保育園に通う Y 君が、お母さんと、病院の小児科にやってきました。
私が「こんにちは」と待合室であいさつすると、Y 君は手にスマホを持って、お母さんの近くでニコニコと立ち歩いていました。
スマホの画面には、ボールがボーリングのように動く映像が見えたので、画面を指差しながら「ボール、Go Go」と話しかけてみました。
笑顔で私の目を見てくれます。
Y 君の好きな 進行方向が単一の ボール転がしゲームアプリに同行する
以下のアプリは、Y 君が使っていたアプリとそっくり同じアプリではないのですが、「ゴーイングボール」というアプリです。
玉転がしアプリは、たくさんあります。
ボールの進行方向(一方向に動く)が 、Y 君には分かりやすいゲームになっています。
進行方向が単一で、ボールの動きを予測できるので、楽しめるのだと思います。
子どもたちは、ピタゴラスイッチのような玉転がしが好きですね。
大人のドライブの楽しみ、のようなものでしょうか。
指差しや身振りで移動行動を誘う
私が廊下の方を指さして、「ママとあっち行こう。Go Go」と、両腕を振って走る真似をしました。
お母さんが移動する方向に、Y 君もついてきました。
ここまでで Y 君には、以下の力があることがわかりました。
①お母さんの周りにいられる、お母さんに従える
➁手で操作すると反応のあるスマホが好きだ
➂スマホを手に持っていると安心して時間を過ごせる
④視線が合う
⑤私が音声言語や、指さしの身振りで話しかけると、それに注意を向ける力がある
さらに
⑥診察室に案内して、ベビー椅子を勧めると、椅子という実物の合図が分かって、着席行動をとれる
Y 君は自力で椅子に上がり、手のひらで机の上を何度も何度も触って、テーブルクロスの感触楽しみました。
私もテーブルクロスを真似して触り、「ザラザラ ザラザラ」と言ってみました。
Y 君には、感覚過敏がありそうです。
感覚を満たす遊びを保障して同行する
布の感触を楽しむ Y 君には、感覚を満たす遊びが必要です。
くもんのくるくるチャイムや、玉転がしのような遊びが、人との係わりの中で必要ですね。
人と遊ぶ中で、楽しみを共有し、叙述の言葉を増やしたいです。
布の感触を楽しんで満足すると、ニコニコして、机の上でボール転がしアプリの続きを始めました。
座ったところで、お母さんがY君のスマホを引き取ろうとしました。
Y 君が少し抵抗します。
この日は、お母さんへの問診と Y 君の行動観察が中心です。
お母さんに「このままスマホを使わせてください。お母さんのお話を聞きながら Y 君の遊びの様子を観察します」と説明しました。
「ボール Go Go オッケー」と、スマホ画面を指さして、笑顔と指の OK サインで、Y 君にも伝えました。
Y 君は、ボール転がしアプリを続けることで、椅子に座っていられます。
梅津八三のいう、現勢の保障ですね。
しかし、ゲームのクリアーテクニックが難しいらしく、ボールは道路から落ちて、すぐにうまくいかなくなります。
手指の発達がまだ未熟で、主に両手の親指で画面を操作しています。
相向かいに座っている私に Y 君は、画面のボールの続きをやるように、指さしと目線で訴えてきます。
Y 君の方から「同行」(梅津)を要求してきます。
音声の言葉はないのですが、スマホと言う実物、スマホを押し出す行動、指差し、行動に合わせて「ン ン」という喃語がある、私の目を見る、などの「象徴的なことば」がありました。
私も出来る限り、Y 君に対して音声の言葉を控えて、実物・行動そのもの・指さし・目線・身振りで、会話をするようにしてみました。
動かないベビーブックや車の本には興味がない
私の音声はお母さんへの質問と行動解説に使い、それ以外の手指や行動でY君と遊ぶことにしました。
ベビーブックを出してみました。
お母さんは協力的にベビーブックを読んでやろうとするのですが、Y 君は2~3ページめくると返してよこします。
動画は面白いが、静止画は楽しめないのです。
スリット通しを喜んで、50分近く繰り返す
手で操作できるものに興味があると考えて、100人中100人の子どもが喜んでやる、スリット通しを出してみました。
私が真ん中の黄色いつい立てをセットするのが待ちきれないくらい、喜んでやりたがります。
Y 君は左利きのため、スリットを左手でつかんで、一番右端から入れ始めました。
Y 君のスリットのつかみ方は、まだ一度にたくさん持つ、握り持ちです。
