教室離脱に対応する方法

教育仮設No.8-1 梅津八三の行動調整法の心理学

梅津八三の心理学については、教材に関するこのブログ投稿の初期に、以下の記事で述べた。

心理学から考える子どもの行動と教材 | 猫ちゃんブログ

梅津八三の心理学「言語行動の系譜」 | 猫ちゃんブログ

梅津理論は、行動調整の心理学だ。

行動調整理解という教育仮設を「学校で席に座らない子ども」F 君の例で考えていく。

ジェンダー論から言えば、性差に関係なくFさんと呼ぶべきであるが、悪意や他意はないので、F君のままご容赦願いたい。

教育仮設No.8-2 保育園と小学校の文化ギャップ

F君は、保育園から小学校の通常学級に入学した。

保育園は、朝から元気に遊んでくださいという、保育文化である。

ところが、小学校は、朝から静かに座って勉強してくださいという学校文化が、急に始まる。

大勢の子どもは、外遊びから教室での勉強へと、文化が変わっても順応できる。

F君は、その文化ギャップにすぐに馴染むことができなかった。

保育園の先生は、F君に文化ギャップを予告することがなかった。

年長組さんの最後の3ヶ月、保育園側が保育を学校文化に近づける必要がある。

ちょうど冬場で寒い時期でもあるので、1月から3月までの間は、午前中は、机と椅子での制作や読み聞かせ、かるた遊びなどに、ぜひ取り組んで欲しい。

給食を食べた後、元気いっぱいに遊べば良い。

教育仮設No.8-3 保育園の先生が小学校文化を理解して保育する

年長組さんの保育が、小学校の体制に近づいてほしいことは、他にもある。

保育園での、慣れた先生に言われる提案、慣れた友達モデルと一緒にする行動、がF君にとっては身につきやすい。

①担任の先生を「何々ちゃん」と呼んでいた保育園でも「何々先生」と呼ぶように変更すること、

➁45分くらいは続けて座っていること、

③先生の提案の時に、作業の切り替えの区切りに、トイレに行くこと、

④制作中に席を離れたい時は、手を上げて先生に許可を得ること、

⑤読み書き算数・絵の描き方を教えない保育園であっても、他の場面でF君のような子どもに不器用が器用になるコツを言語化して教えてやること、

「水道栓を閉める時は最後に力を半分にするよ」

「小さい子と遊ぶ時は力を半分にしてね」 

「クレヨンは短く持つと折れないよ」

「机から離れて脇の下を締めるとハサミが使いやすいよ」

「 壁の方を向いて着替えると集中できるよ」」

⑥どんなSOSの表現を保育園で子どもに入力しておくか、が大事だ。

例えば、「難しい時できない時は、分かりませんって言ってね」「分からない時困った時は、先生を呼んでね」など。

⑦保育園の先生がどんな言葉をかけると、子どもが行動調整したのかを、入学先の小学校に伝えてほしい。

「先生の説明を最後まで聞けたね」

「じゃんけんは必ず誰かが負けるよね」

「苦手なことにもチャレンジできたね」 

「難しくても最後までやれたね」

「仲間に譲れるとかっこいいね」

「ドンマイ、ドンマイ」 「残念だったね」「よく我慢したね」など。

保育文化の学校教育への歩み寄りについては、以下の「予定表絵カード教材」の投稿にも、「教材No.09-2 学校を意識した保育文化の変更」として具体例を書いている。

予定表絵カード教材の紹介 | 猫ちゃんブログ

教育仮設No.-4 小学校の先生が保育園文化を理解して教育する

小学校の先生が、女性の場合、男の子の多動さを理解してほしい。

家庭で、お母さんも女性なのでそうなのだが、自分の育ちや女の子の育ちしか知らないと、男の子のエネルギーや男の子の多動性を理解できないことがある。

小学校の先生も、男の子のF君の多動性や不器用さ及び言語発達の遅れ、保小の文化ギャップへの共感を大いにしてほしい。

F君が大勢の子どもとは違う行動を取った時、F君を集団に合わせようと考えないで、集団がF君に合わせることを考えてほしい。

力ある者が、力ないものに合わせるのが、合理的配慮だ。

それが、特別支援教育である。

朝読書の時間を、身体を動かす時間帯にしても良い。

1時間目に体育があってもよい。

45分間の授業の最初の15分に、じゃんけん列車やペア学習など、エンカウンターのような身体を動かすゲーム要素が入っていても良い。

授業中、身振り運動や発声運動をたくさん取り入れて、単なる座学ではない、行動参加型の授業を考えると良い。

注意集中は15分くらいで飽きるので、 15分×3=45分となるような授業展開を考えると良い。

不器用で、読み書き算数も遅れているので、板書のノート書写よりは、プリントへの書き込み式が楽である。

プリントへの書き込みは、選択肢を丸で囲んで解答したり、選択肢の番号を書いて解答したりするプリントならば、書くことが苦手な子も、参加行動が楽だ。

小学校の先生が、以上のようなことを想定して、 新学期を始めて欲しい。

教育仮設No.-5 接近行動・不全態・回避行動という理解

F君は、小学校に入学し、毎日、登校し始めた。

これは、接近行動である。

接近行動を当たり前だと思わないで、接近行動を認める声かけをして欲しい。

朝会った時、朝の配り係のお手伝いの時、1時間目が終わったとき、「元気に来たね、先生嬉しいよ」「朝ごはん食べた?安心したよ」「今日の給食、楽しみだね」「昨日はお家で何をしたの?」などの言葉をF君にかけてほしい。

