猫がくれた2倍の幸せ

猫好きのヤエさん

 ヤエさんは、子どもの頃から猫が好きだった。

猫を飼いたくて、ある時は隣の家までもらいに行ったそうだ。

そうやって、子ども時代はいつも猫のいる暮らしをしていた。

大人になって、街で暮らすようになって、猫を飼ったが、大通りに出た猫が、車に跳ねられて死んでしまい、悲しくて二度と猫を飼わなかった。

事故で、突然猫を亡くすのは、つらい。

偶然猫が外へ出て行ってしまい、二度と会えないのもつらい。

人間より猫の方が寿命が短いので、必ず別れる時が来るのだが、病気でない別れ方は、突然すぎて心残りになる。

初代お母さん猫

我が家が猫を飼うようになったのは、偶然だった。

2002年、子猫を3匹連れたお母さん猫が、真夏に突然現れたのだ。

はじめ私は、ヤエさんに遠慮して、車庫で内緒で猫たちを飼っていた。

1ヶ月ほどして、ヤエさんに猫の存在が知れたが、ヤエさんは飼っては駄目だと言わなかった。

2ヶ月ほど経って、猫を家の中で飼うようになった。

野良猫だったので、外と行き来できるように、ガラス戸にキャットフラップもつけた。

2匹の子猫は、1歳になる前に、最後の子猫は4歳で亡くなった。

お母さん猫は賢く、猫の生活のルーティーンを守って、静かに暮らしていた。

「猫ちゃん猫ちゃん」

2003年からヤエさんに認知症の症状が出て、私は毎晩ヤエさんの夕食と入浴を見る、通い介護を4年ほどした。

ヤエさんの認知が大変になり、2007年猫を連れて引っ越し、同居するようになった。

2010/11 90歳 要介護1

ヤエさんは、猫の名前を覚えなかった。

猫の名前が「お母さん」という特殊な名前だったせいで、覚えなかったのかもしれない。

チビとかタマとシロとかブチとか、猫の見た目からくる名前だったら覚えたのか、わからない。 

猫を呼ぶ時、ヤエさんは「猫ちゃん、猫ちゃん」と呼んだ。

確かに、猫ちゃんで間違いない。

その呼び方が、最も見た目を表している呼び方だった。

私も、外で動物を見かけると、「猫ちゃんだ」「ワンちゃんだ」と言う 。

猫がいるだけでほっこり

2012/ 7 91歳 要介護3

猫を見ると、ヤエさんの表情は柔らかくなった。

猫が家にいると、ヤエさんも幸せそうに見えた。

ヤエさんは優しい手つきで、猫の毛をいつもすいてくれた。

猫もうっとりと気持ちよさそうに、ヤエさんのそばにいた。 

初代のお母さん猫は、6年ほどヤエさんと一緒に暮らした。

2013年、お母さん猫が腎臓を悪くして12歳で死んだ時、92歳、要介護3だったヤエさんはあまり悲しまなかった。

2012/12 92歳 要介護3

二代目猫 ひげのクーちゃん

お母さん猫が死んで3ヶ月ほどして、猫のいない生活があんまり寂しくて、13歳の保護猫を福島県いわき市からもらうことにした。

「猫を迎えに行くので、ヤエさんはどうする?デイサービスに行く?一緒に車で福島県まで行く?」と聞くと、珍しくヤエさんが「私も一緒に行きたい」と自分の意思を言った。

高速のサービスエリアの思いやり駐車場から、身障者用トイレに、杖で歩いて一緒に行けた。

念のため、ヤエさんは尿取りパッドもしてくれた。

片道260 km 往復520 km 7時間の長旅だったが、ドライブしながらおにぎりを食べ、猫を貰い受けるとヤエさんも楽しそうだった。

往復520km7時間の長旅で貰う 2013/ 6 92歳要介護3

クーちゃんに好かれたヤエさん

ヤエさんは、二代目のクーちゃんをとても可愛がった。

クーちゃんも穏やかなヤエさんが大好きで、側に行っては撫でてもらっていた。

ヤエさんが室内で運動すると、よくそばにきてゴロンと横になり応援していた。

ゴロンと横になり応援 2017/4 96歳 要介護4

猫の好きなヤエさんは、猫のどこを撫でると猫が気持ちがいいかを、よく知っているようだった。

クーちゃんも、撫でてもらってうっとりと、静かにしていた。

ヤエさんの手の動かし方がゆっくりで優しいからだろうか、クーちゃんはヤエさんを甘噛みしたりしなかった。

手の動かし方がゆっくりで優しい

介護家族に猫がくれた2倍の幸せ

97歳、要介護4、言葉が出なくなり、笑顔が少なくなっても、ヤエさんは猫を可愛がった。

クーちゃんも朝と晩、いつも変わらずヤエさんのそばに行った。

ヤエさんは病院に入院している時も、猫の本を見せたり、猫の DVD を見せたり、猫の写真を見せたりすると、とても喜んだ。

2018/7 97歳 要介護4

98歳、要介護5、退院して、もうほとんど喋らなくなったヤエさんだったが、クーちゃんは自然とそばに行き、いつもふたりで寄り添っているようだった。

ヤエさんが、食べ物や飲み物の飲み込みが難しくなってからも、クーちゃんはヤエさんがベッドで眠るまでそばにいてくれた。

猫がそばにいるだけで、ヤエさんが優しい気持ちになり、温かい気持ちになって眠れる 。

クーちゃんも5年間、ヤエさんを見守ってくれ、介護生活の癒しになってくれた。

猫のいる暮らしは、ヤエさんと私に、猫のいない暮らしの2倍の、幸せをくれた。

2018/9 98歳 要介護5

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