吃音症は、幼児の8%に起きます。
幼児8%のうちの7%は治り、1%は治らないと言われています。
左利きも、直せる左利きと、直せない左利きがありますね。
吃音症の原因は、脳の言語野の接続不良です。
「パパ 会社 行った」などの、三語文の時期に、発症しやすいと言われています。
話そうとして、脳が興奮して、ワーキングメモリの容量が足りなくなると、どもるのだそうです。
吃音症には、話し始めの音を繰り返す連発、単語の間が伸びる伸発、話し始めの頭の音がなかなか出てこない難発の3つがあります。
吃音は、90%が出だしの言葉で起きます。
幼児期の吃音症の初期対応
2021年9月に、幼児吃音症臨床ガイドラインが発行されました。
保護者や園の先生の対応が、以下のように書かれています。
①周りの大人がゆっくり話す
② 周りの大人が簡単な文、ことばで話す
③ 目の前(現在)のことについて話す(過去の記憶について話すことは難しい)
④ 質問を減らす(質問を控え、子供の話したいことに沿って会話をする)
⑤ 子供の気持ちが落ち着いている状態で話す(興奮すると吃音が出やすい → 順番に話す)
⑥ 話し方のアドバイスはしない(「ゆっくりね」「おちついて」「深呼吸して」は、子供の自己コントロールが難しい)
⑦ 言い直しを要求しない
発達障害の子どもや、自閉症スペクトラムの子どもにも、とても有効な対応の仕方ですね。
周りの子どもたちにも、「からかわない、言い直しをさせない、早口やおしゃべりな子と同じ○○君の話し方だよ、待ってね」などと、話します。
行動する時のワーキングメモリの弱さを助ける順序数と身振り
ワーキングメモリは、記憶と情報処理の能力です。
例えば、繰り上がりのある暗算などは、ワーキングメモリの脳の働きの例です。
48+37は、一の位の8+7=15、十の位への繰り上がり1を記憶し、十の位の4+3=7、そこに繰り上がった分の1を加え85。
このような暗算が、苦手な人がいます。
ワーキングメモリの弱い人は、二つ以上のことを、同時に処理するのが苦手だと言われています。
そうだとすれば、一つの事を一つずつ処理することが、ワーキングメモリの容量の助けになります。
TOSSサークルの先生方が、「一事一指示の原則」を大事にするのは、ワーキングメモリが小さくても、一つずつ指示すれば、記憶と処理する行動が起きやすいからです。
例えば、
「4時間目は体育館に行くから赤白帽子と筆記用具と探検ボードを持って廊下に並びましょう」という指示は、一度に5つの指示が入っています。
この5つの指示を、担任の先生が以下に変更します。
「4時間目は体育館に行きます。
持っていくものは、イチ(1の指型)赤白帽子(頭にかぶる身振り)、
ニ(2の指)筆記用具(鉛筆で書く身振り)、
サン(3の指)探検ボード(空中を四角くなぞる身振り)です。
3つ(3の指型の身振り)持って、廊下に(廊下を指差す身振り)並びましょう。」
一事一指示に区切り、身振りや序数の指型を入れて、ワーキングメモリの記憶保持を助けます。
ワーキングメモリが弱いと言われる、発達障害の子どもたちにも有効な方法です。
吃音のある子どもが話す時のワーキングメモリ
会話は、相手の直前の話の内容を記憶して、自分の話を組み立てます。
①相手の意図を読み、➁記憶し、③意図に合う答えを考え、④記憶し、⑤整頓して、⑥音声化します。
会話の際に、ワーキングメモリは、脳内で、6つの判断と処理を行ないます。
会話というと、音声一つだけと考えがちですが、上記の①②③④⑤⑥の働きが必要で、一度に6つ以上のことを処理しなければなりません。
6つを抱えて、ワーキングメモリの容量が足りなくなると、ピントがずれた答えになったり、頭が真っ白になったり、一部を忘れたり、どもったりが起きます。
①定型の言葉を記憶する、日直の号令、委員会や係の司会、劇や式典のセリフ、教科書の音読、自己紹介などは、家庭で独り言で練習しやすいです。
➁その都度新しく考える、授業中の発表、何気ない会話、面接の応答などが、吃音の非常に目立つ場面になります。
多くの子どもは、脳のワーキングメモリーが不足する、緊張する場面でどもります。
歌ではどもらない、一斉音読だとどもらない、独り言では吃音が軽減します。
学校の日直の号令場面の支援
毎年変わる記憶の負担を減らすため、小学校の日直の号令を、1年生から6年生まで、学校全体で統一します。
日直は、必ず2名以上で号令を言います。
文章の出だしがどもりやすいので、出だしの1語をクラスで一斉に言います。
授業のチャイムが鳴り、先生が中央に立って、「はいどうぞ」と言ったら、
クラス全員で「これから」と言います。
日直当番の2名は(これから)に続けて「算数の勉強を始めます」と言います。
以下を印刷して、ラミネートして、黒板に貼ったり、日直カードとして机の上に置かせたりします。
1.先生 「はいどうぞ」
2.全員 「これから」
3.日直「(これから)○○の勉強を始めます」
4.全員 「お願いします」
終わる時も、授業の開始と同様の1.2.3.の号令で、「これで、○○の勉強を終わります」
中学生になると、日直の「注目」「令」、全員で「お願いします」の学校も多いです。
吃音の児童生徒がいる場合、日直の号令そのものを無くしても良い、と私は思います。
先生が「始めます」と言ったら、児童生徒全員で「よろしくお願いします」だけで、素晴らしい挨拶です。
先生の「終わります」に、全員で「ありがとうございました」でいいですね。
吃音のある人が委員会の委員長になったとき
吃音のある児童生徒と委員会担当の先生とで、事前に役割の相談をできると良いです。
司会は、副委員長にやっていただき、委員長は黒板に文章でまとめる役割でも、良いかと思います。
本人が司会をしたいということであれば、司会も日直の号令のように、定型の言葉を印刷して、ラミネートし、委員長と副委員長の2名で、ラミネートを指さしながら、一緒に発話すると、斉唱になって良さそうです。
事前にプリントして本人に、家で独り言で練習しておくように伝えます。
例えば、以下のような例文です。
「これから〇〇委員会を始めます。
1番は、何々について話し合います。
意見のある人はいますか?
