漢字を読めるが、漢字を書けないという子どもたちが、病院小児科に相談に見えます。
原因4つのうちの2つ、「漢字の分解と合成」、「漢字は言葉で記憶する」を、前回の投稿で紹介しました。
今回は、「漢字の意味を言うことで、似ている漢字を分けていく、説明力」と、「手指の協調運動および視機能の問題」を、詳しく見ていきましょう。
表意文字の漢字には意味がある
前回の投稿で、小学校1年生で習う、象形漢字を紹介しました。
日月火水木金土山川などは、実物をかたどった絵で表わすことができます。
漢字は、実物の意味を表している、表意文字です。
1年生の漢字は画数も少なく、実物をかたどっているので意味が分かりやすく、子どもたちは覚えやすいです。
実物➡絵を覚えやすい子どもにとって、パッと見た、目からの記憶で覚えられます。
パッと見の記憶は、同時処理の記憶です。
同時処理に強いのは、視覚優位の子どもたちです。
言語理解よりも、視覚理解に強い、自閉症スペクトラムの子どもたちなどです。
漢字練習帳に、目だけで写している子どもは、記憶の限界がやってきます。
漢字練習で意味を考えずに写していると、テストでは似ている文字を間違えるようになります。
「石・右・左」「先・生・赤」「考・教」「姉・妹」「新・親」「半・牛・午」「園・遠」「売・読・記」「地・池」などです。
へんとつくり、かんむりなどが登場すると、漢字が複雑になり、言葉の助けが必要になる
漢字に、へんとつくり及びかんむりなどの組み合わせが出てくると、目で見て覚えただけでは、似ている漢字の記憶があやふやになります。
「土地には土があるから土へん」「池には水があるからさんずい」と、へんの違いを言うことで、記憶を助けます。
言葉を使う記憶は、継次処理です。
継次処理は、パッと見の同時処理よりも、言語理解の力が必要になります。
「お日様や月が出ている時は明るい」「下校の音楽、帰宅の音楽がなる夕方は暗くなる」と、つくりの違いを言えれば、書き分けられます。
授業では先生が、既習漢字で似ている漢字を、1分使って書き比べて、教えてくれるといいですね。
テストで間違った漢字は、思い違いをした似ている漢字を、2つ並べて書いて、その違いを漢字練習帳に、文章で書く復習をしましょう。
同じ漢字を、目だけでたくさん写すよりずっと、記憶の効果があります。
子どもだけでは、似ている漢字の違いの説明が無理な時は、違いを保護者が教えてあげてください。
学年が上がり、へんとつくり及びかんむりなどの組み合わせ漢字が増えるにつれて、言語理解の力が、漢字記憶を左右します。
学習障害の判断と診断について DSM-Ⅳ
学習障害の判断には、知能検査でのIQが90以上あることが必要です。
その理由は、知的な力が平均以上あるのに、漢字を覚えることができなければ、障害と言えるからです。
私は、漢字記憶には、言語理解VIQ90以上が必要だと考えています。
VIQが90以上あっても自閉症スペクトラムがあると、漢字を覚えにくい場合があります。
漢字の意味記憶が難しいのです。
自閉症スペクトラムの子どもは、漢字熟語は読めるが、会話や文章の意味理解が幼いです。
相手にわかるように話すことや、作文が難しかったりします。
漢字熟語の読みは、パッと見てわかる同時処理で記憶できますが、漢字記憶の書きは、意味や文章を思い出す継次処理だからです。
病院小児科では、インタビュー問診会話、国語の教科書の音読、算数文章題、知能検査、文章理解テスト、読み書きスクリーニング検査などを実施しています。
保護者や学校の協力のもと、週4日1年間の療育の後、読み書きスクリーニング検査の再検査を行ない、医師に診断してもらいます。
漢字記憶には書くこととつぶやくことの2つのタスクが同時に必要
言いながら書く、書きながら言う、これができると記憶を助けます。
通常学級の漢字練習でも、へんとつくり及びかんむりを、つぶやきながら書かせてください。
家庭でやる宿題の漢字練習も、漢字の成り立ちを1行に書いて、余った下の2~3マスに、漢字を書きながら言うようにしてください。
