人はたいてい、何かにこだわって暮らしています。
この車が好き、この服が好き、このタオルが好き、このおもちゃが好き、このゲームが好き、この食べ物が好き、この飲み物が好き、などです。
みなさんも、これだけは譲れないという、好きなものへのこだわりを、何かお持ちだと思います。
人間の五感を保障する、快感を保障する、快に対するこだわりですね。
電化製品などは、快適と便利が一緒になったものではないか、といつも思っています。
だから、快感やこだわりが、悪いものには思えません。
大人も快適さの追求から、商品を開発して、消費経済を回しているんですよね。
自閉症スペクトラムの子どものこだわりの理由
自閉症スペクトラムの子どもたちは、同一性の保持や、快感を満たすことを求める、こだわりの強い子どもたちです。
どうして快感を満たしたいのか、どうしてこだわるのか、というと、理由は、自閉症スペクトラムの子どもたちの感覚過敏の強さにあります。
我々の10倍も100倍も感覚が過敏なため、それを自分で守ろうとして、快適さにこだわります。
なので、自閉症スペクトラムの子どものこだわりは、全面的に保障してあげることが、係わりのスタートには良いです。
初対面の訪問で、甘いカフェオレを出されるより、好きなブラックコーヒーを出される方が私は嬉しい、皆さんもそんなこだわりはありませんか。
こだわりは確定域
こだわりの象徴に、スヌーピーに登場する「ライナスの毛布」というのがあります。
ライナスは、いつも毛布を持ち歩き、それで安心して、次の行動ができるのです。
子どものこだわりに、「トミカだね、バスがあったね、パトカー、好きだもんね。ショベルカー、かっこいいよね。」といつも共感してみてください。
分かってもらえたと思って、子どもから笑顔が溢れます。
人と人とが贈り合うプレゼントなども、好きなもの・欲しいものの交歓ですよね。
自閉症スペクトラムの子どもさんのこだわりは、係わりや学習の糸口にもなります。
心理学者の梅津八三が「確定域」と呼んだ、子どもが最も得意とする領域で係われば、目を見てくれたり、横並びで遊んでくれたり、心を許してくれるようになります。
引きこもりの方と付き合うときも、その方が何が好きか、その趣味の同行者になると、信頼を得られるようになります。
快感を保障してくれる、快感に寄り添ってくれる、快感を他へも少し拡大してくれる、そんな係わりかたが、自閉症スペクトラムや引きこもりの方たちの生活を楽しくします。
学習についても、子どもの好きなキャラクターなどから、絵も文字も文章も、数もお金も計算も、取り組んでくれるようになります。
好きなものが壊れたり無くなったりして困った時は現勢の保障と同行
大人は品物が壊れたり、好きな商品が販売終了になったりするという状況を知っていて、諦めることができます。
子どもはそれらの経験を積んでいないので、大好きなものが急になくなったショックに、激しい執着、こだわりを見せます。
その時、諦めさせる側から一生懸命言い聞かせても、子どもには伝わりません。
諦めたくない子どもと、諦めさせる大人とでは、180度正反対のアプローチになります。
目の前の子どもは、諦められずに泣いたり怒ったりするので、大人は諦めさせようという努力を一旦棚上げし、目の前の子どもの困り感と不安に同行します。
頼りにするものがなくなってしまった現勢の保障と、不安な気持ちへの同行が大事なので、壊れて無くなってしまった状況を、一緒になって残念がる同行者になります。
例えば、以下のように「あなたの気持ちを分かったよ」という言葉をかけます。
「困ったね」「つらいね」「悔しいね」「どうしたらいいのかなぁ」
「探してみよう」「直してみよう」「お店で修理してもらおう」
「売っているかどうかお店に電話して聞いてみよう」「売っているかどうかお店に行ってみよう」
「壊れてだめだ、これはもう無理だ」と、大人の脳内の結論を音声で伝えるのでなく、「困ったね、どうしよう」に共感して、一緒にあちこち動き回る行動の中で、子どもはようやく無理らしいという体感ができるようになります。
子どもさんの年齢や、こだわりの強さによっては、いくつものお店を親子でハシゴしなければならない状況になるかもしれません。
