教育仮設28-1 個別指導の力と集団指導の力
NHK 総合テレビ逆転人生「貧困の連鎖を断て!大阪府立西成(にしなり)高校の挑戦」を見た。
前回、ブログで投稿した、福岡県警の堀井智帆少年育成指導官の非行現場対応は、言わば個別指導だ。
今回の、大阪府立西成高校の貧困に対する教育は、個別指導と集団指導の実践だった。
子どもには丁寧な個別指導が必要と普段から考え、福岡県の堀井さんの個別対応の力に感激した私だった。
しかし、今回のこの放送を見て、改めて集団指導の力というものを見せつけられた。
堀井さんも、もちろん福岡方式と呼ばれるやり方で、教育委員会・保健福祉課・児童相談所・NPO 法人等と連携して、若者の虐待支援・非行支援・自立支援をしている。
教育仮設28-2 大阪府立西成高校の反貧困学習の実践
今回の府立西成高校の逆転劇は、教頭先生の生徒の実態への気づきと疑問、校長先生の貧困教育への賛同、数学の先生の発案=「貧困」の2文字の前後に「反」と「学習」をつけたこと、の3つから始まった。
「反貧困学習」授業の実践である。
「反」とは反骨精神の反だと想像している。
以下は番組の要約である。
2007年当時、西成高校は大阪府でも有名な「教育困難校」と呼ばれていた。
生徒たちが学習に向かわない理由は何なのか、有志の先生方が会議を重ね、全ての家庭を家庭訪問し、実態調査をしてみた。
高校の先生、家庭訪問で貧困の実態を知る
地域は貧困地帯、虐待やシングルマザーの育児放棄の家庭などが、1200軒中800軒もあった。
家庭の実態を知り、先生方の言葉のかけ方が変わった。
それまでは、「今、何時だと思ってる。遅刻だぞ」と注意して、生徒たちから「うるせー」と、反発の暴言を吐かれていた。
全戸家庭訪問で、家庭の背景を知ると、遅刻しても「よく来たな」という言葉かけになった。
高校に通いながら、アルバイトをしている生徒が多数いた。
授業で貧困の事例を紹介する
授業は、事例紹介とその対応学習指導の二本立てである。
例えば、アルバイト先を急に首になったらどうするか。
労働基準監督署に、申し立てすることができる。
クビにするには、1ヶ月前の通告が必要だからだ。
それを知らない高校生たちは、クビになるとすぐに諦める。
そして心が荒れる。
勉強に気持ちが向かない。
学校をサボる。
大人を信用しないから、授業妨害をする。
非行に走る。
人生を諦める。
2007年までは、西成高校はそういう高校だった。
同じ立場の先輩の事例を紹介すると、生徒たちの目つきが変わった。
事例紹介と、その対応学習に、食いついてきた。
貧困への公的な扶助の例を紹介する
様々な公的扶助はあるが、その全てが申請方式である。
知識があって、申請しないことには、何も助けてもらえない。
高校生たちは、その「反貧困学習」をする中で、労働者保護法や生活保護の知識を身につけていった。
学校は大学進学率だけでなく、就職率に舵を切った。
先生方は全ての生徒の家庭訪問だけでなく、地域のすべての企業を雇用先・就職先として熱心に回った。
生徒たちを売り込んだ。
毎年100人の高校生が、就職を希望している。
5年後の2012年からは、その就職内定率が毎年100%となった。
生徒たちは様々な公的扶助を知り、自分の正当な権利を知って、対等な関係で自信を持って企業に就職する。
番組の中で紹介された事例は、
①高熱で1日休んだらクビになったアルバイト、
➁親に夜逃げされ捨てられた男子生徒、
③17歳でシングルマザーとなった女子生徒、 の3事例だった。
それぞれの事例に対する反貧困学習とその結果は、
➊クビになったら解雇手当・給与未払い請求ができ、支払われた。
❷先生方が市役所に行って生活保護の手続きをし、毎朝先生が朝ごはんを持って起こしに行き、生活と登校意欲を支え、そのおかげで27歳現在も正社員として働き続け、 趣味のバンドボーカルもしている。
