音声の言葉のない多動な自閉症児の療育5身振りの言葉

音声の言葉のない自閉症のA君が、特別支援学校の小学部に入学して2週間になります。

学校を走り回って先生を困らせているのではないか、新しい場所になじめず自傷が起きているのではないか、あれこれ心配していました。

先日、病院の療育に来てくれたA君は、良い表情で、いくつもの進化を見せてくれました。

好きなものはA君の確定域

お母さんの話によると、小学部1年生は7人で、4人と3人に別れ、A君は3人のクラスです。

担任の先生は、この「猫ちゃんブログ」を事前に読んで、A君が小児科の療育で使っているのと同じトランポリンと、公文くもんのくるくるチャイムを、用意してくれたそうです。

公文のくるくるチャイム
四角いトランポリン

先生がA君について知ろう、仲良くなろう、としてくださっていることが、嬉しいですね。

お母さんも、とても嬉しそうです。

そして何よりも、A君の表情の穏やかさは、学校で先生がA君の気持ちに寄り添ってくれているからだと思います。

自分で選んだサンダル

小児科の待合室へ、A君を迎えに行きました。

いつものキッズコーナーのマットに、A君は寝転んでいます。

「A君、行こう」と私が手を差し出すと、マット上のお昼寝ごっこなしで、A君が立ち上がりました。

早い切り替えで、サンダルを履こうとします。

「あ、きょうは緑と青のサンダルだね。(しかも両方とも左足だ!)」

キッズサンダル

お母さんが「Aが自分で選んだから」と、サンダルの色が違う理由を教えてくれました。

お母さんは世間や常識の側に立たないで、いつもA君の考えの側に立ちます。

私は、A君のお母さんの考え方を尊敬しています。

一度履いたサンダルを、違うものに履き替える理由が、A君にはありません。

お母さんは、A君が、形合わせや色合わせがまだ難しいことを、理解しています。

だから、両方とも左足のサンダルでも、違う色のサンダルでも、お母さんは直させたりしません。

可能な限り、A君の発達に合わせて、A君の身の回りの生活を整えているお母さんです。

療育の部屋を覚えたA君

前回までは、手を離すと、待合室から廊下の突き当たりまで、走っていくA君でした。

廊下の突き当たりまで走ると、物理的に実物の壁で止まります。

いつもと同じように走り出したA君は、きょうは先頭を切って、療育の部屋まで自分で走って行きます。

廊下の奥まで走らないのは、初めてのことです。

「うわー、A君、部屋を覚えたんだね」と言うと、お母さんも「そうなんです」と嬉しそう。

多分お母さんが、病院内の廊下を通るたびに、「ここだよ、ここだよ」と、部屋を教えたのに違いありません。

部屋に入ったA君の表情は、穏やかでした。

お母さんに学校の様子を尋ねながら、A君と確定域(得意)の学習を始めました。

おやつの宝探し

カップが透明なうちは、目で見ておやつを取ることがうまいのですが、カップを不透明にすると、探索と記憶が難しくなります。

A君におやつを入れる瞬間を見せると、すぐならば、不透明のカップを開けられます。

しかし、トランポリン遊びで時間が経って、机に戻ってきた時、他がからだから不透明のカップに入っていたはずだ、という消去法と記憶がまだまだです。

宝探し学習も、継続していきます。

A君がペットボトルの蓋をまわした

学校で、身体を使ってたくさん遊んでもらった日だったので、A君ものどが渇いている様子でした。

ペットボトルを持って、お母さんに渡すのがA君の「飲みたい」の合図です。

アクエリアス 300ml

実物の言葉ですね。

お母さんは「座って」と言って、椅子をトントンして勧めます。

椅子に座って、目の前にアクエリアスがあると、A君は両手を拍手のように2回合わせて、「ちょうだい」をします。

これは身振りの言葉です。

お母さんは、床にしゃがんでA君の見やすい位置にペットボトルを持ち上げ、A君がペットボトルキャップを回しやすいように、スタートを少し緩め、回す見本を見せます。

するとこの日A君は、アクエリアスを飲む3回目4回目に、自力でペットボトルキャップを、反時計回りに回しました。

素晴らし~い。やったぁー。感動です。

自分でキャップを回す時、A君の目は、じっとキャップを見ています。

この注視が欲しくて、前回は、ビンを回しておやつを取る学習もやりました。

アクエリアスを飲みたい時ならば、こんなによくA君が見つめてくれる。

A君は、食べたい時、飲みたい時、行動の意味がわかる時ならば、生活に必要な行動が整っていく子どもさんです。

食べ物飲み物の蓋を開ける、ご飯を食べる、など、この注視が必要ですね。

カバンにしまう、ボタンをはめる、手を洗う、などは、A君にはまだ行動の意味が難しいかもしれません。

棒差しも、玉入れも、スリット通しも、この注視を育てたくて、やっています。

歩みはゆっくりでも、お母さんはペットボトルの蓋開けを、丁寧に手伝います。

全部お母さんがしてしまうのではなく、全部A君にさせようとするのでもなく、A君ができそうなことを、「適時・適切・適度(梅津八三)」に教える、素晴らしいお母さんです。

対応する関係を分けたA君

これまで1種類の教材で、入れることが3つ続くと、お母さんと「やったね」と喜び合いました。

今回は、1種類で3つ入れたり5つ入れたりすることが上手になったので、対応する関係を分けるだろうか?と、2種類3種類、入れ分けることをやってみました。

棒差しは水口浚(フカシ)先生製

するとA君は、棒差しと玉入れは一番よく分け、リングのスリットも、修正しながら、対応する穴に入れます。

お母さんと2人で大喜び。

A君もお母さんにたくさん褒めてもらって、お母さんとハイタッチをします。

毎回教材を持ち帰るお母さんが、お家でたくさんA君と、学習してくれた成果です。

このように「分けるとき、言葉が生まれる」とは、中野尚彦先生の教えです。

確かにこの日、A君は、「玉は、シール容器の丸穴へ入れる」「リングは、スリット穴へ入れる」「棒は、棒にぴったりの穴へ入れる」と、入れ分ける行動で対応関係を喋りました。

さらにこの日は、4つの身振りの言葉も喋ったのです。

身振りの「バイバイ」が自発した

この日、20分くらい学習したところで、A君から右手をクルクルと回す「帰りたい」のバイバイが自発しました。

A君の学習は、20分ぐらいがちょうど良い時間です。

しかし、もうちょっと引き伸ばしても大丈夫かと思って、学習を続けました。

この辺から、A君の「アーアー」と言う声が、大きくなりました。

帰りたいという身振りの意思表示が、伝わらないから、声が大きくなったのだと思います。

帰りたいのバイバイが受け入れられず、学習が続いても、A君は顔がきつくなったり、泣いたり、手で頬を叩く自傷は起きません。

「ぐずぐず言わなくなって偉いね。すごいね」と、お母さんがA君を何度も何度も褒めました。

療育の学習時間を延長されても、A君が怒らないのは、学校でも充実した楽しい時間を過ごしてきたからだと考えています。

40分経ったところで、車の鍵を合図として見せて「帰ろう」「靴を履こう」と誘いました。

A君は、実物の鍵の言葉が分かり、さっさと靴を履いて、ドアに向かいます。

お母さんが「待ってて」と身支度する間も、うなったりしないで、待てました。

この日は、「ちょうだい」の両手合わせ、「やったね」の拍手、自分を指さす指さし、「帰りたい」の身振り、の4種類が自発しました。

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