T君は、待合室でしていたスマホのゲームをオフにして、スマホを手に持ったまま、お母さんと相談室に入りました。
この日初めて会う、小学校4年生の男の子です。
お母さんに本日の相談内容を聞くと、「最近、子どもがイライラしたり、暴言を吐いたりして、言うことを聞かない」という育児相談でした。
子どもとの話し合いの始めかた
子どもと話し合う時、手ぶらで面と向かって意気込んで話すよりも、何かをしながらの方が気楽に話し合いが始まります。
T君は、おうちでお母さんが「話を聞いて」と、話し合おうと思っても、ゲーム機を手放さず、お母さんの話を聞かないのだそうです。
相談室では私とお母さんで話し始めたので、T君は自分は質問されないのだと思って、お母さんのカバンのスマホに手を伸ばしました。
T君の現勢の保障の意味で「スマホのゲームをしていていいよ。音は消してね。質問の時が来たら聞くからね。」と、ゲームを肯定して、操作を認めました。
心理相談では、短い時間で仲良くなりたいので、T君の得意なことを取り上げないで、味方であること表明し、T君の心を掴みます。
保護者でも先生でも、話し始めは、現勢の保障、共感と同行がポイントです。
子どもと話し合いたい時、子どもが今していることの区切りまで待つか、待てないときは今していることを取り上げずに、段々話し合いに引き込んでいくように、計画しましょう。
小学校1年生から4年生までの発達心理
私から、お母さんに、小学生の子どもの心理の経過を話しました。
小学校1年生の多くは、一生懸命、初めての学校生活に合わせようとして先生や保護者の指示に従います。
だから、割合素直です。
小学校2年生になると、学校生活にも慣れて、学校のルールを守ろうとし、ルールを破る友だちを、先生に言いつけたりすることが増えます。
社会化が起きていますね。
小学校3年生では勉強が抽象的になり、難しくなってきます。
小学校4年生では、勉強ができないと、自己否定的になります。
ゲームに熱中する理由は自己有能感の確認
そこで、出来るゲームに熱中するようになります。
できる、わかる、ゲームは快感を保障してくれます。
「宿題をしない、片付けない、ゲームばかりする」と、保護者がマイナス行動ばかりを指摘すると、子どもはますます快感の方向へ逃げていきます。
なので、「お母さん、勉強で自信のない彼に、したこと、やったこと、できたこと、得意なことを認めて、声をかけるようにしてみてください。」と、T君の4年間の心理をかいつまんで話しました。
さらにお母さんに、T君に話しかける時のポイントを話しました。
「T君がゲームをしている側で、あるいは夕飯の時に、静かにお母さんが心配をつぶやくと、結構T君は聞いています。
ポイントは非難しない、否定しない、『宿題をする時間あるかなぁ』と、心配をつぶやくだけにすると受け入れられやすいです。
『夕飯のお皿洗いを手伝ってほしいなぁ。』などと、つぶやいてみてください。」
猫ちゃんブログで何度も投稿していますが、お手伝いは、子どもが自己有能感を確認するチャンスです。
確定域で得意なことをしながらだと話し合いやすい
T君はゲームをしながら、私の話を聞いています。
さらにお母さんから、T君の1日の生活の時間を聞き出しました。
お母さんの脳の中にある生活時間と、T君の脳の中にある生活時間を、目で見える形で可視化します。
18時に、お母さんも T君も帰宅します。
19時の夕飯までに、お母さんとすると、学童でやりきらなかった宿題をして欲しいそうです。
宿題を済ませてから、夕飯、ゲーム、入浴、就寝が、お母さんの理想です。
しかしT君は、学校と学童と2つの集団生活のストレスを、帰ってすぐはゲームで解消しようとします。
宿題が先送りになり、夕食後もゲームをしてしまうことが多いそうです。
宿題が先かゲームが先か、意見の食い違いが、お母さんとT君の言い争いと暴言の原因のようでした。
お互いの脳の中の考えを脳の外に可視化して話し合う
私が、時刻と生活項目を書き始めると、スマホをしていた T 君が、私の図を見て、話に参加し始めました。
音声の言葉だけの話し合いよりも、絵や図を描くことで、話し合いへの参加度は高くなります。
相手が脳の中で考えていることが見えて、分かりやすいからです。
私が、お母さんとT君の希望を並べて書き、そこに「お手伝い」という項目を一つ加えました。
「風呂洗いのお手伝いは、しているよ」と T君もすっかり話し合いに参加しています。
「洗濯物たたみ、食器洗い、お米研ぎ、掃除機かけ、ゴミの仕分け、新聞紙縛り、など色々あって、やってくれるとお母さん助かるよね」と話しました。
「30分お手伝いしてくれたら、30分ゲームを延長する。それでどうですか?」と二人に聞きました。
睡眠時間について聞くと、現在は9時間以上寝ているので、8時間30分にチャレンジして2学期の眠気の様子を見てもらうようにしました。
前々から T君は、お母さんにゲームを30分延長してくれと、交渉していたそうです。
お母さんはそれを許可できなくて、「だめだよ」対「クソババア」などの言い争いがあったようです。
お母さんは T君のゲーム依存を減らしたいとも考えているので、私から「夕食後30分、トランプやオセロなどのアナログゲームを、家族でするのはどうですか?」と二人に聞いてみました。
T君は大賛成で、トランプや将棋など、家族でやりたいそうです。
将棋を知らないお母さんも、T 君に聞いて、駒の動かし方を、駒に矢印➡で記入することになりました。
矢印付きの、くもんの将棋も持っているのだそうです。
この時、T君の手はもう、スマホのゲームを操作していません。
スマホは膝に置いたまま、私やお母さんの目を見て話し合っています。
電子ゲームは、一人でほったらかしてやらせておけば良いのですが、家族でするアナログゲームは保護者が時間を割かないとできません。
T君が電子ゲームから離れるには、お母さんも時間を割くことを理解して、アナログゲームを一緒にやってくれることになりました。
「帰宅したら夕食まで、宿題とお手伝いをするか、電子ゲームをするか、は帰宅した時にT君が決めるのはどう?」と聞くと、T君から笑顔と OK が出ました。
①T 君に自己決定権がある。
➁先に宿題とお手伝いをすれば、これまで60分だった電子ゲームを90分にしてもらえる。
➂帰宅してすぐ夕食前にゲームを60分して、宿題が後になってしまった日も、家族がトランプなどのアナログゲームを一緒にしてくれる。
T 君の希望がかなう選択肢を与える形で、お母さんの理想とのすり合わせを書きました。
病院でも私からお説教されるのかと、用心してスマホのゲームを手にしていたT君ですが、60分の相談中、とてもよく話し合いに参加してくれました。
非難されるのでない、否定されるのでない、お互いの希望を目に見えるように可視化して、お互いに歩み寄る話し合いを、今後もT君と話し合いたいと思います。
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