教育仮設No.6-1 脳内作業を可視化する
自分が脳内で考えているすべての事象を、相手に実物で提示することはできない。
例えば、友達に「昨日電車で東京へ行った」と話す場合、電車という乗り物も、東京という街並みも、相手に実物で見せることはできない。
我々は、実物の代わりに言葉を使う。
スマホで電車を見せたり、東京の街を見せたりすれば、相手には事象が可視化されてわかりやすい。
言葉だけで伝わる相手には言葉でよいが、言葉だけでイメージを共有してもらえない時は、写真や絵や身振りや文字も使う。
自分の脳内イメージを、相手に可視化して伝えれば、相手にわかりやすい。
教育現場でも同じだ。
先生が意図する事象の属性を、先生が選択肢で同時に提示し、子どもが選択肢を同時に比較することで、子どもの比較照合・抽出選択が起きやすくなって、子どもが解答する。
特別支援教育とは、先生の脳内を、子どもにわかりやすいように、脳外に可視化することであると、私は考えるようになった。
梅津八三や中野が、「見本合わせ行動」と呼ぶ事態が、その最たるものである。
以下に、脳内作業の可視化例を、画像で紹介する。
教育仮設No.6-2 同時提示・同時比較の事態
①見本合わせ
木片の🔷青四角が見本項、下の四枠が選択項、正答がわかりやすいように見本項🔷は不正解の🔴の3枠には入らないように3枠は埋められ、正解の🔷が孤立項になっている。⇩
➁見本合わせによる対応
見本合わせで正答しやすいように、填まる形を隣同士に並べてやる。
1990年購入当時、ダイソーで6組100円だった。⇩
③見本合わせによる、ひらがなタイル文字の重ね合わせ
緩衝行動のクレーン車を手放せない保育園年長の子どもさんも、机と椅子には座らないが、絨毯の上でなら学習をしてくれる。
クレーン車を持っていれば、ひらがな50音表の行ごとの文字タイルの重ね合わせをやってくれる。
50音表は46文字の終わりが見えているので、子ども「ん」まで何とか取り掛かる。⇩
④読みの音が同じで使用が異なるひらがなの 同時提示・同時比較
ひらがなの「え・へ」「お・を」「わ・は」は、名詞の一部として単語の中に入っている「えんそく
・おにぎり
・わなげ
」と、名詞にくっついて助詞の役目をしている「えんそく
へ行った・おにぎり
を食べた・わなげ
は楽しい」とを、枠空間で整理し、同時提示で比較して見せる。⇩
⑤意味を添えて同時提示する
認知症98歳要介護4のヤエさんが文字を書けなくなった時、事象と文字の一致が難しくなった。
「あ」だけ見ても「あかり」といい、「あか」を見ても「あかり」といい、文字の意味を取らなくなった。
付箋紙に書いて同時に並べて見せても、判別しなくなった。
類似した単語という状況は、難しいことなのだ。
「あか」の文字に🔴赤色、「あかり」の文字に灯りの絵や写真を添えて初めて、ヤエさんや子どもたちが文字の意味を取るのだと思った。
知的障害の子どもたちだけに起きることではない。
老化によって脳が萎縮すれば、誰にも起きることだ。 ⇩
⑤選択肢の可視化
漢字の習得と活用が楽にできる子どもは、例えば、「教」を使った漢字の熟語をいくつか書きましょう、と先生に言われて、すぐに、ノートにいくつかの熟語を書き出すことができる。
脳内に、いくつもの漢字熟語があるので、脳の中からノートに書き写すことができるのだ。
脳内が白紙で、熟語が全く思い浮かばない子どもには、下の画像のような選択肢が必要だ。
あるいはノートの枠の中に「教」の文字1つを埋めて、熟語を考える。
選択肢があれば、楽に組み合わせる子どももいる。
選択肢があっても、難しい子どもには、脇に読みがなを書いて、言葉を与えてやると、漢字を選択できる。
漢字の熟語作りにも、漢字の組み合わせ選択肢を与えることだ。⇩
⑥単語カードや付箋紙による同時提示・同時比較
小学校で、学期末によく行われる漢字コンテストの練習も、同様に行なう。
漢字の読み仮名は、比較的楽にできると思うのだが、漢字の書きは結構大変だ。
まず最初に、漢字コンテストのプリントを A 3に拡大する。
次に、漢字コンテストの練習の初めには、大人が正解の漢字を単語カードや付箋紙に書いておき、漢字を子どもが①~⑤問か、①~⑩問ずつ、割り振り対応で解答する。
その作業が、25問あるいは50問、楽にできるようになったら、5問ずつか10問ずつ書く作業に移る。
書く作業の際も、正解の漢字単語カードや付箋紙は、脇の方に並べて見せておく。
辞書表だ。
2文字熟語の片方を思い出すと、もう片方も記憶から出てくる場合がある、という思い出すコツも教える。
間違いやすい似ている漢字は、取り出して、分けて記憶する、意味のこじつけを教える。
成功と成巧、必要と必用、記銘と記名、栄養と栄用など、熟語の意味を考えることで記憶を分けていく。
漢字記憶には、へんとつくりの合成と分解が必要であることは、別の投稿で紹介した。
小学校4年生の漢字も、下の画像の漢字の辺りになると、記憶には相当な言語力を必要とする。
ゲームで漢字を覚える子もいるが、読書量が減り、会話量が減り、実体験からの情報収集が減っている子どもたちにとっては、漢字1006字の意味習得のハードルは高い。⇩
⑦同時提示・同時比較の問題は親切である。
こういう出題になっていれば、事象と付き合わせた動作記憶・運動記憶から読み仮名を振ることができる。
⑧算数の単位の問題でも、先生あるいは子ども自身が、ワークやノートの開いている場所に、単位の3種類をmm・cm・mと、メモ書きすることができれば、脳内作業の負担が減って、 脳外で目で見ることで比較しやすく、正解しやすくなる。
⑨算数四則の文章題の記号の判別についても、以前に投稿したように、四則の記号の同時提示・同時比較によって四則の記号の意味習得が正確になる。 ⇩
「算数四則文章題の解き方」2020/10/17
⑩算数の教科書も、たまに同時比較・同時提示してくれているページがある。
欲を言えば、使う数字を同じにしてくれると、「位」に注目することが、もっと起きやすい。
例えば、以下の画像であれば、75個、375人、1075枚、10375冊という具合である。⇩
教育仮設No.6-3 特別支援教育とは脳内作業を脳外作業に可視化すること
選択肢のある見本合わせ法や、選択肢の脳外提示・比較照合という可視化の支援によって、漢字の意味習得や、いろいろな学習記憶を助けたいものだ。
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