今回は、お掃除当番について、仲間から注意されたQちゃんが、大暴れした理由とその対応について考えていきます。
小学校では、お掃除当番表という円グラフがあって、それを順番に回転移動させて、毎週掃除場所が変わるというのを見かけます。
円グラフになっていると、記憶の負担を避けられて、子どもたちにわかりやすく、お掃除に参加しやすくなりますね。
回転移動の方向は、時計回りか、反時計回りか、回転の方向の矢印も、付いているといいです。
発達障害特性のある子どもは、右と左がわからないことがあるので、どちら回りという音声記憶の約束よりも、目で見た矢印の向きで、当番表を回す方向がわかると、記憶違い・操作違い・誤解・トラブルを避けられます。
掃除当番の場所は分かったが、掃除道具の種類の順番まで考えなかったQちゃん
その週、Qちゃんは教室掃除当番でした。
Qちゃんは、プライドが高く、こだわりが強く、パブリックルールよりもマイルールを主張する、カッとすると暴言・暴力の起きやすいお子さんです。
Qちゃんは、5時間目に楽しい授業があるので、昼のお掃除も、ルンルン気分で、喜んで参加しました。
お掃除当番の場所は、教室でした。
掃除の場所は合っていた、掃除をやる気もあったのです。
Q ちゃんはモップを持って、掃除を始めました。
Qちゃんは、道具の順番や友達の気持ちまでは考えられず、取り掛かりやすいモップを一番先に取って、お掃除を始めました。
そこを仲間から、「Qちゃんはモップじゃないよ」と、注意されます。
「いつもモップばっかりやって、床の雑巾がけをしないじゃん」と、言われてしまいました。
仲間たちは、教室掃除の道具がモップ・ほうき・雑巾と3種類あり、誰でもモップ係をしたいということを分かっています。
友達の指摘は正論です。
正論なだけに、気がつかなかったことを指摘されて、Qちゃんはカッとなりました。
そのとたん、Qちゃんはプチっと切れて、正論を言った友達を叩こうとして、執拗に追いかけ始めました。
怒りのスイッチが入って興奮すると、何も見えなくなってしまうQちゃんです。
先生がやってきて、仲間が正しく、Qちゃんが悪いという判断になりました。
Q ちゃんの目は、怒りで三角につり上がっています。
Qちゃんは自分が悪いとは思えず、追いかけたことの謝罪を求められても、固まって黙ってしまい、教室を逃げ出して、5時間目の授業に参加しませんでした。
教室から離れることで、クールダウンしたのです。
「授業に参加しない」と考えれば、できない子に思えますが、「自分でクールダウンして収めようとしている」と思えば、できる子に思えてきます。
Qちゃんが好きな掃除道具の順番を頭に入れておく
Q ちゃんには、発達障害特性があります。
コードレス掃除機や、ダスキンモップは、喜んでかけてくれます。
Qちゃんは、脳の扁桃体による快不快が、他の子どもよりも強いので、不快や面倒を避けようとする特性があります。
他の子どもより、不快に対する我慢が難しい、ということです。
四つ這いになって、床の雑巾がけをするよりも、立ったままできる道具、コードレス掃除機➡モップ➡ほうきならば、お掃除行動が起きやすいのです。
雑巾がけは、Qちゃんが最も避けたいと思っている掃除です。
他の子どもたちも、おそらくそうかと思います。
他の子ども達は、嫌なことでも我慢する、ルールを守る、仲間や先生に認められたい、という同調の気持ちが強いので、雑巾がけも黙々とやります。
Qちゃんの発達特性は、大人には理解できますが、同級生の仲間に「発達障害」を解説することはできません。
「順番を守ろう」という、精神論や常識、言葉の約束を持ち出しても、一旦カッとなった Q ちゃんには通じません。
では、どうしたらいいのでしょうか。
そうじに参加した!という下位の行動をまず認める
「 Q ちゃん、お掃除しよう!と張り切ったんだね。」
「先生、嬉しいよ。」
「モップをかけようとしたんだね。」
「モップをしたかった気持ちは分かったよ。」
「他の友達も、モップができる日を楽しみにしているみたい。」
「先生が教室掃除の道具の当番表を、今、作るよね。」
「それで、どの日に誰がモップができるか、分かりやすくしよう。」
などというのはどうでしょうか。
指導のポイントは3つあります
①一番初めに、Qちゃんが既にできていることを、認めて褒めます。
