障害児教育を仕事にして、40年経つ。
2002年までは、自閉症・知的障害を併せ持つ子どもの、個別指導を主な仕事としていた。
2003年から、知的な遅れのない発達障害と呼ばれる子どもたちの相談や支援の仕事が増えた。
仕事の経過が、逆の順序だと、私の子ども理解は進まなかったと思う。
はじめに、初期的な行動・初期的な学習について、子ども達から学べたことが、後に発達障害の子どもたちの理解を可能にした。
障害児教育が、教育の基礎と呼ばれるゆえんである。
教材No.01 探索
2歳4ヶ月の子どもBさんが、ご家族と一緒に小児科の発達相談にやってきた。
待っている間、看護師さんがアンパンマンのビデオをテレビで見せてくれていた。
待合室のキッズコーナーで遊んでいたので、「こんにちは。アンパンマン、見てたの?」と現勢の保障の声をかけた。
踏み出しを提案する。
ベビーブックを見せて、「あっちの部屋で、この本を見ましょう」と誘ってみた。
緊張と不安で表情が硬い。
体も固まって、動かなくなった。
私はそれに構わずに「靴を履けるかな?」と言いながら、しゃがんで靴を履かせる体勢で接近した。
緊張を解くには、道具を仲立ちにすると良い。
靴やベビーブックだ。
物理的なものは、パーソナルスペースに受け入れられやすい。
表情は硬いが、私が履かせようとした靴を拒否することなく、片手を壁に置いて、片足を上げて靴を履いてくれた。
私は靴を履ける子どもさんには、靴を履かせてやることにしている。
靴を履けない子どもさんについては、始めを手伝ってやり、最後の部分をやってもらうようにしている。
片足を履かせてやると、残りは自分で履こうとするものだ。
つま先を入れてやると、踵は自発的に入れるものだ。
起きにくい行動の初めを手伝うのが鉄則である。
動かない子どもさんを「おんぶするよ」と背中を出せば、自分で移動しようとする子も多い。
B さんは、手には小さなイルカのキーホルダーを持っていた。
ご家族と一緒に、ベビーブックが先導する診察室に入って、椅子に座ってくれた。
イルカのキーホルダーを手に持ったまま、ベビーブックも見てくれた。
B さんにとってイルカのキーホルダーが安心安全の基地だ。
自発的に手から離すまではそのままにしておく。
ベビーブックを見終わったところで、子供衣料品チェーン店”西松屋”で購入したアンパンマンの発泡スチロールの填め絵パズルを出した。
アンパンマンのテレビも見ていたし、ベビーブックでもアンパンマンを見たので、アンパンマンのパズルなら流れが自然だ。
表情は硬いが積極的にやってくれた。
イルカのキーホルダーを手放さないので、パズルを入れる時には手の操作の邪魔になるように見える。
しかし用心深い、緊張の高い人なので、こちらから手放すようには言わない。
緊張がほぐれた時に、どこかで自発的に手放すと考えて、信じて待つ。
イルカのキーホルダーは、大切な基地だ。
「こだわり」と呼ばれることがあるが、「安心安全の基地」と呼んだ方が肯定的である。
次に、100均セリアの発泡スチロールの填め絵パズルを出した。
Bさんは自発的に、ごっこ遊び風に、スプーンをお皿にのせたり、ケーキを皿にのせたりできる。
言葉のある人の行動だ。
数分後、イルカのキーホルダーを机の上に自発的に置いた。
自宅では、多弁だという B さんが、この日、診察室では、最後まで、一言も喋らなかった。
ダイソーの木製パズルもやり、60分以上遊んだ。
教材No.1探索行動「この場所はどういうところか、相手のこの人はどんな人か」のB さんの探索対象は、診察室やパズル及び相手をする私だった。
ここは楽しい場所だよ、私は面白いおもちゃを出すよ、が伝わったと思う。
ご家族に向かって私が、Bさんの行動の説明や、声のかけ方の具体例を話している間、Bさんは自発的に填め絵パズルの復習をしていた。
教材No.02 感覚運動
ご家族に向かって私が話している間、 B さんがダイソーの発泡スチロールの填め絵パズルを頬に撫でつけているのを見た。
ご家族は気づかないようだったが、それは3度繰り返された。
2歳4ヶ月である。
感覚運動を満たしたいのだ。
流暢に話せる子どもさんであっても、発達経過が順調に見える子どもさんであっても、2歳4ヶ月の月齢であれば、こうだ。
