音声の言葉のない自閉症の一平君の楽しみ

一平君は、音声の言葉のない、こだわりの強い、自閉症の31歳の青年です。

8歳から病院の療育に来ているので、23年の付き合いになりました。

小中学校は特別支援学級、高校は高等特別支援学校、作業所は食品製造の作業所に自宅から10年ほど通っています。

自閉症の一平君のこだわりの強さ

作業所は、月曜から金曜まで毎日は行かず、一平君が決めた曜日に、週3日午前中だけ行きます。

作業所以外の時間は、お母さんが半日あるいは1日中一平君に付き合って、一平君の行きたがるお店に、お買い物に行きます。

どのお店で何を買うかは決まっていて、500㎖ペットボトル1本ずつ買うのならいいのですが、一平君は4本ずつ買ったり、2L買ったりします。

一平君の、買うお店や買う銘柄が決まっている行動は、基本的には私の行動と一緒の仕組みです。

一平君と私が少し違うのは、私は在庫が終わる直前に、スーパーベルクでソースを買ったり、カップラーメンを買ったり、コーンの缶詰を買ったりします。

一平君は、在庫がたくさんあっても、何曜日に、どこで、何を、いくつ買うが決まっているのです。

お家でその在庫がまだ終わらないうちに、行きたいお店の日が来ると、一平君は前の晩に4本を一気に飲んだり、2Lを一気に飲んだりして、お母さんをハラハラさせます。

何曜日に、どこで、何を、いくつ買うかを守ることが、一平君のこだわり=安心です。

音声の言葉のない一平君にとって、お母さんの音声の言葉で、こだわりをコントロールするのが難しいです。

こだわりを保障することと、一平君のお腹を心配することの間で、お母さんは悩みます。

病院の療育で、絵に描いて話し合うと、一平君は療育のような外出先では素直なイエスマンで、私の絵による交渉で、『いっぱい買うのは「バツ✖バツ✖」、1つだけ買うのが「マル○マル○」』と答えます。

音声で反論できない一平君は、私の説得にイエスというしかありません。

ルールを知ってはいても行動はできない、それは一平君だけには限らないのですが‥‥‥。

強いこだわりに対する お母さんの困りごと

「せいかつ」と呼んで、一平君が野菜の水くれに行く畑も、お母さんが考えて、一平君との過ごし方を工夫するようになりました。

一平君が毎日、学校や作業所に行ってくれていれば、お母さんにも平日少しは自由な時間があるのですが、週の半分以上お母さんは一平君に付き合うので、お母さんの負担は大きいです。

一平君は毎晩6時にお風呂のスイッチを入れてくれるのですが、7時になっても8時になっても入りません。

冷めるから、お母さんが先に入ろうとすると怒ります。

一平君にお風呂の時間を絵に描いて交渉したところ、私の前ではオッケーの意味の「マル○」を出します。

イレギュラーなことがあって、予定の日に決めているお店に行けないと、自宅では大声で叫んだり、地団駄を踏んだり、夜中じゅう起きていたりします。

荒れる姿は、お母さんにしか見せません。

一人で出かけた先でトラブルがあったり、お母さんと離れた時間にスーパーでトラブルがあったりして、お母さんは精神的に何度も追い詰められることがありました。

そのつど私は、薬を飲んでみるのはどうか、グループホームに預けてみるのはどうか、お母さんに提案しました。

どんなにつらくてもお母さんは「私が一平を手放せないんです。一平と暮らしたいんです。」と、辛い期間をを切り抜けます。

論理的な一平君は算数の世界が好き

一平君は、算数の勉強が好きです。

足すといくつ、引くといくつ、という計算は、論理的な自閉症の一平君にとって、非常に分かりやすい確定の世界なのです。

療育の初めに「かりんとうはんばい、べんきょう、フレッセイ」と付箋紙に書いて見せると、一平君は何度も何度も「勉強」を指さして、勉強する!と言います。

付箋紙を3つに切って、順番を尋ねたら、「1べんきょう、2かりんとうはんばい、3フレッセイ」と決めました。

病院の療育では、これまで、部屋で勉強、病院内でかりんとう販売を継続しています。

かりんとう販売では「かなトーク」や「レジスタディ」を使います。

「かなトーク」の50音表で、「こんにちわ。かりんとういかがですか」と、ひらがなキイを打ち、指の運動にともなって、1年前から音声が出るようになりました。

文字と音が一致して、キイを探すことができます。

iPadの使い方もうまくなってきました。

あんざんマンは、一平君の好きな算数アプリです。

お父さんの介護を気にかけながら、一平君と長い時間を付き合うお母さんの、買い物交渉の助けにならないかと、私も一平君と病院のそばのスーパーに行って、一平君の買い物に付き合うことにしました。

一平君が自己決定で買い物をすることに付き合う

何でもお母さんの助けを借りないと移動できない一平君にとって、自分の買いたいものを自分で選んで買うことが大事かなと思って始めました。

1回目は、お母さんと3人で行きました。

2回目は、一平君と2人で行きました。

気をつけたことは、

一平君の前に出ない、音声で指図しない、一平君が選ぶ、の3つです。

一平君が迷ったり困ったりした素振そぶりを見せた時に、うまくいくように手伝うために後ろに控えます。

スーパーは撮影禁止ですが、お母さんに見せようと、一平君だけをこっそり撮りました。

以下が、その時の画像です。

お母さんとスーパーに行き慣れている一平君は、お母さんが教えた、かごのセッティングも上手で、見守っているだけで、任せておけます。

できるだけ、一人で買い物している状況が、一平君にとって満足があるのではないかと思っています。

31歳の青年ですから、自己決定で、自力で買い物するのが楽しいでしょう。

スーパーのカートを押すことで、両手がふさがり、ゆったりと買い物できます。

多動な子どもさんに困っているお母さんの、スーパーの買い物では、両手がふさがるカート係を子どもに担当してもらうことを勧めます。

飲み物が好きな一平君は、飲み物売り場を3度行ったり来たりしながら、自己決定で「午後の紅茶おいしい無糖」など2本を買いました。

これは以前に、私がカロリーの少ない無糖紅茶をすすめたのを一平君が覚えていて、自分で選びました。

店内を2回ほど回って、一平君がトイレットペーパーの前に立ちました。

手に取る行動をしません。

お母さんから、一平君がお店で毎回トイレットペーパーを買う、毎回買うために全部ロールをほどいて捨てて困る、という話を前回の療育で聞いていたので、一平君がどうしたいのか、私もしばらく待っていました。

一平君がそこから動かないので、私に許可を求めているのかと考え、「1つ、買ってもいいよ」とアドバイスしました。

一平君は嬉しそうに、クリネックスのシングル8ロールをスーパーのかごに入れました。

レジ会計で、「714円」と数字表示が出ると、一平君は一人でお財布から500円玉を2枚出しました。

素晴らしい、感激です。

お金の合算の勉強の成果が出ています。

レジのお姉さんと、自力でやり取りした一平君も、満足そうに見えます。

お母さんが持たせてくれたエコバッグに、自分でトイレットペーパーとドリンクを入れました。

レジに行き、レジで支払い、テーブルで品物を袋に入れ、カートを片付け、手を消毒する一連の流れがみごとです。

お母さんが毎回の買い物で教えたことが、1人でできます。

指図されない、自己決定できる買い物が、嬉しそうな一平君。

療育では、お家の在庫がなくなったら1つ買う、絵による交渉に取り組み、スーパーでは、一平君の自己決定の買い物を、しばらく続けてみようと考えています。

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