そうじに参加した、モップで教室をきれいにしようとした、それは紛れもない事実です。
Qちゃんの行動事実を取り上げて、Qちゃんにも仲間にも、「掃除をしようとしたということは、いいことだ」と、はっきり伝えることがまず大事です。
➁2番目に、 Q ちゃんの掃除行動が、「先生は嬉しい」と、伝えます。
君のことを認めているよ、君のことを理解しているよ、と Q ちゃんと仲間に伝えましょう。
問題行動を話し合う手前で、Qちゃんの緊張を和らげるテクニックです 。
③3番目に、順番という常識やモップをやりたい友達の気持ちを取り入れて、「教室掃除の道具の当番表」を提案します。
叱責や謝罪を受け入れないQちゃんも、物理的な解決による次回の行動プランは、受け入れやすい解決策です。
以上が、発達障害児のソーシャルスキル指導では、精神論を持ち込まないで、物理的に工夫する方がうまくいく例です。
発達障害への理解があると、対象児への共感や、仲間との関係を作る指導ができる
発達障害特性のある方は、目を見ない、こだわりが強い、常識がない、挨拶ができない、謝罪ができない、相手の気持ちが分からない、伝えたことを忘れる、同じミスを何度もする、不注意で不器用だ、などと評価されやすいです。
先天的な脳機能と環境との関係で起きる行動なので、本人のせいではない、むしろ本人が一番の被害者です。
脳の扁桃体が、一般の子どもよりも大きく、快不快に非常に敏感で、忍耐が困難な子どもです。
私には無い苦労を、あの子は背負っているんだな、という温かい目線が大事です。
発達障害児にも、感情・情動はあり、あの人は僕のことを理解してくれるな、ということは、とてもよく分かります。
あの人は、僕を叱ってばかり、僕に命令してばかり、僕ばかり注意する、という孤立感・被害者意識がとても強いです。
同調意識が少ないので、一般の子どもさんができる我慢が、発達障害特性のある子どもさんにとっては難しいです。
「挨拶しなさい、こだわらないで、空気を読みなさい、謝りなさい、自分でメモ書きしなさい、注意してやるんだよ、きちんと、姿勢良く、よく見て、よく考えて、静かに、黙って、早く、急いで、頑張って、全力で、一生懸命やりなさい」 などの、音声の言葉によるイメージが持てず、相手の立場に立って、周囲の状況を見て、自分で自分に言葉で言い聞かせて行動することが難しいです。
抽象的な精神論でなく、せめて、数字を使って量的に表わして伝えると、イメージを持ちやすくなります。
「声のボリュームを1に小さく、1分間で急いで、100%頑張って、お尻と背中を椅子につけてシャキーン」と、などです。
イメージを持ってもらうため、ソーシャルスキルトレーニングについて、猫ちゃんブログでは、絵に表わして話し合うことを、 勧めています。
脳内にある約束でなく、「教室掃除の道具の当番表」を、教室の壁に明示したいですね。
発達障害児のソーシャルスキル指導は、物理的に工夫すると、子どもの心をつかむことができて、うまくいきます。
猫ちゃんブログへのコメント
「どうぐ当番表」のような具体的な工夫が欠けている。ほんとうにいつもそうですね。猫ちゃんの繰り返し言っていることだと思います。具体的な工夫を考えることができれば、子どもへかける言葉も違ってくるように思います。
通常学級の担任の先生の多くは、「どの子どもも平等に指導する」と考えてくれています。
それはとてもありがたいことです。
自分の考える特別支援教育は、「発達障害児をひいきする」不平等な教育、相互補完の教育です。
ひいきするとは、脳の外で目に見えるような物理的な工夫をするということです。
それが、歴年齢という区分に押し込められた、発達障害児の支えになると思って仕事をしています。
発達障害児も悪いことをしたら、「謝罪」するべきだと、通常学級の先生から言われるのですが、発達障害児はこれがかたくなに難しいです。
間をとって我々は物理的な工夫をして、本人の参加が楽になってから、後で本人もこうなら良かったと気が付いたときに、「あん時はカッとしてごめんね」と、言えたらいいのになと思います。
仲間の子どもたちは、結構その子の特性を分かっていて、ずっと後になって謝っても、「いいよ」って言ってくれる力のある子どもたちです。
そういう子どもたちの力も借りて、その子がカッとしない物理的工夫をできたら、謝罪の精神論を議論しなくていいかなと思うこの頃です。