28歳のダウン症のまさや君は、特別支援学校の小中学部の時は、よくしゃべる子どもでした。
病院の療育では、1歳から中学部までお付き合いがありました。
高等部を卒業し、作業所でお仕事をするようになり、23歳になったまさや君と、久しぶりに病院の療育で再会し、28歳現在に至っています。
怖い人が見えるという SOS
23歳の時に心理相談に見えたお母さんの主訴は、まさや君が怖い人が見えるようになって、「怖い怖い」と、ひどく怯えるという主訴でした。
「何が怖いのか?」まさや君に質問すると、まさや君は怖い人が見える状況を、一生懸命話してくれます。
ダウン症のまさや君は構音が悪く、私にはほとんどまさや君の話が聞き取れません。
お母さんはまさや君の言っている音声が分かり、まさや君の発話を通訳してくれます。
23歳の時に怯えた原因は、「できない、わからない、嫌だ」と拒否を言えないことだと推測しました。
学校教育や作業所のお仕事、お母さんがこうしようねと言ってくれる助言に、ひたすら合わせてきたまさや君です。
まさや君は拒否の言葉を言う代わりに、自閉傾向もあることから、強迫観念と強迫行動が起きて、怖い人が見えるという SOS を出したのです。
まさや君の力を過大評価して追い詰めない、そうお母さんと話し合い、お母さんもその努力を重ねています。
行動がスローペースになり、音声の表出が激減した
成人してからのまさや君は、穏やかで、ゆっくりと行動する人です。
家ではラーメンを1本ずつ食べたり、作業所で着替えやお昼ご飯にそれぞれ1時間以上かかったり、お風呂のシャワーや歯磨きを何十分も繰り返したり、スローペースであることに、お母さんは悩んでいます。
まさや君のこれらの症状からは、学ぶことがたくさんあります。
自閉症スペクトラムのかたに起きやすい、繰り返すこだわりの行動は、禁止したり、排除したりする行動ではなく、そのかた自身が自分の調整として行なっている行動なのだと理解して、許される限り我々が時間を待って、好意的に肯定的に見守る必要があります。
「今はその調整があなたに必要なんだね」という理解です。
まさや君は24歳頃から、音声の表出が減って、家でも作業所でも療育でも、ほとんど喋らない人になりました。
25歳から28歳の療育では、音声を出させようというよりは、文字の分かるまさや君と、iPad でかなトーク作文をしています。
まさや君は「やきにく ぎょうざ ラーメン おさしみ マグロ」など、好きな食べ物を文字キーで打つことができます。
まさや君のキーの探し方を見ていると、小さく発声して文字を探しているので、まさや君の中に、音声が保持されていることが分かります。
しかし音声の表出がないので、私やお母さんにイエスノーを聞かれない限り、まさや君が自分から気持ちを表わすことがありません。
玄米は嫌だ、白米がいいと言えない
最近、お母さんがまさや君の健康を考えて、家族で玄米ご飯に変えたところ、まさや君は玄米ご飯が嫌だと言えずに、1粒ずつ食べて、何時間も食べているという態度で SOS を出しました。
玄米を食べることを急がせると、5年ぶりに、怖い人が見えるという症状が起きたそうです。
お母さんも、玄米のせいだということが分かり、すぐに白米に切り替えました。
怖い人が見えた SOS は、まさや君の意思表示の学習を、私がサボっていたせいだと思います。
〇好きです ✖嫌いですの学習から意思表示をスタートする
そこで、まさや君に、実物の飲み物で好き嫌いを表出してもらい、実物➡写真➡身振り(イエスノーの首振りやマルバツの身振り)➡iPadでの気持ちの絵➡音声の表出に広げていこうと考えて、次のような学習をしました。
➀飲み物の好き嫌いを聞くと、〇✖カードで答えてくれます。
➁おやつの好き嫌いについて本で尋ねると、〇✖を載せたり、〇✖を指差したり、〇の指サインがすぐに出たり、小さな声で「好き」を言うようになりました。
➂食べ物全般の好き嫌いについて写真本で尋ねると、
肉は好き〇だが、野菜は嫌い✖
大好きなお寿司については、マグロ・サーモンは好き〇だが、イカ・いくらは嫌い✖と教えてくれます。
④お店の好き嫌いについて尋ねると、ハンバーガー屋とラーメン屋が好き〇だと答えてくれました。
まさや君にとって、実物や写真を使った分かりやすい質問については、指の〇サインと「好き」の音声で、素早い反応で答えてくれます。
まさや君の力を過大評価してはいけない、実物や写真などの分かりやすい状況で気持ちを聞くことが意思表示のスタートだと思いました。
〇✖の意味を広げていく
➀やりたいこと〇と、やりたくないこと✖を、LITALICO のえこみゅで聞くことにします。
②〇✖の意味を、リタリコのえこみゅで増やしていきます。
➂かなトークプラスに〇✖があるので、まさや君に質問する時 iPad を出しておけば、かなトークプラスの〇✖、えこみゅの絵カードの表現で、答えることが可能になります。
音声を出しにくくなったまさや君には、〇✖カード、iPad、かなトーク、えこみゅなどをいつも手元に置いておくことが、意思表示を起きやすくします。
まさや君が音声系を使わないので、我々も音声よりも、カード、iPadのえこみゅやかなトーク を使うべきだと思いました。
まさや君の好きな場所好きな食べ物を1冊の本にして〇✖を聞きました
白い本というのが、Amazon などで販売されています。
そこに、お母さんにLINEで送ってもらったまさや君の写真を貼って、1冊の本にしました。
この夏の家族とのお出かけや、日常生活だから、よく覚えているらしく、笑顔がたくさん出ました。
場面を覚えているんですね。
どの写真も〇好きな場所や好きな食べ物で、嫌い✖は、下の4番の歯医者さんだけです。
パン生地に見立てたお豆腐を計量する学習も、嫌いじゃないと言ってくれて安心しました。
まさや君は、家族や指導員さんとの、新規な楽しいお出かけでは、早い行動ができます。
しかし自宅では、ダラダラのんびり、気が済むまで、繰り返し繰り返し時間をかける行動があるそうです。
そういう時、急がせるような声をかけると、まさや君の計画にとっての邪魔が入って、また1から始めるような気がするので、お母さんに許される時間の範囲では、途中で口を出さないようにとお願いしました。
環境である我々が〇✖身振りやえこみゅを使おう
まさや君との会話に音声だけではなく、〇✖身振りやえこみゅを、係わる大人が使うと良さそうです。
我々は子どもに力をつけようと思って、子どもにカードや iPadを使わせようとしますが、まずは環境である我々が使ってみせると、子どもたちも使いやすくなります。
我々は便利だからつい音声を使いますが、音声を使わなくなったまさや君には、〇✖身振りや文字、えこみゅを使うことが対等なコミュニケーション関係で、まさや君の意思表示を増やせると思っています。
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