我々大人は、「音声」だけを言葉だと思っています。
ところが心理学者の梅津八三によれば、赤ちゃんが泣く行動そのものも、幼児がクレーン車を指差す指さしも、身振りも、実物・模型・写真・絵も、文字も音声も、それら全てが「言葉」になります。
なかでも目に見えない、音声の言葉が、最高に難しい言葉になります。
音声の言葉だと、相手に、自分の脳内イメージが伝わらないことがあるのです。
音声の言葉を聞いて相手と同じイメージを持つことができるか?
例えば、「美味しかったリンゴ」について、相手に話すとしましょう。
左側の人は「王林」という種類の、青いリンゴ🍏が美味しかったことを話しています。
話す方も聞く方も、頭の中の実物のイメージをリンゴという音声に変換して、話し合っています。
ところが、食べたリンゴの画像を見せなかったために、相手は「リンゴが美味しかった」と聞いて、よく見かける赤いリンゴ🍎を想像している場面です。
音声ではこのように、イメージが共有されながことがあります。
どうすればイメージが共有されるか?
音声や文字でイメージが共有されにくい時は、場面そのものを表わす、実物・模型・写真・絵を使います。
脳内イメージと同じ画像を見せれば、一瞬にして、イメージを共有できますね。
青いリンゴ🍏の画像を見せてもらえれば、「ああ、あの青いリンゴが美味しかったんだね🍏」と脳内イメージを共有できます。
昔のことわざで、「百聞は一見にしかず」というのも、そういった状況をさしますね。
望ましい行動場面を写真や絵で目に見せる
子どものソーシャルスキルも、してほしい行動場面を絵で見せると、一瞬で分かってもらえます。
音声や文字で説明されてイメージできない時も、場面を絵で見せると、子どもは興味を持って見ます。
保護者や先生の脳の中のイメージを、脳の外に出して見せましょう。
例えば、外出からお家の中へ、園庭から保育室へ、校庭から教室へ、戻る時、「手を洗いましょう」と誘うとします。
音声だけで行動できないとき、写真や絵を見せれば、一瞬で伝わります。
身振りを見せることも脳内イメージを持ちやすい
写真や絵がないときは、その場で身振りを見せてください。
音声に、必ず身振りを添えてください。
身振りは実物をかたどった行動なので、実物をイメージできる子どもには、身振りで充分伝わります。
身振りは、写真や絵という道具が何もいらないので、本当に便利な「言葉」なのです。
クラスのルールも絵や身振りで伝える
保育場面や学校場面で、クラスの行動ルールを、以下のような絵にしておきます。
4つのルール全部を同時に注意することが難しければ、1行動ずつ1週間チャレンジします。
A3の大きさに、1行動ずつプリントアウトすると、4行動で4枚のプリントが要ります。
ルールの伝達と再現には、先生がその都度、大げさな身振りを使ってください。
「よく聴こう」は、耳に手を当てる身振り。
「よく見よう」は、両手でメガネの〇を作る身振り。
「話し合おう」は、先生の顔の前で、両手のひらを30センチくらいに近づける身振り。
「静かに」は、絵の通り、口に指を持って行く身振り。
プリントを指し示しながら、先生が身振りをしてみせます。
「皆さんも、はいどうぞ」と、子どもたちにも身振りをさせます。
7月の2週間、あるいは9月の1か月間で、教室ルールが整います。
発達障害のある子どもにも身振り・絵・図で伝える
通常学級での教育は、ほとんど音声と文字で行なわれます。
ところが、発達障害や知的障害のある子どもたちは、先生の音声説明から自分の脳内にイメージを持つことが苦手です。
例えば、自閉症スペクトラムのかたは、相手の音声の言葉の意図を汲むことが苦手で、想像力に障害があると言われています。
そうであれば、音声の言葉でなく、想像力を必要としない、イメージそのもの=身振り・絵・図を、目に見せれば分かりやすくなります。
また注意欠如多動症のかたは、集中してじっと聞くということが苦手で、多動・衝動が強いと言われています。
そうであれば、一瞬で分かりやすい身振りや絵を見せることが、注意をひきつけ、パッと見て分かる特性にもよく合っています。
さらに、読み書きや音声記憶が苦手な、学習障害のかたには、脳内記憶を要求しない、脳外記憶を支援することが、合理的な配慮になります。
音声指示は消えてなくなってしまうので、必ず文字指示で、黒板に指示メモを残してください。
特別支援教育とは先生の脳内にあるイメージを脳外に見せて伝えること
特別支援教育のポイントは、この脳外に見せる支援をする、ということです。
保護者や先生、指導員の皆さんの、脳の中にあるイメージを、ぜひ身振りや絵で脳の外に出して子どもたちに見せてください。
ピラミッド図の下から、行動そのものを読み取る➡実物➡身振り➡写真や絵を見せる、それらを通常学級の文字や音声の教育にプラスしてください。
家庭や保育園、療育場面でも、音声の言葉のイメージしにくさを理解し、身振りや絵を取り入れて、社会的行動=ソーシャルスキルを見せてもらえると嬉しいです。
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