手指の発達のためにも、スマホゲームだけでなく、実物のおもちゃで遊ぶことが必要だと、お母さんに話しました。
遊んでいるうちに、スリットをつまむようになったのですが、Y 君のつまみ方はまだ指全体で1枚をつまみます。
手指が発達してくると、親指と人差し指でつまみます。
穴に直接正面から入れようとしたり、つい立ての向こう側に入れようとしたり、まだまだスリットの細い穴を意識できていません。
しかし、「穴に入れる」という単一の行動なので、長く楽しめる様子です。
遊びの区切りに 次のおもちゃ「動物ぽん」を出す
スリット通しを50分くらい遊んだところで、Y 君の目がスリットから離れたので、スイッチ遊び「動物ぽん」を出してみました。
これは、手前のスイッチの操作を楽しみながら、奥の動物との対応関係を見るおもちゃです。
これも100人中、90人くらいの子どもが楽しみます。
しかし、Y君が操作しても動物が開かないスイッチが2つあり、これは5分くらいで終わり、長くは遊びませんでした。
うまくいけば集中して遊び、うまくいかないと早く飽きます。
木製の棒さしを穴に入れず、積み木として積むことにこだわる
Y君が積み木を高く積むことにこだわるとお母さんから聞いたので、木製の棒さしを出してみました。
Y 君は私の勧めに応じて、6本ぐらい穴に入れたのですが、角柱を角穴に入れることが難しかったのか、穴に入れないで、積み木として積み始めました。
円柱を円形の穴に入れる操作であれば、やさしかったかもしれません。
棒差しの角柱は、積み木よりも面積が狭く、安定性が悪いため、縦では3段ほど積むと崩れます。
私も平積みで、一生懸命積むことに協力したのですが、ピラミッド状に積んでも、なかなか高く積めません。
積んだ積み木が崩れると、それが嫌なのか、自分の頬や頭を軽く叩きます。
「残念」「くやしい」と言えないので、自分を叩くのです。
崩れるたびに私が「残念残念」と言って、「OK OK」と、積むのを手伝いました。
集中をゆるめる緩衝行動と、楽にできる粗大な遊びも大事
うまくいかない積み木に飽きると、お母さんや私の顔を伺いながら、ソロリと椅子から降りました。
私が椅子から降りることに対して「いいよ OK」と言うと、扇風機に近づきます。
それに対しても「OK」と言って、Y 君の好きにさせました。
スリット通しで集中して遊んだので、少し粗大な行動が必要です。
積み木がうまくいかない不全態が続いたので、粗大な行動での取り戻しが必要です。
スリット通しの過集中を緩め、積み木の不全態を取り戻すため、扇風機のスイッチをオンオフしたり、扇風機のネットを触ってネットの感触を楽しんだりしました。
お母さんも、すぐに止めたりしない、ゆったり見守るタイプのお母さんです。
Y君の行動が激しくないのは、お母さんのこのゆったりした育児が成功しています。
扇風機を操作して満足すると、また、笑顔になりました。
帰りの合図は実物の車のキイ
そろそろ帰る時間になったので、車のおもちのを渡してみました。
これは、両わきと後方がひらく、単純な車で、複雑な遊びはできません。
Y君には車を走らせるような見立ては、ありませんでした。
テレビのリモコンのようなスイッチ反応、スマホの動画アプリ、積み木のように分解と合成をする簡単な遊びが好きなようです。
私の車のキイを出して、「車、帰ろう」と言ってみました。
Y 君は首を振って否定して、まだ積み木をやりたいと椅子に座りました。
私の誘い方を見ていたお母さんが、お母さんの車のキイを出して見せると、Y 君は納得して椅子から降り、帰ることになりました。
付き合い方のまねがすぐできる、反応の良いお母さんです。
行動そのもの・見ている目線・指差し・身振りも「ことば」として理解して会話する
最後に、まとめとしてお母さんに、以下のように伝えました。
①除外診断として、耳の検査をしてもらう
➁実物のおもちゃで遊ぶことが、ことばの発達に大事。
➂Y 君は、行動そのもの・目線・指差し・身振り・喃語でしゃべっているから、それらを音声の言葉と同じだと思うことが大事。
④大人も「ブーブー(車)」「クック(靴)」など1音の繰り返しか、2音でしゃべる。
⑤医師の診察を受ける
この日初めて、Y 君は「バイバ(イ)」と音声で言いながら、手を振って楽しそうに帰りました。
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