病院小児科で、年間50人ほど、小児科医や学校から、心理検査を依頼されます。
結果の数字は、その子の現在の発達段階や、現在の発達年齢を示しています。
子どもの力を、分かりやすい数字で理解しようという考えは、以前に紹介しました。
発達障害児の力を数字で理解し合理的な配慮のある環境を提供しよう
今回は、数字以前の、子どもたちの行動、ことばの発達を紹介したいと思います。
対面する検査者という立場からの理解よりも、自分が子ども自身になって、子どもが世界をどう捉えているか、を紹介したいです。
検査の構成は、ことばの発達順序をもとにしている
検査には色々な項目がありますが、以下のような構成になっています。
1.触覚を使って調べる課題
2.視覚を使って調べる課題
3.聴覚を使って調べる課題
それらは、これまで猫ちゃんブログでも何度か紹介してきた、子どもの発達段階に合わせた課題です。

検査に子どもが興味を持ち、落ち着いて取りかかりやすいように、子どもたちが最も好む、手を使う触覚系の課題から、検査が始まります。
子どもが集中して取り組み始めると、次は子どもに音声会話で聴覚系の質問をします。
音声での会話が苦手な子どもでも、その前の手を使った触覚課題の満足感から、集中して考えようとします。
音声会話の、聴覚系の課題ばかりだと、質問を聞いてイメージを持つのが大変な子どもは、集中が難しくなります。
学校の授業で、5分しか集中しない、先生の説明になるとそわそわもじもじする、と聞きますが、集団で行なわれる聴覚系の授業は、最も高度な場面なのです。
学校の授業に比べると、検査はうまい具合に、視覚の課題と聴覚の課題が交互に構成されています。
しかも、5分から10分くらいで課題が変わるので、子どもたちは飽きずに、60分から70分、集中して取り組みます。
検査の経験から、学校の授業も、先生が、手✋➡目👀➡耳👂➡手✋➡目👀➡耳👂を意識した組み立てにすると、集団場面でも子どもたちが集中しやすくなるのではないかと考えています。
検査になじめない子どもの好きなもの、その子の確定域が適応の支え
病院小児科の静かな部屋で、1対1の、課題の順序が工夫された検査では、ほとんどの子どもが落ち着いて集中して回答します。
検査の内容の一般流出は禁止されているので、検査に保護者は同席できません。
母子分離不安のある子どもの時は、保護者に耳栓をしてもらい、ドアの外の椅子に座ってもらい、0歳からの問診票を記入しながら待機してもらいます。
700人以上の子どもの心理検査をしましたが、1回目に検査ができなかった子どもは2人でした。
1人は、2回目の来院で、お気に入りの一眼レフカメラを手に持ち続けることで、検査ができました。

好きなものがあることは、検査場面でも有効に働きます。
検査という新しい状況への踏み出しに、その子の安心安全の基地が必要なんですね。
それぞれの苦手さに合わせながら検査をすすめる
➀自閉症スペクトラム、ADHD、知的発達症など、発達障害の子どもたちの検査が断然多いです。
➁場面緘黙の子どもも、4人検査をしました。
場面緘黙の子どもは、視覚の課題では、指さし回答で答えます。

音声会話の課題では、特別な支援が必要です。
1人はスマホのメール画面で答え、1人は鉛筆の書き文字で答え、1人はタブレットの50音表で答え、1人は分からない時には首を傾けるという身振りで答えました。

➂日本語がよくできない、外国籍の子どもも、2人検査をしました。
1人は通訳さんが入り、1人は必要な時だけお姉さんが通訳をしました。
④書くことが苦手で、書く問題になったら、気持ちが切れて、暴言を吐いたり、診察ベッドに登ったり、壁に鉛筆でグルグル書きをしたりした子どももいました。

その子どもも、医師の支えと、お母さんの理解と支援で、5年後にはびっくりするほど落ち着いて、あの出来事は幻だったのかと思うほど、次の回の検査では適応的に振る舞いました。
「発達する子ども」の成長には、素晴らしいものがあります。
もちろん5年後の検査では、「疲れないうちに、書く課題を先にやりたいか、途中でやりたいか」を聞いてから行ないました。
⑤予告や予定、終わりの見通しが必要な子どもも、たくさん検査に来ます。
検査のはじめに、時計のガラス面に、ホワイトボードマーカーで長針短針を書いて、70分後に検査が終わることを予告しています。

⑥途中経過の見通しが必要な子どもについては、1~16の数字を書き、課題が終わるごとに丸〇をつけて、課題の進行が見えるようにしています。
⑦個別場面だと、家庭のようにおしゃべりをしてしまいたくなる子どもには、「学校の授業のように黙ってやりましょう」とお願いし、口👄を閉じた絵を書いて机の見えるところに置いています。

その子どもの行動を理解しながら、検査をすすめます。
単語レベルで世界を理解し、生活している子どもに困難が多い
乳幼児の言語発達の経過と同じで、触覚・視覚からの理解が得意な子どもたちがいます。
保育園や家庭では、視覚で模倣して行動することで、生活できます。
保育園や家庭の言葉は、ほとんど名詞か動詞の単語レベルで生活できます。
保育園や家庭では問題がなかったが、学校に入ってから困難を指摘される子どもたちがいます。
学校場面になると、先生の音声指示や、友達との音声会話で、単語レベルの理解しかないと、長い文章が分からないことが増えます。

いつどこで、誰が誰に何をどうしたのか。
いつどこで、誰は誰に何をどうされたのか。

疑問詞、助詞、使役文、能動文受動文などを理解していないと、言葉と世界との対応が構造化されず、出来事や自分の気持ちを、他者に言葉で伝えることが難しくなります。
出来事や気持ちを、文章でスラスラ言えないと、手が出たり暴言になったりします。
友だちの会話を単語レベルでしか理解できないと、文章の意味の誤解から、トラブルも起きます。

そんな時、心理検査を行なうと、その子どもの言語発達の特徴が、我々に分かりやすくなります。
検査で目立つのは、触覚を使っている時、視覚を使っている時に、言葉をつぶやかない子どもたちです。
手と言葉、目と言葉を、同時に使うのが難しい子どもたちです。
次回は、単語レベルで暮らす子どもたちをどう支援するか、心理検査から分かることの続きを紹介します。
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