X や Instagram などのSNSをのぞいていると「うちの子はまだ発語がない」という投稿を、見かけます。
保護者の、落胆と苦労が偲ばれます。
発語とは、状況にあった音声を口に出して、相手に伝えようとする行為です。
多くの人が、音声と文字を「ことば」と考えています。

ことばとは?
「アー」「ウー」の喃語の発声はあるけれども、「パパ」「ママ」など、意味のある音声を言えないから、「うちの子は、ことばがまだない」と、語る保護者がいます。
本当に、音声だけが「ことば」でしょうか。

例えば、赤ちゃんが泣く行動で、赤ちゃん自身は「お腹が空きました」「オムツを取り替えてください」「あやして遊んでください」と、世話者に伝えようとしているわけではありません。
赤ちゃんが泣く、という刺激に対して、我々が、世話をするという反応を起こします。
赤ちゃんは伝える意図で泣いていないが、お腹が空いたのではないか、オムツが濡れたのではないか、あやして欲しいのではないか、と我々が推測して、世話をします。
日本で初めて盲ろう二重障害児を教育した心理学者、梅津八三は、相手に伝えようとしていない行動が、最も原始的な「ことば」だと言います。
自閉症の子どもが洗濯機の前でクルクル回るのは、「回るものが好き」「回る感覚が楽しい」「一緒に回って」と言っている、と行動を読み取ります。
私だと、その場で一緒に回ったり、回るおもちゃを探したり、回転寿司やそうめん流しのおもちゃを探したりします。
公園の回転する遊具は見かけなくなっているので、遊園地の回転木馬とかコーヒーカップならばたくさん回ります。
家の中に、ブランコやハンモックを設置すると、回転や揺れる感覚を楽しめます。
遊びの中で、「もう1回」の身振りのことば、「お願い」の身振りのことば、などを形成できます。
音声には至らないが、音声の手前のことばがありそうです。
MLBのワールドシリーズで優勝した大谷翔平選手たちが、ジャンプして喜んだり、試験に合格して喜んでジャンプしたりする行動も、「嬉しい」という原始的なことばです。
自閉症の子どもたちが嬉しくてジャンプしたり、両手をヒラヒラさせて喜ぶ行動も、ことばです。
行動のことばがあって、音声のことばがまだない時、その間を埋めることばがあります。
相手に伝える象徴的なことば
音声のことばがない子どもも、冷蔵庫のドアを叩いて「食べたい」、コップを持ってきて「飲みたい」、かばんを持ってきて「出かけたい」と伝えてきます。
実物の一部・模型・写真・絵・図・マーク・身振りなどは、音声のことばの代わりに、要求や状況を象徴することばです。
子どもが脳内で考えたイメージを、目に見えるものを使って伝えてきます。
子どもに音声のことばがない時、大人も音声を控えて、写真や身振りなど、象徴的なことばでやり取りすると、伝えたい意味がお互いに伝わりやすくなります。

➀泣くような行動のことば、②身振りのような象徴のことば、③音声、と、ことばには3段階あることが分かります。
言い換えると、➀子どもの行動を読み取る、②目に見せて相手に伝える、③音声の言葉でやり取りする、の3段階です。
まだ発語がない子どもでも、②目に見せると分かることば、をたくさん持っているはずです。
②の象徴のことばは、実物の一部・模型・写真・絵・図・身振りで、大人が伝えると、子どもは象徴している意味がわかって、子どもも象徴のことばを使うようになります。
ある保育園の園庭で、先生が「給食です。お部屋に入ります。」と園児に音声で伝えました。
音声のことばのない自閉症のA君は、ブランコ乗りをやめません。
そこで私は、A君のロッカーからお箸セットの袋を持ち出して、ブランコに乗っているA君に見せると、A君は給食だと分かって、ブランコから降り、保育室に向かいました。
A君にとっては、お箸セットが「給食です」のことばだったのです。
象徴のことばをさらに進化させるには、お箸セットを写真に撮り、ハサミで切り抜いて、先生がポケットに入れておき、A君に見せて「給食です」と伝えると良いと思います。
その次は、黒マジックでお箸セットの絵を描いて、カード化すると、高次な線分の絵になります。
A君に可能かどうかは分かりませんが、黒線の描画は「きゅうしょく」という文字カードに繋がっていきます。
梅津八三の「言語行動の系譜」
梅津八三は、言葉の発生の流れを、以下のように系統的にまとめました。

耳慣れない難しい言葉なので、私なりに意訳すると、以下のようになります。

ことばには、上記のような5段階があります。
音声や文字だけが「ことば」ではありません。
以下の本は、巻末に、身振りの例がたくさん掲載されています。
入門ことばのない子のことばの指導 東 正(身振り写真)
入門新・ことばのない子のことばの指導 津田 望(身振りイラスト)
我が子は、「音声の発語はまだないが、音声の手前のことばで分かり合える」と、気づいてもらえると嬉しいです。
「模型・写真・絵」は、事前の準備が要りますが、身振りはお互いに、自分の身体で表わせるので便利なことばです。
身振りとは、実物の型取りです。
家庭でも特別支援教育でも、子どもが現在わかりやすい「ことば」でやり取りし、より複雑で広汎な「ことば」を、形成していきたいものです。
猫ちゃんブログへのコメント