
22 灰色猫との別れ
4年目、春に灰色が一度、うす紫色のおしっこをした。
驚いた。
心配になり動物病院に連れて行こうかとずいぶん迷ったが、灰色は食欲もあり元気に狩りを続けているから、自分の忙しさにまぎれて放っておいた。
灰色は相変わらず狩りをしてモグラやムクドリを捕って来ては食べていた。

夏、灰色が少しやせた気がした。
前年からのダイエットフードの効果だと私は軽く考えていた。
秋、灰色が大好きなカニかまぼこを食べないことに、ある日気が付いた。
水ばかり飲んでいる。
動物病院に連れて行ったら、猫白血病にかかっていて、レントゲンを撮ると、すでに胃がどこにあるかもわからないほど重篤で、肺に水がたまっているという。

猫白血病にいつかかったのかは特定できないという話だった。
去年予防接種をする前からこの病に罹患していたのか、発症はいつからだったのか、私には皆目わからなかった。
1年前、灰色は数度ケガをした。
あの頃、猫白血病の猫と闘って噛まれたり傷つけられたりしていたのか。
今年の予防接種が遅れたことを私は悔やんだ。

1週間、灰色はもう水も飲まなかった。
動物病院で水分補給の注射を2本してもらった。
脱水が収まったのか、いっときお母さんとベランダの陽だまりに出た。
つらいのだろう。浅い速い呼吸をしている。
私のベッドの羽毛布団で寝ていることが増えた。
体がつらくてふかふかの羽毛布団で耐えているようだった。

私が仕事から帰ると羽毛布団の上で連日排尿していた。
11月9日、最後の日、灰色は人間の炬燵の中で一日暖をとりながら留守番していた。
灰色はこたつの中で排尿していた。
おしっこが出てよかった。
私が帰宅すると、灰色はない力を振り絞って炬燵からピョンと出てきた。
もう頭も上げていられない。治る可能性のない灰色。

このままでいいのだろうか。
迷いながら私は動物病院に連れて行き、獣医さんに「解放してやってもらえるか」と依頼した。
獣医さんが安楽死させてくれた。
むくろになった灰色を我が家へ連れて帰り、お母さんに見せた。
お母さんは寄っては来たが灰色を舐めたりはしなかった。

クロが眠る金木犀の近くに灰色を埋めた。
お母さん猫には現実があるだけで出来事の感情はなさそうだった。
それは平らな気持ちで暮らせる猫の資質なのかもしれない。
私もそうありたい。
3歳半だった灰色。
4匹の中で一番早く、人懐こく、私に心を許してくれた灰色。
1週間の闘病で逝ってしまった。

手足の長いサバトラ猫だった。
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