テーブルクロスがずれない工夫と公平な特別支援教育の関係

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病院小児科の療育に通ってくる4歳10か月のL君は、人との関係や相手の意図よりも、物理的な「もの」で世界を理解しています。

借りていった教材を返す時、この3か月、療育のたびに「ありがとうございました」が言えるよう、うながして来ました。

この特定の場面でだけ、L君は「ありがとうございました」が使えます。

少し状況が変わると、言えません。

少しずつ異なる状況の意味を取り、状況に対応した言葉を使い分けることが難しいです。

例えば、教材を借りて持って帰りたい時に、「持って帰る」という自分の行動の言葉は言えます。

しかし、これは相手の人への、借用依頼のコミュニケーションにはなっていません。

コミュニケーションになるには、「貸してください」ということが必要です。

保育園でも、保育士の先生が「貸して」と促すのを我々も見かけますね。

L君は、私が「何て言うんだっけ?」って促すと、「ちょうだい」と言ったり「ありがとう」と言ったりして、なかなか相手の所有物であることを理解して「貸してください」と言えません。

借りる状況、もらう状況、お礼の状況を使い分けられず、混同しています。

毎回こちらで「貸してください」と見本を言って、真似してもらっています。

構音障害もあるL君は、同級生との会話がなかなか成り立たず、L君は不全態を抱え、友達をひっかいたり、クラスの工作を壊したり、通りすがりに仲間を押したり、怪我させたりします。

また、相手の目を見て相手に伝えるのでなく、視線は手と教材を見てしゃべっています

会話でも、人の目を見ないで、ものを見て話すことが多いです。

目を見ないと、他者の意図の理解が難しいです。

私の協力の手の意図が分からず、私の手を振り払います。

お姉さんの大事なものをこたつに隠したり、保育園の友だちの靴を隠したり、散歩に行く仲間の帽子を隠したり、友だちの T シャツを自分のものだと言い張ったりしたことも、ありました。

大人がL君を常識の発達の中に押し込めようとすると、L君の不全態が保育園で爆発します。

食事・睡眠・排泄など、L君の個人の快感を保障してあげる必要があります。

嫌いなものを無理に食べさせる圧力は、L君にとって最も不快なものです。

こういう1つ1つの社会常識の圧力が、L君の心を荒れさせます。

友達をひっかいて、L君が保育園で荒れている、と聞いてからは、療育場面は学習の進展よりも、L君の好きなことを楽しむ場としたら、療育場面での荒れた言葉は2か月でなくなりました。

保育園では、L君と仲間の間のコミュニケーション能力に大きな差があるので、荒れることが続いています。

L君が自閉症であること、認知と行動が特異であることを、保護者が受容することが育児の出発点です。

「これ(テーブルクロス)邪魔なんだよ」

小児科の療育の学習テーブルに、普段、消音効果や教材の転がりを防ぐため、テーブルクロスをかけています。

療育に通ってくる多くの子どもさんは、まるでテーブルクロスがないかのように、テーブルクロスを苦にせずテーブルを使います。

L君は、4歳9か月まで、テーブルクロスをめくったり落としたり、テーブルクロスの下に教材を隠したり、テーブルクロスを恐竜ごっこ遊びに使ったりしていました。

3歳10か月の頃、テーブルクロスはいつもずれた

お父さんが療育に加わるようになって、L君に話しかけてくれるので、療育中にL君も話す場面が増えました。

4歳10か月のL君が療育の部屋に入って椅子に座り、教材で動いたテーブルクロスを見て、「これ、邪魔なんだよ」と初めて自分の気持ちを言いました。

テーブルクロスの用途を理解できない「L君は、ずっとそう感じていたんだな、裸のテーブルが良かったんだな、テーブルクロスは大人の都合だなぁ」と、私は心の中で思いました。

L君にとっては、裸のテーブルが、最も良い机なのです。

そこで、L君の気持ちと、私の都合の間をとって、テーブルクロスの4方向にゴムをつけてみました。

するとテーブルクロスは全く動かずに、学習中もL君の操作の邪魔にならず、L君の意識からテーブルクロスは消えていきました。

ニトリでテーブルクロス用の布を買って、64cm x64cm
に切り、四方を
ミシンで縫ってゴムをつけました。

L君にテーブルクロスの意味を説明してもまだ分からないので、ゴムをつけてテーブルクロスを動かなくする物理的な支援が、お互いの歩み寄りの解決策でした。

ゴムをつけてずれなくする、環境を物理的に改変する、これが合理的配慮、特別支援教育だと考えています。

学級に片付けるのが苦手な子どもさんがいる時は?