お店に行くまでは、上記のたとえの言葉で、子どもの不安に寄り添い、お店を引き上げる時は「なかった」「残念だね」と言ってみてください。
大好きなお母さんに「諦めろ諦めろ」と言われるより、行った先のお店で「ありません」「販売終了です」「生産終了です」「後継機種はこれです」と言ってもらった方が、子どもには状況が分かります。
「ざんねん」の経験
いくつもお店を見て回るような現勢の保障と同行が十分なされれば、次の段階「ざんねんだね」「あきらめよう」「切り換えよう」に進めます。
子どもさんの年齢や、自閉症スペクトラムの重症度によって、切り換えには何年もかかったり、諦めることが難しくて自傷や強迫性障害が激しくなったりする場合もありますが、「ざんねんだ」という切り換えにアタックしていきます。
例えば、子どもの大切なゲーム機が壊れたとき、ビニール袋や透明ケースに入れて、その上にマジックで「ざんねん」と大人が書きます。
子どもさんによっては「すきだった」「こわれた」と書いたほうが、子どもの気持ちに寄り添えるのかもしれません。
いくつものお店を回った後ならば、子どもさんは好きなものが手に入らない状況を納得できます。
その手に入らない状況を納得する言葉が、「ざんねん」「生産終了」「あきらめる」「切り換える」などです。
以上を想定しておくと、万一の時の心の準備ができて、お母さんも少しは安心だと思います。
目の前の子どもが泣き叫んでいる、怒っている時、どうしたらいいかわからないことが、お母さんにはつらいですからね。
探索に十分同行して「ないのだ」という実感を徐々に形成していく
私は自分のお気に入りの品物があると、全く同じものをいくつも買います。
今使っている1つがなくなったら次を買えばいいのに、気に入った商品がなくなってしまうことが嫌で、いくつも買うのです。
私はこだわりが強いです。
同一性の保持、快感の保障、こだわりが激しいです。
自閉症スペクトラムの子どもたちが、こだわる気持ちが分かります。
私も理想のものを散々探し回って、ないとようやく諦めます。
徹底的な探索なしには、諦められません。
ゲーム機が壊れてしまった、好きな T シャツが小さくなって着られなくなってしまった、大切な毛布がボロボロになってしまった、その時は、同じもの探しと似たもの探しに、同行してあげてください。
探索に同行する中で、諦めが生まれ、「ざんねん」が少しずつ形成されます。
こだわりを切り換えられない状況に対応する事前の想定
子どもさんの激しいこだわりに一度出会ったら、次回の緊急事態に備えておきましょう。
自閉症の子どもさんは、壊れる・なくなることを、大人のように言葉で前もって想定できないのでつらいのです。
故障を想定できる大人は、子どもの不安とこだわりに対して、落ち着いて対応できます。
①お気に入りの期間は、1週間か、1か月か、その子どもさんによるかと思いますが、お気に入りのハンカチ、お気に入りの毛布、お気に入りの靴下、お気に入りの T シャツ、などができたら、すぐに同じものを買いに走ります。
衣類だったら、ワンサイズ上のものを購入しておくと、さらに良いかもしれません。
自閉症スペクトラムの子どもはピッタリするものが好きだったり、ゆるいものが好きだったり、子どもによって感覚の過敏さが違うので、同じサイズを買うかワンサイズ上を買うかは、お母さんが決めてください。
➁お気に入りのおもちゃ、お気に入りのゲーム機を手に入れたときは、壊れることも初めに想定します。
手に入れた時に、透明のビニール袋や箱を用意して見せ、「これが壊れた時はここに『ざんねん』って入れようね」と予告しておきます。
家族で使う家電製品が壊れた時も同様に、「こわれた」「ざんねん」「かいかえる」と文字で書いて見せ、一緒に貼ると、壊れること・買い換えることの予告になります。
大切なものが壊れた時のこだわりに対応する方法のまとめ
こだわりを切り換えにくいこどもに対応するには、
①困り感に同行して、同じものを一緒に探す
➁十分な探索の中で、「残念」を形成していく
③一度経験したら、故障・買い換えも教える
などにチャレンジしてみてください。
壊れてしまったショックへの共感➡同じもの探しや修理への同行➡諦めや買い換えるという新しいことへの踏み出し、がポイントですね。
猫ちゃんブログへのコメント