F君が45分座っていることができないで教室内をフラフラした時も、 回避行動に声をかけないで、意図的に無視し、「教科書のプリントのぬりえをしよう」「なぞり書きをしよう」など参加への接近を提案する声かけをしてほしい。

提案したら、回避行動を深追いせず強化せず、皆と授業を進める。

F君が席に戻った接近行動の時だけ、「戻れたね、やれそうだね、チャレンジうれしいよ」などの声をかけて、回復調整を強化する。

難しくて、わからなくて、出来なくて、悔しくて、つまんなくて、うまくいかない「不全感」で、席を離れる回避行動になったのだ。

スラスラできて、楽々できれば、F君も着席して、45分取り組むに決まっている。 

皆の前で声をかけるとしたら、席を離れた回避行動にではなく、そうならざるを得なかったF君の「不全態」に、声をかけねばならない。

「何々が難しかったのかな?」(子ども非難でなく条件批判)。

「何々がつらいのかなぁ」(面と向かってよりも背中でつぶやく)。

皆に指示を出しておいて、F君がフラフラと行った先のロッカーの上、でプリントと鉛筆を置いてやり、立ったままの参加でいい、「先生も手伝うよ」「一緒にやろう」などはどうだろうか。

場所は床でも教卓でもどこでもいい、課題への接近を回復させると、席にも接近できる。

移動先の支援学級の先生も、出来ない、うまくいかない、悔しい「不全感」と、止むに止まれぬ「回避行動」を理解してくれる。

止むに止まれぬ回避行動への、非難の声かけはせず、理解と提案の声かけだけしておく。

提案の時、声かけだけでなく、実物のカードやプリント、実物の鉛筆を、先生が接近して手渡すと良い。

国語で、書く作業が大変で回避。カードを手渡すと応じる。

子どもは手を塞がれると、それを処理しようとするものだ。

わかること、できることには接近して、やり始める。

しかし先生の声かけが非難に聞こえたり、苦手なのに無理強いすれば、身の守り行動の意味の攻撃から、カードやプリントを破ることも、暴言も起きる。

先生も内心は「ヒエーッ」と思うが、暴言もプリントを破かれても落ち着いて、苦手と孤独とSOSだと思うことだ。

F君が課題に接近したり、自分の席に接近したりした時こそ、大げさに皆に聞こえるように「F君できたね」「F君座った、先生嬉しいよ」「戻れたね」「チャレンジだね」などの肯定的な認める声かけをしてほしい。

座席離脱の、教室離脱の、初回の先生の対応が大事だ。

2回目以降は全職員の協働・協力が欠かせない。 

放課後、F君と話し合って、保健室・職員室・校長室・支援学級など、F君が回避行動で行く先を「F君、どうしても授業に参加できなくなったら、先生心配だから、保健室・職員室・校長室・支援学級などで過ごして、また戻ってきてね」と、教室離脱の初日に約束しておけると良い。

梅津や中野によれば、接近行動が良くて、回避行動が悪いというわけではない。

そのどちらも、粗大な調整が、お互いを苦しめるのだ。

図工の時間が終わっても、図工の続きをやりたがる接近行動だと先生は困るし、黙って教室離脱する回避行動だと担任の先生は慌てる。

接近行動も回避行動も、微細に調整されるということが重要だ。

「先生、保育園の時のように半日全部工作をしたくて、次の授業をやりたくないです」「先生、支援学級に移動して図工の続きをやってもいいですか?」というような微細な説明のある回避行動であれば、先生も落ち着いて対応できる。

しかし、小学校1~2年生で、そんな風に言える子どもは、なかなかいない。 

先生が、回避行動への対応を、想定しておくしかないのだ。

先生の方で、教室離脱の子どもの心理を想定しておけば、例えば「気持ちはわかったよ。F君がこの教室から移動するより、この教室に先生はいてほしいから、一番後ろの席で静かに続けていていいよ。さ、みんなは国語をやろう」とか、「続けてやりたいんだね。分かったよ。昼休みにやるのはどうかな。先生はF君と一緒に国語をやりたいな。」「支援学級で区切りのいいとこまで図工ができたら、戻ってきて国語に参加してね」などと、落ち着いて言えるかもしれない。

教育仮設No.-6 心理学的な行動理解

1人1人発達の速度に差がある子どもを、経済的な効率から35人集めて教育する。

保育文化が好きだった、F君の離席行動・教室離脱は、そんなに悪いことだろうか。

保小の文化ギャップを埋めなかった、保育園と小学校に責任はないか。

保育園による文化の違いの予告、小学校文化に合わせる保育の変更、小学校側による文化の違いの理解、F君の回避行動を肯定的にとらえること、などが大事だ。 

学習への回避行動が起きるF君について、教師がどういう言葉をかけると、どういう特別支援を行なうと、F君に学習への新しい接近行動が起きるのか、心理学的な行動理解が問われる。

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