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ヤエさんと7匹の猫生

手の機能の退行にどう対応したらいいか? 要介護4

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手の機能の退行

 ヤエさんも、要介護4では、手の運動機能も、足の運動機能と同様に退行した。

足の運動機能の退行は、転倒が増えたり、歩行車や車椅子が必要になったりすることで、我々にもわかりやすい。

手の機能の退行はそれに比べると分かりにくかった。

ヤエさんは美容師をしていたり、賞状技法士をしていたりして、手を使うことが好きな人だった。

96歳要介護4までは、お箸が持てたり、スプーンも上手だったり、鉛筆を持ってプリントに書き込んだり、塗り絵ができたりした。

97歳になると、認知機能・足の運動機能の退行とともに、手の機能も同時に退行していたのだ。

97歳は、手すりにつかまるときに、指が壁に突撃してから、手すりをつかむ。

箸が持てなくなり、フォークは使い方がわからなくなった。

スプーンも、人差し指をうまく使って、柄を持てず、人差し指が親指の上に重なるようになった。

スプーンは、ダイソーの文房具の子ども用鉛筆ホルダーで柄を太くして握りやすくした。

1~2歳の子どものように、スプーンの端っこを持つことが増えた。

物を持った時に落とすことも目立った。

テーブルの食器に手が当たって、みそ汁や茶わんが倒れた。

夜、寝ている時に、両手を重ねたり組んだり、パジャマやバスタオルをつかんでいることが増えた。

要介護5になってからは、手にぬいぐるみやバスタオル、手袋やウォーマーを持たせると安心して眠れるようだった。

人間の手は器用に使えている時は、ゆったりとバラバラに離れて眠れる。

手の機能が退行してくると、身体の真ん中に手が集まるということを、私もヤエさんの生活の中で見て知った。

自分が仕事で関わる、ことばのない自閉症・知的障害の重い方たちが、必ず手に何かを持っていたいという気持ちが、ヤエさんを見ていてよくわかった。

生活面積の広い学校で、音声のことばのないあの子たちを手ぶらにさせたまま教育する、それは”言語のないことと手持ち無沙汰であること”を理解しない、話せる人のパワーハラスメントように私には思える。

音声言語の力が、人の行動水準になっている。

ヤエさんを見ていて、言語をなくしていくと、手に何かを持っていたい、手で何かをいじっていたい、それが言葉の代わりなんだということがとてもよく分かった。

ヤエさんの昼間の手の使い方、夜の手の様子を見ていて自閉症・知的障害の子どもたちの手の不器用さを思った。

私も将来、認知症のヤエさんや、自閉症・知的障害の重い方たちのようになるのだ。

不器用さを助ける道具と、声のかけかた

何もないとテーブルを叩いている時もあったので、薄めの座布団を敷いた。

「叩いていいよ」と伝えたが、なぜか座布団は叩かなかった。

きっとヤエさんにも何か使い分けがあるのだ 。

食後、一人にしたら、カップに残った牛乳を、ヤエさんは少しずつテーブルにまけた。

お腹がいっぱいになり、もう飲みたくなかったのだと思う。

「牛乳があります」という叙述の言葉だった。

事実を叙述する言葉だから、「なんでそんなことするの」と感情で叱ってもしょうがない。

「ごちそうさまだね」「片付けるね」と言って拭けば済む。

テレビを見ている時も、テレビの内容に追いつく言葉がもうないから、手に何かを持っていたいのか、ビニールテーブルクロスを丸めたりした。

不器用な時には道具が助ける、当たり前のことだ。

ヤエさんに低いコップは使いやすかった。

持ち手が大きいコップは使いやすかった。

リッチェルの使っていいね! シリーズマグカップ7-1718-01、三信化工のでんでんマグカップ UPC-180NGなどだ。

早い時期にこれに使い慣れていると良さそうだ。

口に当てる角度が親切設計のベストカップも寝た姿勢でも飲めるカップで口に当てやすかった。

ベストカップ(¥2000くらい)は右手用と左手用があり、福祉用具レンタルの介護サービス会社のカタログで選んで購入した。

私が片手を添えてやるとヤエさんは飲みやすかった。

2018年98歳要介護5、脱水の入院で病院の言語聴覚士さんに摂食指導を教えてもらったときの”でんでんのスプーン”は使いやすかった。

ろう便が起きた理由

ヤエさんがトイレの壁に便を塗りつけたことがあった。

1920生まれのヤエさんはもともとトイレットペーパーをたくさん使わない人だ。

94歳から私がトイレ介助するようになって分かったことだが、ヤエさんは排便でもペーパー15cm程度を1~2度引っ張るだけだった。

私がペーパーを5回引っ張って渡すと、「そんなにたくさん‥‥‥」とヤエさんが言った。

ヤエさんの長年の習慣だから、「1.2.3.4.5回引っ張って」と毎回私が言っても、「5回とる」と文字に書いて置いても、最後まで伝わらなかった。

トイレットペーパーはダブル巻きのペーパーにした。

ネットで調べたら、3枚重ねのペーパーも販売していた。

95歳、私がヤエさんの排便の清拭をするようになった。

ある時、私が補充ペーパーを取りに目を離した間に、ヤエさんが利き手の右でない左手で便を拭いて、左手に便が付いてしまい、便が手に付いたことに驚いて急いで壁で手を拭いたらしい。

ヤエさんがペーパーを取る分量が少ないことと、トイレットペーパーがヤエさんの座位の左壁に付いていてペーパーから遠い利き手の右手で拭かなかったので起きたことだった。

目を離した私が悪い。

個別の在宅介護でこうなのだから、施設での「弄便」が様々な理由で生じることは想像できる。

トイレの壁に便を塗る「弄便」も、一人にされる状況、ことばのない状況、退行していく不器用な手の状況、たまたま手に付いたものを壁でぬぐおうとして起きる。

それを叱られ、強化されると、印象深くなり、繰り返しが起きたりする。

我々から見てマイナスに思える行動、困った行動は、可能な限りスルーして、強化しないほうがいい。

不器用で起きる、食卓でこぼれた食事も、我々が黙って片づけたらいいのだ。

介護士さんが一度に多人数をお世話する施設介護では見逃される理由も、在宅介護では当事者との歴史共有・同行時間の長さから、行動理由の推察ができることが多い。

在宅介護で個別に判明した当事者の行動理由を、施設介護での対応に生かしてもらえたら嬉しい。

個別介護での学びを、集団介護に生かしてもらうと、学校教育の特別支援教育と同じだ。

個に学び、集団に生かす、「特別支援介護」を望む。

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猫ちゃん

 臨床発達心理士と特別支援教育の仕事をしています。
 要支援2~要介護5のアルツハイマーの親の15年の介護でやってみたアイディアを書いています。7匹の猫生も紹介しています。
 このブログの題名「猫ちゃん」は、認知症だったヤエさんが一匹一匹の猫の名前を憶えられず「猫ちゃん、猫ちゃん」と総称して可愛がったことに由来しています。

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