今でも40人学級の頃の小さい学童机と、狭い引き出し

教室の学童机や引き出しがその子にとっては狭いから、片付けが苦手な子どもさんには、机を2つ使ったり、机のそばに道具を置く椅子をおいたりすることが必要です。

周りの仲間へは「〇〇ちゃんは今、片付けの机が2つ必要。(あるいは道具を置く椅子が必要。)中学生になると1つで済む。△△ちゃんは今机1つで綺麗にできているね」などと解説します。

ある小学校では、南の窓下に教材置き場の棚があり、ある子どもさんがその棚の上に臨時に教材を置いて、片付けの間に合わない急場をしのいでいました。

教室の北側や南側の席なら、一時的に道具を床に置くということも可能ですね。

片付けが苦手な仲間に対して、片付けの得意な仲間が、手伝う姿もよく見かけます。

手伝ってもらって、「ありがとう」が言えれば、お互いに良い関係ですね。

青木先生は図工の図画やお習字の作品などを、お手製の画板や新聞紙を使って机の脇に綺麗に収納させていました。

合理的配慮とは

特別支援教育とは、歴年齢に対する平等な教育とは異なると、私は思っています。

歴年齢の他の子ができるのだから、常識だから、社会ルールだから、大人が決めたことだから、テーブルクロスの意味を覚えなさいというのは、L君の現在の発達や意図理解の力に対して不公平ですね。

発達差に配慮した、一人ひとりに合わせる、(暦年齢集団では)不平等に思える、公平な教育が特別支援教育です。

不平等感を、合理的な思いやりだと分かるように説得していく視点が、「ユニバーサルデザイン」「インクルージョン」「相互輔生」「多様性」だと思います。

下の画像のように、発達差のある子どもに、同じ踏み台を提供するのでなく、発達差に合った踏み台を用意することが、公平な特別支援教育です。

インターネットの画像から

「合理的配慮」と呼ばれる公平さですね。

「〇〇ちゃんは台を2個もらってずるい」のではなく、「台を2個もらうことで同じスタートラインに立つんだよ」ということです。

「〇〇ちゃんはいつも先生のそばの一番前の席でいいな」という時も、「〇〇ちゃんは先生と距離が近いと、△△ちゃんのように授業に注意集中できるんだよ」などです。

小中9年間の義務教育で、このような視点を担任の先生から受け継ぐと、世の中に出た時、子どもたちは合理的配慮のできる大人になります。

聴覚に障害がある子どもがいる時の公平な特別支援教育

聴覚に障害があって、補聴器や人工内耳をつけると、平等な教育が始められます。

そして、聞こえている側が物理的な環境を整えると、公平な教育、特別支援教育になります。

物理的な環境は、デジタルワイヤレス補聴援助システム(ロジャー)、手話通訳者、ノートテイカー、学習支援員、タブレットのデイジー教科書、テレビモニター、電子黒板、実物投影機、などです。

インターネットの画像から

次に紹介する、聴覚支援のデジタルワイヤレス補聴援助システム「ロジャー」は、聞こえている側が援助する、公平なシステムの例です。

秋田県立聴覚支援学校「かがやき」聴覚支援ガイドからの情報

①聴力レベル(dBデシベル)とは?

➁個人の、補聴器、人工内耳(これは平等のシステム)

③集団補聴システム(聞こえている側が援助することが公平なシステム)

補聴援助システムは、話し手との距離や周囲の雑音に影響されることなく話者の言葉を届けるシステムです。

集団補聴システムには、以下があります。

・磁気誘導ループシステム(体育館、ホール等で使用。常設型)

・赤外線補聴システム(各教室等で使用。常設型)

・デジタルワイヤレス補聴援助システム〈ロジャー:フォナック社〉(校外学習など校外での活動で使用。)

大がかりな設備を必要としないため、校内外を問わず使用が可能です。

※以前は、FM 電波を使用した補聴援助システムが多く使用されていました。

特別支援教育に関するこれまでの投稿

授業で注目してもらうには

注目をうながす方法

まずは物理的な工夫から

特別支援教育は物理的な支援でうまくいく

特別支援教育とはお互いの脳内イメージを脳外で同じにすること

特別支援教育とはどういう教育か?

脳外でイメージを共有する例

特別支援教育指導のコツは脳外化

目に見えない音声指示を文字化して見えるようにする特別支援教育の例

音声は目に見えず消えるから目に見えて残るように文字を工夫する特別支援教育の例

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