子どもを育てる保護者の皆さん、保育士さん、先生方に、知っておいてもらいたい発達心理の知識が3つあります。
1つ目は、人はどのように行動を調整して暮らしているか、という知識です。
2つ目は、言葉がどのように発達していくか 、という知識です。
3つ目は、子どもの遊びや学習は対応関係の高次化で進む、という知識です。
今回は、 1つ目を観ていきましょう。
1.「心理学的行動図」(梅津八三)
梅津八三によれば、昆虫、魚、猫、人間 に至るまで、全ての動物は、以下のように行動を調整して暮らしていると言います。
梅津八三の「行動学」を見て行きましょう。
自律系の自己調整 と 開放系の相互調整をしている
誰でも、疲れたときは、ひとりになって閉じて休む、自律系の自己調整が必要ですね。
我が家の猫の花ちゃんは、便秘などで具合が悪い時、ただじっと自己調整をして、しのいでいる模様です。
誰でも元気があると、生き生きと保育園や学校に行って、相手や周囲に合わせた行動がとれる、 開放系の相互調整を楽しめます。
相手に合わせて、開いてばかりいると、疲れるので、また休みますね。
平日の5日間は外の世界に開いて、土日の2日間は自宅でゆっくり閉じて休む感じです。
25歳のダウン症のマー君は、小学生の時、学校から帰ると自分の部屋にこもって、トミカを並べて遊んでいたそうです。
トミカが、マー君にとっての大切な休息だったのですね。
25歳の今では、月曜から金曜まで毎日、作業所のお仕事に行きます。
頭の中では、時々、好きなことを空想して、上手に閉じているようです。
そうやって、誰でも開いたり閉じたりしながら、暮らしています。
行動には接近行動と回避行動がある
HSCのお子さんや自閉症スペクトラムのお子さんは、断ることが苦手な場合があります。
友だちから遊びに誘われて断るとき、黙りこんだり、「やだよ、遊びたくない」と言うのは角が立ちますね。
遊びたくない時は「 うん、ありがとう。きょうは無理なんで、またね。」 と言えば、友だちは気持ちよく、また次も誘ってくれます。
接近が良くて、回避が悪いというのではなく、接近と回避の間をなめらかに微調整できることが、周囲に適応できる調整力のある行動になります。
友だちになんて言ったらいいか分からない様子の時は、お母さんや保育士さんが、モデルのことばを教えてあげましょう。
大人でも、断り方は難しい行動ですね。
得意な領域を「確定域」と呼び、苦手な領域を「不確定域」と呼ぶ
誰にでも、得意なことと苦手なことがあります。
私は仕事が確定域、 運動が不確定域です。
図鑑を見ることやゲームが確定域で、身辺自立や友だちの気持ちを汲むことが不確定域の子どもさんもいるかと思います。
お母さんは、子どもの好きなカブトムシ=確定域のTシャツを着替えに用意して、着替え行動を起こしやすくしてくれます。
保育園の先生は、目に見えない友だちの気持ちを、絵に描いて見せて分かりやすくして、話してくれます。
行動した後は不全感や自全感が生まれる
誰でも行動した後で、失敗すると不全感を持ち、うまくいくと自全感を持ちます。
確定域では、自全態になりやすく、不確定域では、不全態になりやすいです。
子どもが苦手な事に取り掛からない理由は、不全態を予想して恐れるからです。
苦手を克服させようと促しても、子どもがなかなか取り掛からない理由が、ここにあります。
突然苦手なことをやらせるのではなく、得意な事の勢いで、ちょっとおまけでチャレンジするとよさそうです。
例えば、ほとんど着替えを手伝ってやり、最後のボタンと、最後のズボン上げだけ、子どもにやらせます。
「着替えたね」と、やったことだけ伝えておきます。
他には、算数の得意な計算をスラスラやった後で、1問だけ文章題をオマケでやる感じです。
文章題は、イメージを持ちやすいように、大人が絵を描いてあげてください。
絵によって、文章の意味のイメージが持てると、式を立てやすくなります。
描いてもらった絵によって、分かって解けると、文章題に対する不全感が、自全態へ変わります。
不確定域の不全態では回避・緩衝・救急行動が起きる
苦手な「不確定域」で無理にチャレンジさせようとすると、「不全態」を予想して、子どもは回避します。
あるいは、他の緩衝行動へ移って、時間稼ぎをします。
いやなときは大人でも、逃げたりグズグズしたりする、当たり前の身の守り行動ですね。
不全感が強いと、物を壊す破壊行動、あるいは、他者や自分を傷つけるパニック行動などの「救急行動」を引き起こすこともあります。
例えば 、苦手な繰り上がりの計算問題を、4問なら我慢して取り掛かれるが、20問あると、考え続ける苦労を予想して、怒ったり、プリントをクシャクシャにして断ったりする姿を、見かけます。
20問プリントを、初めから4問ずつに切っておくことが、取り掛かりやすくします。
また、自閉症スペクトラムの方のこだわりを、無理に消去しようとすると、不安になり混乱して、パニックや他害・自傷などの救急行動が起きます。
子どものこだわりを保障し、得意なことに目を向け、うまくいった満足感から、苦手なことにもおまけでチャレンジする、そんな流れが大事です。
確定域の自全態の勢いで苦手へ踏み出しが起きる=革生行動
不確定域で 不全感を持たせるよりは、子どもの得意な領域に目をつけて、「確定域」 に共感し、共有し、得意な領域の拡大を手伝います。
得意なことが拡大する時、苦手なこともなぜか、ちょっと引き上げられます。
得意な領域の自全感によって、苦手へのチャレンジや、新しい行動への踏み出しが、起きやすくなります。
確定域や自全態の勢いによって、 これまでになかった革命的な生活行動=革生行動を引き起こすことが、育児や保育および教育で起きる発達上の学びです。
目の前の子どもが今、梅津八三の「心理学的行動図」のどの行動の状態にいるか、目を凝らし耳を澄ましてみてください。
梅津八三の「心理学的行動図」は、子どもの行動を理解する上で欠かせない心理学です。
予告
以下については次回投稿します。
2.発達と「言語行動の系譜」(梅津八三)
以下については、次々回、投稿の予定です。
3.教材と「文構成行動の図式」( 中野尚彦)
さらにこの先
4.教育心理学は木村允彦の「生活体」と梅津八三の「接近仮説」で完成する
という投稿を予定しています。
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