言葉であるエプロンとお盆が必要です。
何回か、お当番を経験するまでは、大切なお箸セットを肌身離さず手元に置いて、お当番をやり切る間の安心の材料にします。
梅津八三の言葉の発生の系譜
遠城寺式発達検査をチェックすると、この子どもさんの発語レベルは1歳0ヶ月でした。
1歳0ヶ月で、「フルーツバスケット」と「給食当番」を音声で理解することは難しいです。
参加には、給食当番で提供したような、エプロンとお盆という実物の言葉が有効でした。
子どもの言葉の発達年齢を考えて、子どもの分かる実物の言葉を使う、実物で指示の意味が分かれば、子どもの自傷は防げる、そんなことを学んだ保育参観でした。
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