動物行動学者コンラート・ロレンツによれば、猫の振る舞う行動は、人間の振る舞う行動の土台であると言えるそうです。
野良から保護されて、保護主さんのたっぷりの愛情で育った花ちゃんは、我が家に来た半年後くらいから、お昼寝も、毛づくろいも、人間のそばにやってきて行ないます。
可愛いですね。
嫌なことをされても、保護してくれる人のそばにいる
花ちゃんは、爪切りと歯磨きが大嫌いで、嫌いな爪切りと歯磨きをされた後は、いったん逃げるのですが、すぐに人のそばにやってきて、のんびりと毛づくろいを始めます。
嫌なことをされても、ご飯をくれる人間に甘えてくる花ちゃんの愛着行動を見ていて、親に虐待されても、親の愛情を求める子どもの姿を思いました。
嫌なことをされても、甘えて寄ってくる、猫にある行動が、人間の子どもにないはずがない。
下位の猫にもある愛着行動は、上位の人間の子どもには、いっそうあるはずです。
お母さんへの愛着を言葉にしたY君
Y 君は、お母さんに言われたことをすぐに忘れてしまう、お母さんに言われてもすぐに取りかかれない、「はい」とか「そうだね」と言えない、じっとしていられない、不器用で乱暴、文字や数を覚えられない、ルールを守れない、常識が分からない、先生や友達とトラブルになる、そんな子どもです。
1回言って分からない、しつけることが難しい子どもなので、言うことを聞かないと、お母さんにたびたび叱られます。
叱られてばかりの Y 君ですが、4年生のある時、うつむいたまま「………だってお母さんは、………僕と手をつないでくれないじゃないか………」と、しぼり出すような声で言いました。
一人で面と向かってお母さんに直接は言えないので、私たち他人がいるところで、お母さんの愛情を求めたY 君。
そうか、お母さんと手をつないで、歩きたかったんだね。
お母さんにどんなに叱られても、お母さんと手をつなぎたい Y 君の、子どもらしい愛着の言葉です。
叱られても、理由や気持ちを聞いてもらえなくても、親に触れていたいという子どもの本能的な欲求。
Y 君の愛着を求める場面と、猫の花ちゃんの愛着行動が重なります。
嫌な爪切りをされたら、寄り付かなくなりそうだけど………。
嫌なことをされても、人間を頼って甘えてくる猫の花ちゃん、この人のそばにいれば安心で安全だと、人間よりも下位の猫にも愛着行動があります。
そうであれば、上位の人間である子どもには、猫よりも、もっと複雑で、もっと激しい、親に対する愛着の気持ちがありそうです。
「お前なんか産まなきゃよかった」と言われても、「出て行け」と言われても、叩かれても、締め出されても、施設に預けられても、お母さんと家が恋しい Y 君。
切ないですね。
お母さんに愛されたい Y 君のソーシャルスキルトレーニング
猫の花ちゃんにある愛着行動の上位に、Y 君の愛着行動の理由が見えました。
お母さんに、手をつないでもらえるには、どうしたらいいか?
Y 君と、相手が喜ぶ言葉を練習します。
「何々してね」と言われたら➡「はい、わかった」「はい、すぐにやるよ」「これをやってからでもいい?」「○○時からでもいい?」
「まだやってないの?」と言われたら➡「忘れちゃった。もう1回言って」「忘れてごめんね」「遅くなってごめんね」「お母さんと一緒にやりたい」など、会話のロールプレイを練習します。
「うんうん」「そうだね」「そうか」「そうなんだ」という、相手の話に対する、うなずきやあいづちが大事だよと、付箋紙に書いて、筆箱に入れて、思い出してもらいます。
猫の花ちゃんに音声の言葉はないが、Y 君には身振りや音声の言葉があります。
お母さんが喜ぶ話し方、友だちが喜ぶ言葉を育てます。
どう言うと相手が喜ぶか、猫よりも上位にある、人間だけができる言葉の育成です。
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