誰でも行動を調整しながら暮らしているという、梅津の「行動調整論」については、「心理学的行動図」でお話ししました。
今回は、梅津八三の「言語行動の系譜」についてお話しします。
梅津八三は、言葉がどのようにして生まれ、どのように複雑に発達していくのかを整理しました。
それを簡単にまとめると
0.行動する時には、子ども大人も言葉を使って行動している。➡言語行動
1.言葉には、伝えることを意図しない行動=言葉がある。➡自成信号
2.痛み・悲しみなど個人の頭の中でだけイメージしている言葉がある。➡表内系の信号
3.誰かに伝えようとする身振りなど、イメージを外へ表す言葉がある。➡表出系の信号
4.交通標識やマーク及び漢字など形によって区別する言葉がある。➡形態質系の信号
5.音声・点字・指文字・書き文字など有限個で組み合わせた言葉がある。➡分子合成系の信号
信号とは、合図=ことばです。
梅津は言葉を、「自成信号➡表内系➡表出系➡形態質系➡分子合成系」の順に発達すると、整理したのです。
以前一度、梅津八三の心理学「言語行動の系譜」としても投稿しています。
現在、この書籍は Amazon で、7500円から、30点、中古販売されています。
重複障害児との相互輔生―行動体制と信号系活動 | 梅津 八三 |本 | 通販 | Amazon
上の図の後半の部分、相手に伝えるために作った信号である「構成信号」の、下位の部分の、「型弁別信号」の「形態質系信号」と「分子合成系信号」は、表の右の( )内に書いた例の通り、皆さんにも馴染みのある信号系です。
交通標識やマーク及び記号・漢字などの「形態質系」、音声・点字・指文字・書き文字などの「分子合成系」は、皆さんにも分かりやすいかと思います。
そこで今回は主に、皆さんに馴染みの少ない、「自成信号」と「象徴信号表内系」を中心に詳しくお話ししたいと思います。
1.自成信号とは意図的でない信号
①お腹が空いて不快だ、おむつが濡れて不快だ、と赤ちゃんが生理的に反応して泣いているような状況を言います。
赤ちゃんは不快だから泣いているのであって、お母さんに対して、「ミルクをくれ」「おむつを取り替えてくれ」と、お母さんに向けて泣いて合図を出しているわけではありません。
赤ちゃんが泣く行動は、意図的でない生理的な信号です。
(お母さんの側は、泣きをキャッチして、まるで合図だと思って、世話行動を起こします。)
➁お父さんが、会社に行くために、ネクタイを締める行動もそうです。
お父さんは、「出かけるぞ、出かけるぞ」と言う合図として、ネクタイを締めているわけではありません。
出勤するための、一連の自分の行動として、自分のために行なっているだけです。
伝えることを意図しない行動を、梅津は「自成信号」と名付けました。
(しかし、子どもは、お父さんがネクタイをすると出かけるのを毎日見ているうちに、ネクタイを合図として受け取る場合があります。)
③育児では自成信号の読み取りは非常に重要で、赤ちゃんの自成信号をうまくキャッチできないと、愛着関係に影響します。
育児でも、保育でも、教育でも、大人同士の対人関係でも、この自成信号を読み取れるかどうかが、前言語信号(音声の言葉以前)の、重要なコミュニケーション力だと考えています。
④最近よく「空気が読めない 」という状況を見聞きしますが、これは自成信号を読めない状況だと想像しています。
例えば誰かがあくびをしたら、他の人に伝えようとしている行動ではないが、「昨夜遅かったのかな?」「眠れなかったのかな?」「寝不足だったのかな?」「ゲームをやりすぎていたのかな?」「疲れているのかな?」などを読み取れたら、空気が読める・コミュニケーション力があるということです。
2.脳内イメージの象徴信号表内系
象徴信号表内系
象徴信号表内系は、「頭が痛いがくも膜下出血だろうか」、「お腹が痛いが盲腸だろうか」、そういう身体内部の状況など、自成信号に近い、自分の脳内イメージです。
象徴信号表内系は、自成信号と象徴信号表出系の中間に位置します。
