手の機能の退行にどう対応したらいいか?要介護4

手の機能の退行

 ヤエさんも、要介護4では、手の運動機能も、足の運動機能と同様に退行した。

足の運動機能の退行は、転倒が増えたり、歩行車や車椅子が必要になったりすることで、我々にもわかりやすい。

手の機能の退行は、それに比べると分かりにくかった。

ヤエさんは60年間美容師をしていたり、85歳まで賞状技法士をしていたりして、手を使うことが好きな人だった。

96歳要介護4までは、お箸が持てたり、スプーンも上手だったり、鉛筆を持ってプリントに書き込んだり、塗り絵ができたりした。

97歳になると、認知機能・足の運動機能の退行とともに、手の機能も同時に退行した。

97歳は、手すりにつかまるときに、指が壁に突撃してから、手すりをつかむ。

箸が持てなくなり、フォークは使い方がわからなくなった。

スプーンも、人差し指をうまく使って、柄を持てず、人差し指が親指の上に重なるようになった。

スプーンは、ダイソーの文房具の子ども用鉛筆ホルダーで柄を太くして握りやすくした。

1~2歳の子どものように、スプーンの端っこを持つことが増えた。

物を持った時に、落とすことも目立った。

テーブルの食器に手が突進して、みそ汁や茶わんが倒れた。

夜、寝ている時に、両手を重ねたり組んだり、パジャマやバスタオルをつかんでいることが増えた。

要介護5になってからは、手にぬいぐるみやバスタオル、手袋やウォーマーを持たせると安心して眠れるようだった。

人間の手は器用に使えている時は、ゆったりとバラバラに離れて眠れる。

手の機能が退行してくると、身体の真ん中に手が集まるということを、私もヤエさんの生活の中で見て知った。

自分が仕事で関わる、ことばのない自閉症・知的障害の重い方たちが、必ず手に何かを持っていたいという気持ちが、ヤエさんを見ていてよくわかった。

生活面積の広い学校で、音声のことばのないあの子たちを手ぶらにさせたまま教育する、それは”言語のないことと手持ち無沙汰であること”を理解しない、話せる人のパワーハラスメントのように私には思える。

音声言語の力が、人の行動水準になっている。

ヤエさんを見ていて、言語をなくしていくと、手に何かを持っていたい、手で何かをいじっていたい、それが言葉の代わりなんだということがとてもよく分かった。

ヤエさんの昼間の手の使い方、夜の手の様子を見ていて、自閉症・知的障害の子どもたちの手の不器用さを思った。

私も将来、認知症のヤエさんや、自閉症・知的障害の重い方たちのようになるのだ。

不器用さを助ける道具と、声のかけかた

何もないと、テーブルを叩いている時もあったので、薄めの座布団を敷いた。

「叩いていいよ」と伝えたが、なぜか座布団は叩かなかった。

きっとヤエさんにも、何か使い分けがあるのだ 。

食後、一人にしたら、カップに残った牛乳を、ヤエさんは少しずつテーブルにまけた。

お腹がいっぱいになり、もう飲みたくなかったのだ。

「ここに要らない牛乳があります」という、事物の存在に対する、叙述の言葉だった。

事物を叙述する言葉だから、「なんでそんなことするの」と、感情で叱ってもしょうがない。

「ごちそうさまだね」「片付けるね」と言って、事物を片付け、テーブルを拭けば済む。

我々も、感情でなく、事物で対処すれば良い

自閉症の方たちの認知に、とてもよく似ている。

認知症や自閉症の方たちの行動を理解する時に、感情でなく、事物で理解すると、当事者と同じ認知ができる。

テレビを見ている時も、テレビの内容に追いつく言葉がもうないから、手に何かを持っていたいのか、ビニールテーブルクロスを丸めたりした。

不器用な時には道具が助ける、当たり前のことだ。

ヤエさんに、低いコップは使いやすかった。

持ち手が大きいコップは、使いやすかった。

リッチェルの使っていいね! シリーズマグカップ 7-1718-01、三信化工のでんでんマグカップ UPC-180NGなどだ。

早い時期に、これに使い慣れていると良さそうだ。

口に当てる角度が、親切設計のベストカップも、寝た姿勢でも飲めるカップで、口に当てやすかった。

ベストカップ(¥2000くらい)は右手用と左手用があり、福祉用具レンタルの介護サービス会社のカタログで選んで購入した。

いずれも、ほとんど Amazon で購入が可能だ。

私が片手を添えてやると、ヤエさんは飲みやすかった。

2018年98歳要介護5、脱水の入院で、病院の言語聴覚士さんに、摂食指導を教えてもらったときの、”でんでんのスプーン”は使いやすかった。

ろう便が起きた理由

ヤエさんが、トイレの壁に便を塗りつけたことがあった。

1920生まれのヤエさんは、もともとトイレットペーパーをたくさん使わない人だ。

94歳から私がトイレ介助するようになって分かったことだが、ヤエさんは排便でもペーパーを、15cm程度1~2度引っ張るだけだった。

私がペーパーを5回引っ張って渡すと、「そんなにたくさん‥‥‥」とヤエさんが言った。

ヤエさんの長年の習慣だから、「1.2.3.4.5回引っ張って」と毎回私が言っても、「5回とる」と文字に書いて置いても、最後まで伝わらなかった。

トイレットペーパーを、ダブル巻きのペーパーにした。

ネットで調べたら、3枚重ねのペーパーも販売していた。

95歳、私がヤエさんの排便の清拭をするようになった。

ある時、私が補充ペーパーを取りに行って目を離した間に、ヤエさんが利き手の右でない左手で肛門の便を拭いて、左手に便が付いてしまい、便が手に付いたことに驚いて、急いで壁で手を拭いたらしい。

ペーパーがない、ペーパーがヤエさんの左壁に付いていて、利き手の右手から遠いので、起きたことだった。

目を離した私が悪い。

1対1の個別の在宅介護でこうなのだから、施設での「弄便」が様々な理由で生じることは想像できる。

トイレの壁に便を塗る「弄便」も、一人にされる状況、ことばのない状況、退行していく不器用な手の状況、たまたま手に付いたので慌てて壁でぬぐおうとした状況、などで起きる。

それを叱られ、強化されると、印象深くなり、繰り返しが起きたりする。

我々から見てマイナスに思える行動、困った行動は、可能な限りスルーして、強化しないほうがいい。

不器用で起きる、食卓でこぼれた食品も、我々が黙って片づけたらいいのだ。

介護士さんが一度に多人数をお世話する施設介護では見逃される理由も、在宅介護では当事者との歴史共有・同行時間の長さから、行動理由の推察ができることが多い。

在宅介護で個別に判明した当事者の行動理由を、施設介護での対応に生かしてもらえたら嬉しい。

個別介護での学びを、集団介護に生かしてもらうと、学校教育の特別支援教育と同じだ。

個に学び、集団に生かす、「特別支援介護」を望む。

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 病院小児科で臨床発達心理士をしています。
 梅津八三の心理学、行動調整法、子どもの行動理解、育児、教材、ソーシャルスキル、介護、猫の行動について投稿中です。

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