教育仮設27 教育的に係わり、新しい喜びをもらう
心理学者 梅津八三が、子どもと自分の関係性について「相互主客二役性」と語った。
自分たちは子どもに一生懸命係わるが、それは一方的に教育をさずけるということだけではない。
その仕事の中で、相手の子どもから、今までに味わったことのない新しい喜びを自分ももらう。
自分だけが教育を与える側だと思って係わるが、同時伏線的に、子どもから喜びをもらう側になる。
教育は相互の喜びだと、そういう関係に梅津が名前を付けたのだ。
私も、子どもたちから与えられる喜びに出会うたびに、梅津八三の言葉を思う。
保護猫を世話し、その猫に癒される
仕事で係わる子どもたちとの関係性だけでなく、猫との関係性についても最近そう思うようになった。
我が家の花ちゃんは、もともと野良猫だった。
動物保護協会の方に保護され、その方のご自宅で、3年間手厚くお世話されてきた猫だ。
私も、花ちゃんに餌をやり、花ちゃんのトイレの世話をし、花ちゃんが清潔に気持ちよく眠れるように環境を整える。
花ちゃんが安心して暮らせるように、一生懸命、お世話をしているつもりだ。
保護協会からもらうとき、「一人っ子で可愛がられる家」ということが条件だった。
花ちゃんは、保護主さんのお宅の先住猫たちと、最後まで仲良くなれなかったからだ。
緊張と不安が激しく、人見知りの強い花ちゃんだが、半年ほどで我が家に慣れると、元々の可愛らしさを発揮した。
今では、呼ぶと返事をしたり、餌をねだってきたり、トイレを片付けろと言ってきたり、膝に乗ってきたり、手を舐めてくれたり、布団に潜ってきたりする。
可愛い。
私が花ちゃんのお世話をして可愛がるだけでなく、花ちゃんから可愛い仕草や可愛い行動をもらっていることに気づく。
世話をしている猫に、「癒される」ということらしい。
私は花ちゃんの安心と安全を作り、同時に花ちゃんから私が癒しをもらう関係だ。
癒される喜びで、多くの人がペットを飼うのだと思う。
ペットや子どもを育てたり、老人をお世話したりする喜び、それは一方的に労力を与えるだけの関係ではなく、お世話の中で、相手から喜びをもらう関係なのだ。
虐待の中で育った少年に係わり、虐待の連鎖を防止する喜びをもらう
「相互主客二役性」、その関係性を偶然 NHK BS 1スペシャルのドキュメントで見た。
「非行の根っこに 寄り添う 福岡県警 少年育成指導官」 – BS1スペシャル – NHK
このドキュメントは、もともとは、 NHK 総合テレビ、「プロフェッショナル 仕事の流儀」で放送されたものらしい。
登録の手間がかかるが、NHKオンデマンドで、見られる。
以下は番組の要約だ。
大学で、社会福祉を学んだ堀井智帆さんは、10年間、児童養護施設に勤務した。
虐待された子どもたちが、収容されてきた。
虐待の被害者である子どもたちが、大人になって虐待の加害者になることを経験した。
堀井さんは、この連鎖を止めたいと、県警の少年育成指導官となった。
非行の根っこには、虐待がある。
育児放棄や貧困、虐待された子どもに起きる非行、少年たちの心の味方にならなければ、非行も虐待も止まらないと考えた。
子どもの目線に立って共感する姿勢を見せる
堀井さんは、派手な服と派手な鞄を持って、奇抜な髪型で、少年たちと同じ目線に立って、少年たちと仲良くなる。
少年たちがたむろする公園に出向き、あっという間に携帯電話の番号を全員から聞き出し、メールで繋がる。
夜遅く見かければ、自分の車(勤務中は覆面乗用車)に乗せ、 自宅まで送り届け、玄関先で子どもの両親と話し合う。
「家に帰りたくない。友達の家に泊まりたい」という女子中学生を、堀井さんは否定しない。
車の中で「気持ちはわかったよ」という。
「今夜友達の家に泊まれても、明日の解決にはならないから、堀井さんがお母さんと話す」と送っていく。
どうして家にいたくないか、堀井さんがお母さんに事情を話し、本人も逃げないでお母さんに頼む。
正当な許可をもらって、友達の家に泊まれるようにする。
親の心配と愛情、子どもの言い分と愛情とを、つなぐ役目をしているのだ。
家族はうまく向き合えないで、うまく言葉を使えないで、愛情がちぐはぐになってしまう。
堀井さんは、そこがうまく繋がるように、時間と心を尽くす。
子どもの味方であり、親の味方でもある。
親もかつてその親から虐待を受けていて、 子どもへの係わり方を知らない。
親たちとも係わり方を話し合う。
第二のお母さんと慕われる喜び
10年係わった非行少年たちが成人式を迎える。
福岡の派手な成人式だ。
非行少年たちは皆、自分を見て欲しいのだ。
自分に関心を持って欲しいのだ。
自分に係わって欲しいのだ。
それは、「自分なんか生まれてこなければよかった」と思うほどの、育児放棄と虐待を経験した結果だ。
堀井さんは、それを胸に刻み、子どもたちを決して責めない。
施設実習や就職の初日に、本人が約束通りに来なくても、堀井さんは叱らず見捨てない。
養護施設の寝室を訪問し、「寝ていていい」と言い、夕方メールで呼んで、車に乗せて、約束やぶりを責めるのでなく、どんな子ども時代だったか、本人の小学生当時のつらさを、丁寧に傾聴する。
堀井さんは諦めず、環境の方を改変しようとする。
本人を初日たった一人、初めての職場に置き去りにするのでなく、堀井さんが1日、その職場の遠方から見守る。
同じ年齢の若い同僚を、指導につける。
直接、認知症のお年寄りにおやつを出させて、認知症のお年寄りから「ありがとう」の言葉をもらう。
そういう環境の改変の中で、本人が喜びを味わい、仕事に対する自信を持つ。
その姿を見て堀井さんは、昼夜を分かたず尽くしてきた、自分の仕事が実った喜びを知る。
成人式で、派手な格好をした子どもたちが、取材カメラに向かって「俺の第二のお母さん」と呼ぶ。
堀井さんに、子どもたちと係わってきた10年分の笑顔が溢れる。
親の育児放棄と虐待及び非行から立ち直ってほしいと、堀井さんが一方的に心を尽くしただけでなく、ある日、その子どもたちから、巣立ちや自立、感謝の言葉という喜びをもらう。
相互主客二役性(梅津八三)
堀井さんと子どもたちとの関係も、相互主客二役性だ。
堀井さんの情熱と工夫を支えているものは、子どもたちの変容からもらう喜びだ。
捨てられた猫と飼い主、虐待された人間と支える人間も、梅津八三の指摘した「相互主客二役性」という関係性から外れない。
エネルギーが大きい若者への、対応のスピードを要求される消耗の激しい、最前線の仕事だと想像するので、42歳の堀江さんの健康を願う。
私は、15年の介護でエネルギーを使い果たし、堀江さんよりはずっと小さなエネルギーだが、保護猫花ちゃんとの係わり、障害のある子どもたちとの係わりを、これからもささやかに続ける。
猫ちゃんブログへのコメント