この時期に感覚運動を満たさないまま、周囲への適応だけ要求されれば、粗大と微細の調整の感覚運動を楽しめないまま、不器用さだけが残る。
中島昭美や水口浚が、感覚運動を満たす初期学習を大切にする理由が、話せる子どもにも見られる。
感覚運動を満たすと、多動な子どもも、パズルを叩いて入れていた子どもも、指でそっと押すようになる。
少し話が横道にそれるが、本当は発泡スチロールより、木製のパズルが重みがあって良い。
感覚運動を満たすのに、木のおもちゃが良いと言われる理由は、適度な重みと感触である。
一枚の填め板を作るのに、丸1日かかることを知っている私は、西松屋やダイソーで売っているパズルを買って、時間をお金で買うようになった。
市販品の教材の良いところは、簡単に手に入り、ご家族も真似しやすいという点だ。
家庭には、丸ノコや糸鋸やベルトサンダーがない。
西松屋やダイソーは、家庭にとって身近で親しみもある。
ダイソーの登場は、20年前に比べて教材費を1/10にした。
B さんがパズルを頬に撫でつけているのを見て、もっとすべすべとなめらかなもの、もっとふわふわとやわらかなもの、 そういうもので感覚運動を満たす遊びが、人との間でBさんにたくさん起きるとよさそうだと思った。
話せる言葉があってもなくても、2歳4ヶ月の子どもさんには、それらが必要に思えた。
そして、以上のようなことが分かるようになったのは、初めに自閉症・知的障害を併せ持つ子どもたちから、感覚運動を満たす大切さを教わったからである。
感覚運動を満たすと、粗大な行動が微細となり、 多動な行動がゆっくりとなる。
目と手の使い方が連動し、耳を澄ますようになる。
立ち止まって考え直すことが起き、相手を頼ることが起きるようになる。
共感の視線も、合うようになる。
見比べたり、照らし合わせたりすることが、上手になる。
そして最も大事なのが、子どもが使う感覚に、物理的な満足のフィードバックがあることだ。
子どもはまず自己刺激回路の運動感覚のを満たし、共感してくれる相手に開いて、嬉しさを共有するようになる。
それがコミュニケーションだ。
Bさんは言葉を話せるが、パズルを頬に撫で付ける行動は、自閉症・知的障害のある子ども達とよく似ていた。
この初期的な行動は、我々大人にもある。
シルクのスカーフの感触を頬で確かめたり、猫好きさんが猫のお腹に顔を埋めたりする行動だ。
菅井氏の「水道水の泡の話」の子どもさん 、水遊びやプールが大好きな子どもさん、スヌーピーに登場するライナスの毛布風の宝物がある子どもさん、ぬいぐるみをいつも持っている子どもさん、みな、感覚運動を満たしたい、人間行動だ。
市販品で手に入る、No.2感覚運動を満たす教材、No.3玉入れ以前の教材を、以下に紹介する。
100均ショップ、西松屋など、安価な市販品も、子どもの感覚運動を満たす教材として大いに活用されたい。
不器用で粗大な運動の調整
多動衝動の強い子ども、エネルギーが余っている子どもには、トランポリンが向いている。
積み木を投げて壊して喜ぶ子どもさんには、積んで作ることも楽しむようにしたい。
不器用で面倒だから、破壊が好きになってしまうのだ。
家庭にある、座布団やクッション積みでも良い。
積んで乗せる時、最後に力を抜くコツを「そっと」と教え、積んで作ったときをほめよう。
手持ち無沙汰で、いつも何かを持っていたい人には、ぷにゅぷにゅしたものも時には良い。
これも「ふわふわ」などの優しい触り方を教える。
手の力の調整の仕方は、一番力を入れる100の力、半分の50、力を入れない0と、数字で教える。
子どもが分かりやい評価は、数字が有効である。
猫を撫でる時も、「そっと」「0 のちから」が必要になる。
投げる人には柔らかい穴あきボールが最適である。
初めて人とボール投げをする時は、空中へ投げることの次に、相手に向かって床に転がすことを教えると良い。
換気扇などの回転するものが好きな人は開店駒が好きである。
ピンポン玉に、千枚通しで穴を開けて、楊枝や細い棒し、粘土の団のをつけると、以下と同じものが出来上がる。
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