他の人はどうですか?
賛成意見、反対意見はありますか?
〇〇さんどうですか?
二つの意見が出たので多数決をとります。
先生、どうですか?
1番は、何々してみることに、話し合いがまとまりました。
次に移ります。
2番は、何々について話し合います。
これで〇〇委員会を終わります。」
委員長、副委員長としないで、委員長2名という役割でも、良さそうです。
音読場面の支援
全員で一斉に読む、川ごとに読む、グループごとに読むなど、4人以上で読むような斉唱にします。
全員でバラバラに音読するのも、良さそうです。
教育委員会や学校で、デイジー教科書をダウンロードしてもらい、家でChromebook やタブレットで音読を聞いて、練習するようにします。
授業発表の場面の支援
日直の号令、委員会や係の司会、劇や式典のセリフ、教科書の音読など、決まった言葉を発表することは、斉唱で吃音が軽減されそうです。
一人で、その都度新しく考えて、意見を発表することが、最もワーキングメモリを必要とする状況に思えます。
そこで、音声で発表するための脳内操作を、脳外化することが助けになると、考えます。
授業中の発表は、考えてすぐ音声発表するわけですが、そこにワンクッション、考えを文字にすることを入れます。
考える➡文字にする➡音声化するというふうに、文字にすることを差し挟むと、考えを言うことが文字を読むことになるので、脳内操作の負担が減るのではないか、という想定です。
先生の発話で言うと、
「何々について発表できる人?」
「全員、教科書に書いてあるヒント部分を指さしてごらん」
「全員、ノートに、考えを、1行書いてごらん」
「書いたことを発表できる人?」
という具合に、1~3分、書く作業を取り入れます。
45分の授業の中で、1回そのような配慮があると、吃音のある子どもの、ワーキングメモリの負担を軽減でき、発表するチャンスを作れます。
吃音のある子どもが、ノートに書いたことで、頭が真っ白にならず、挙手して発表できれば最高です。
先生の机間巡視で、「〇〇君がいいことを書いていた」と、先生がノートを代読するのでも、良いと思います。
あるいは全員、隣の人とノートを交換させて、吃音のある子どもの文章を、隣の子どもに発表させるのもいいですね。
考えながらの発表はどもるが、短い文章を書くことで読み上げやすくなり、それを先生が認めて褒めるように心がけると、先生の応援はきっと伝わります。
自己開示といじめ予防
吃音症は、幼児期から成人期まで、以下のような階層をたどると言われています。
「どもる」という言葉を、他の言葉で言い換えるとします。
自分から仲間に自己開示するときや、先生が他の仲間に対して説明する時です。
「つっかえる、スラスラと話せない、長く伸ばす話し方、繰り返していう話し方」などと説明できます。
吃音を気にせず、明るく外交的な子どもさんの場合は、あらかじめ本人と話し合って、自己開示の希望の有無を聞いておきます。
学年始めに自分から「僕、どもります。自分では治せません。笑わないでください。」
あるいは学年始めに担任の先生から「〇〇君、話したり読んだりするときにつっかえます。皆は聞き取り名人で待ちましょう。真似してからかったりしないようにね。」と、いじめ予防の警告をします。
万一、からかいが起きた時は、「音の真似はオウムや九官鳥でもできます。発表の意味を考え、話す人の立場になることは、人間にしかできません。あなた方なら発表の意味を聞こうとし、話す人の立場になれます。」と話します。
得意なことを認めて活かす
通級指導教室で、言語聴覚士の先生に、専門的な助けを受けることができます。
ろう学校で教育相談や検査を受けたり、学校訪問指導を受けたりすることもできます。
しかし1%の子どもは吃音が治らないので、治すということに全力を注ぐよりは、本人の得意なことを伸ばして、自分に自信を持たせて行くことが良いです。
誰でも得意と苦手があるので、吃音という話し方の苦手さに勝る、得意な趣味特技があると自己肯定感を持てます。
パソコン、算数・数学、楽器演奏、模型や工作、イラスト、囲碁将棋、ヒップホップダンス、スポーツ、写真撮影、清掃ボランティア、家事手伝いなど、会話のコミュニケーションが少なくて済む趣味を、家族や友人と一緒に見つけましょう。
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