発達障害の症状があると、2つのタスクの同時処理が苦手な場合があります。
50マスや84マスの大きな漢字練習帳を使って、書く分量を減らしてください。
たくさん写すよりも、大きなマスに正しく書くことの方が重要です。
子どもが漢字を書いているそばで、漢字の成り立ちや意味の違いを保護者が言うようにしてください。
書く役割は子どもが、言う役割は大人が、と1つずつのタスクに変更しましょう。
ホワイトボードやいらない紙を使って、大きな運動で書くことも、記憶を助けます。
その時、子どもに言わせて、保護者が書くという、役割交代もできます。
手指の協調運動が不器用で書記運動に苦労する子どもがいます
発達性協調運動障害があって、手指が不器用な子どもがいます。
自閉症スペクトラムの子どもだけでなく、ADHDの子どもも、不器用なことが多いです。
入学前の幼児であれば、ホワイトボードに、太めのホワイトボードマーカーで書くと、弱い力でも筆跡が残り、書くことを楽しめます。
数字及びひらがなやカタカナのなぞり書きプリントも、テーブルに新聞紙などを敷いて、ホワイトボードマーカーや水性マジックペンで書くと、力が弱くても楽しく書けます。
書くことから離れて、洗い物や食器運び、お風呂掃除のお手伝いなど、手指を使うこともやってみてください。
お絵かきや、塗り絵もいいですね。
入学時には、ダイソーやセリアの太い三角鉛筆、6B・4B・2Bなどの芯の柔らかい鉛筆、鉛筆を太くするダイソーのぷにゅぷにゅキャップ、もちかたくん、などの文房具の工夫で助けてみましょう。
成人期には、少しずつ器用になりますが、不器用があると、学齢期の書記作業は苦労の連続です。
特別支援教育では、板書をタブレットで撮影する、プリントや回答欄を拡大する、ひらがな回答でも正答とする、鉛筆の代わりに水性ペンを使う、タブレットでキーボード入力で回答する、音声入力で漢字を選択する、テストでは時間を延長する、別室受験とする、などの合理的配慮があります。
書記作業の苦手さがあっても、代替手段を使って、自己肯定感を持って学ぶことを応援しましょう。
先生方や、周りの仲間の理解も、必要になります。
自閉症スペクトラムの方の80%に、発達性協調運動障害があると言われています。
利き手でない方の手に軍手をはめて、6ミリの罫線ノートに漢字を書いてみてください。
大変ではありませんか?
ほんの少し、書字障害の人の、苦労を体験できます。
書字障害や自閉症スペクトラムの方の文字の書き順は、目についた部分から書く、書きやすい運動から書くので、形があっていれば良しとしてください。
目の機能で苦労している子どももいます
学校の黒板の板書をノートに写せない子どもさんは、書字障害あるいは自閉症スペクトラムの子どもに多いです。
視力では、子どもの近視は分かりやすいのですが、子どもの遠視と乱視は分かりにくいので、大きな病院や、視能訓練士のいる小児眼科で、見え方の検査をしてもらってください。
メガネが必要であれば、メガネをかけましょう。
文字をたどっていく追従性眼球運動に、苦労している場合もあります。
盲特別支援学校の幼稚部、あるいは教育相談の予約でも、視機能検査をしてくれます。
書字障害が疑われる時、「目の機能には問題がないか」の除外診断も受けてください。
病院の療育や、学校の通級指導教室などでは、図形の分解と合成、図形の書き写しなどの、視機能訓練をします。
佐賀県教育センターの「読み書き等のつまずきに対する『見る力』を高めるトレーニングの活用」資料も参考になります。
まとめ
漢字の記憶には、言語理解力が関わっている。
漢字の意味を言うことが、記憶を助ける。
漢字の記憶は、書き写す視写法よりも、言いながら書く聴覚法。
自閉症スペクトラムの方の書き順を、無理に直さない。
手指の協調運動が不器用だと、鉛筆で書きにくい。
書字障害に対しては、代替手段などの、合理的配慮を行なう。
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