自閉症の方が何かを思って笑顔でクルクル回ったり、嬉しくてジャンプしたり、光を見たいのか手をヒラヒラさせたりするのは、誰かに対しての合図で行なっているのでないから、これは象徴信号表内系と、私は考えています。
この「クルクルやヒラヒラ」の信号を読むことは教育には非常に大切で、ここが読み取れるか読み取れないかが、子どもの心に寄り添えるか寄り添えないかのポイントになると思っています。
「クルクル回ると(自分の眼球運動が感覚的に)楽しいね」
「手をヒラヒラさせると光が変わって綺麗だね」
そういう子どもの確定域への共感ができるかどうかが、子どもと絆を作れるかどうかのポイントです。
子どもが合図としてやっているのではないのだけれども、換気扇の前でクルクル回っていたら、「 クルクルクルクル」と言って換気扇をつけてやります。
するともしかしたら、換気扇をつけて欲しくて、私の目の前でクルクル回るようになるかもしれないのです。
そこで私もその都度、自分も一緒に身体を回転させたり、指でクルクル円を描いて見せたり、A4の大きめの換気扇の写真を見せたり、子どもが回るのに合わせて言葉で「クルクルクルクル」と言ったりします。
そしてついに、彼が換気扇の写真を手に取って私に渡してくれたら、表内系の信号を表出系の信号にできます。
相手に伝える意図のない自成信号➡脳内イメージを楽しんでいる表内系の象徴信号➡相手に伝える意味で出す表出系の象徴信号へと進めることができるのです。
3.脳外に表出される象徴信号表出系
象徴信号表出系は、相手に伝えるための合図です。
合図は、実物をかたどったもの、あるいは特定の行動の状態を表すものです。
世の中にあふれる広告のマークで考えると、分かりやすいかと思います。
子どもたちが大好きなマークに、交通標識やお店のロゴマークがあります。
マックの M は、マクドナルド店を意味する象徴信号だったり、ハンバーガーを意味する象徴信号だったり、子どもにとっては連れて行ってもらえるお出かけの象徴信号だったりします。
新聞の折り込み広告のマクドナルドのチラシを持ってきて、音声の言葉を話せなくても、「いきたい」と伝える子どももいますね。
「象徴信号」には、実物や方向を指差して伝える、模型を見せて伝える、身振りで象って伝える、写真や絵を指差して伝える、絵を描いて伝える、などの方法があります。
アメリカで発達した、音声言語のまだない子どもが30くらいの身振りサインで母親に要求を訴える、ベビーサインというコミュニケーションもあります。
知育サイト オウチーク
「自成信号」➡「象徴信号表内系」➡「象徴信号表出系」と、信号系=合図=ことばが発達していく経過を知っていることは、乳幼児の育児、保育、特別支援学校の教育で欠かせない知識です。
それらの信号系の土台の上に、➡「形態質系」➡「分子合成系」の ことばの発達があります。
特別支援学級や通常学級においても、上記の信号系の難易度を理解した上で、国語や算数などの教育が「適宜、適切(梅津)」に進められます。
その中心となる信号系が、以下です。
4.記号・漢字など形によって区別する形態質系の信号
一つの事象に、一つの単位が対応する、例えば、♂♀記号、男女などの漢字です。
5.音声・点字・指文字・書き文字など有限個で組み合わせた分子合成系の信号
アルファベットなら26文字 、日本語の音声なら97音、点字なら6点の組み合わせで、単語を構成したり文章を構成したりします。
以上簡単ですが、言葉がどのようにして生まれ、どのように複雑に発達していくのかを、梅津八三の「信号系」という視点で、ご紹介してきました。
まだ合図になっていない「自成信号」と「象徴信号表内系」を読み取り、自成と表内に共感して教材を工夫することで「象徴信号表出系」に至らせ、さらに「形態質系」「分子合成系」と言葉を発達させる、それが我々保育・教育者の仕事になります。
次回は
子どもの言葉を発達させる教材を作る 中野尚彦先生の「文構成行動の図式」を紹介します。
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