❸シングルマザーに対する公的な生活扶助を教えてくれ、 たくさんの職場見学に付き合ってくれ、介護福祉施設に就職し、27歳現在子どもは10歳となった。
全員、実名と本人が登場した。
3人とも人生に対する自信と成功がなければ、実名と本人登場はできない。
先生方の熱意と実践が実った。
教育仮設28-3 生活扶助の特別支援教育
現在も、西成高校の反貧困学習は継続しており、NHK テレビの取材を受けた生徒たちは「いっぱい助けられているんだね」と、申請方式の生活扶助についての学びを語った。
福岡県警の堀井さんは、虐待と非行に対する個別の特別支援教育を実践していた。
大阪府立西成高校の先生方は、育児放棄と貧困に対する集団の特別支援教育を実践している。
授業中、集団で仲間と一緒に反貧困学習をすることが、生徒全体の学業に対する意識改革になるという、相乗効果となった。
報道番組で虐待や不登校や引きこもりなど、教育の不足が取り上げられるが、今回の西成高校の教育再生報道を見て、教育は捨てたもんじゃないな、という感想を持った。
皆さんにも、ぜひご覧いただきたい。逆転人生 – NHK
さらに再放送は、NHK受信契約者番号で配信手続きを済ませれば、NHKオンデマンドでも、見られる。
皆さんの身近な人に、申請方式の生活扶助を知らない人がいたら、是非話題にして紹介していただきたい。
前期高齢者になった年齢の私でさえ、長く生きていても知らないことがたくさんあった。
例えば、
・住民税非課税世帯であれば、日本学生支援機構から、返さなくていい「高校生等奨学給付金制度」に申請して、月額2万円から4万円もらえる。
・ひとり親家庭には、全母子協議会から、他の奨学金との併用が可能で、月額3万円。
・社会福祉協議会から、高校教育支援資金65000円以内 など。
・要介護認定されると、生涯に20万円までの住宅改修が申請で認められ、1割負担で済む。
・要介護認定されると、毎年10万円までの福祉用具の購入が申請で認められ、1割負担で済む。
・要介護認定された家族の介護をしていると、所得税の障害者控除27万円を使えた。
・福祉車両の購入には自治体から10万円の補助があった。
・外壁塗装には自治体から10万円の補助があった。など。
仕事業や、親業について、中学校や高校の授業で学ぶチャンスはなかなかない。
今回の西成高校の実践を見て、そういう様々な申請方式の生活扶助についての特別支援教育が必要である、そう思った。
役所に行けば、児童援護課、子ども家庭課、保健福祉課、障害福祉課、国民年金課、生活保護課など、様々な生活支援窓口がある。
役所に行き、相談し、書類申請しなければ、助けてもらえない。
育児放棄を受けたらどうするか、虐待されたらどうするか、小さな子ども自身が駆け込めるところ、困ったら、平日朝からでもそこを訪ねなさいと、そういう教育が保育園・小学校・中学校から子ども本人にも必要だ。
貧困や虐待と言う理不尽なこととの闘い方・身の守り方を、 大事な特別支援教育として、小中学校の道徳の授業で、カリキュラム化し、教えてもらいたい。
万一、不登校や引きこもる心理になった時も、不登校や引きこもりの初期に、身近な方(担任・養護教諭・スクールソーシャルワーカー・学童指導員・保健師など)から、「こういう休み方と再適応の仕方、相談先があるよ」と、本人や家族に教えてもらいたい。
ブログ冒頭のアイキャッチ画像、反転図形「ルビンの壺」は、考え方が反転する瞬間を見せてくれる。2つの反転図形、白い高台の器と、向き合う2人の顔の影像が見えるか?
堀井さんが非行少年を虐待の被害者だと見えたとき、西成高校の先生方が生徒たちを貧困家庭の被害者だと見えたとき、発達障害児や重度の引きこもりのかたが脳機能の被害者だと思えたとき、責める見え方が反転し、理解と支援が始まる。
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