書くことは、文字を書ける大人にとっては、簡単なことに思えます。
ところが、6歳になっても、鉛筆を持つことや、文字を書くことが、難しい子どもたちがいます。
書くことは、どうして難しいのか? 理由をご紹介しますね。
書くことは、目の見え方、手の運動、文字の分解と合成、つぶやく言葉の力などが関係します。
今回は、見え方と、手の運動について、ご紹介します。
見ることの複雑さを知って、子どもたちの苦労に共感しましょう。
眼球運動の前提になる注視
研究によると、生後20分の赤ちゃんは、向かい合った時、原始模倣という、舌出し模倣が可能になります。

相手を見つめる「選好注視」、「模倣」の舌出し運動、そういう「注視と模倣」が先天的に備わっている赤ちゃんたちです。
生後2〜4ヶ月頃の赤ちゃんが、自分の手をじっと見ているハンドリガードという「注視」があります。

視力が発達して、焦点が合うことを楽しんでいる行動です。
先天的な発達障害があると、脳機能に渋滞があって、上記の注視や模倣が難しい場合があります。
注視力を育てる遊び学習には、玉転がし、玉入れ、棒差し、だんご挿し、スリット通し、はめ板、積み木、ブロック、紐通し、ビーズ通し、シャボン玉を追いかける、金魚すくい、ボールの受け取り、迷路たどり、などがあります。
着替えのボタンはめや、ファスナーのスタート部分が苦手な子どもさんを、「不器用」とくくって片付けず、その子の「注視力」を育てる、上記の遊び学習を大人と一緒にやりましょう。
猫ちゃんブログでも、注視や追視、目と手の協応の学習教材を、紹介しています。
同時処理の跳躍性眼球運動と、継次処理の追従性眼球運動
眼球運動は4つあるそうなのですが、ここでは、書くことに必要な、継次処理の追従性眼球運動を、主に紹介します。
跳躍性(衝動性)眼球運動は、素早い視線移動で、パッと判断する、同時処理の眼球運動です。
瞬時に、文字の全体を判断して、文字を読むことに必要です。
ゲームが好き、ゲームが得意な子どもは、パッと判断する同時処理の、跳躍性眼球運動の力があります。
マークを覚えたり、充実図形のマンガアニメが好きなのは、パッと見て分かって楽しいからです。
反対に、追従性眼球運動は、対象を滑らかに追いかける、時間をかけた追視の運動です。
追従性眼球運動は、文章の行を順にたどって、文字を正確に読んだり、書き順を正確にたどって、文字を書いたりすることに使う力です。
ひらがなや漢字のような、細くて複雑な線図形の見分けは、追従性眼球運動や、順序よくつぶやく言葉の力がないと、難しくなります。
教科書を読むことが苦手、書き順をまねすることが苦手な子どもさんは、時間を追っていく継次処理の、追従性眼球運動が苦手な場合が多いです。
詳しくは、猫ちゃんブログのこちらでも、目の機能と漢字記憶について紹介しています。
全身運動と手の運動
赤ちゃんの時のハイハイ、つかまり立ち、歩行、走る、階段昇降、ブランコ・滑り台・うんてい・三輪車など、保育園や公園で、身体全体で遊ぶことは、発達の土台であり、とても大事ですね。
先天的な発達に渋滞があったり、全身を使った遊びの経験が少ないと、書字の苦労にも繋がります。
手の運動には、0歳から5歳までに、以下のような手の発達の順序があります。
哺乳瓶をつかむ、手を口に入れる、左右の手で持ち変える、両手でたたく、蓋を開ける、殴り書き、積む、容器から容器へ移す、1列に並べる、ぐるぐる書き、両手でぶら下がる、直線を書く、丸を書く、ハサミで切る、ボタンをはめる、バツを書く、はずむボールをつかむ、折り紙を折る、などです。
5歳を過ぎると、三角、四角、斜線、波線、カーブ、一筆書きの星、などを真似して書けるようになり、6歳になると、カタカナ、数字、アルファベットの大文字、ひらがな、などを真似して書けるようになります。
一般的な発達の力を持つ子どもさんは、上記の、手の運動や書字模倣が、楽に起きますが、発達障害や発達性協調運動症があると、本人は書字に苦労します。
文字を書くことが苦手な時、苦手なことを直そうとせず、本人が好きなこと、得意なことの中で、目と手の使い方を教えてあげるとよさそうです。
レゴをはめるコツ、レゴを外すコツ、などを言語化してあげましょう。
大好きなお手伝いの、食器洗いのコツ、でもいいです。
手足の協調運動、目と手の協応、マス目の視空間認知が苦手な健ちゃん
健ちゃんは自閉症で、運動が苦手です。
ひらがなをあっという間に覚えて、7歳で書けます。
印刷のように、いつも決まった形のひらがなを、見えているマス目の四角いっぱいに書きます。

マス目の線に近い1~2ミリを、ほどよく空けて書くということができません。
マス目は見えるが、線のない空間は見えない、健ちゃんの見え方をこちらは知ることになります。
健ちゃんと公園に行って、健ちゃんの好きなカマキリの滑り台の、ロクボク階段を昇って、滑り台を滑ります。


ロクボクのバーを手でつかみ、右手と左手を交互に出しながら、左足と右足を連動させて出す、この四つ這いのような垂直運動が健ちゃんは苦手です。

健ちゃんは、上を見て昇れずに、下を見て昇るので、1段上がるたびに、ロクボクで自分の頭を打ってしまいます。
健ちゃんは、自分の頭を打って痛いので、やや遅れて昇る、私の頭をたたきます。
はじめは、健ちゃんが私の頭をたたく意味がわからなかったのですが、よく見ると、健ちゃん自身が自分の頭をバーで打っている姿が見えました。
垂直四つ這いのような、手足の協調運動が難しいんですね。
1段ずつ昇るたびに健ちゃんは頭を打ち、「痛いよ」と言う代わりのオウム返しで、私の頭をたたきます。
私の頭をたたく行動は、「手足が楽に連動せず、昇る垂直四つ這いが難しく、頭を打って痛いよ」と言っているのだと思いました。
滑り台に昇る、ロクボク昇りの運動がこれだけ難しいのですから、健ちゃんにとって、文字を書く視知覚運動の難しさを想像できます。
健ちゃんには、マス目の中にもう一つの点線のマス目を書いて、開ける空間を見せました。

運筆、なぞり書きの手前の、見え方と協調運動の話が長くなりましたが、次回、運筆、なぞり書き支援について、ご紹介します。
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