病院小児科の療育で、小学校の通常学級に通う、書く速度が遅い、4年生の子どもさんの相談がありました。
問診をしながら、学校の授業の、国語・算数のノート、漢字練習帳、連絡帳、テスト、作文などを見せてもらいました。
4年の国語の教科書も、速度はゆっくりですが、間違いなく、スラスラと読めました。
ひらがなカタカナの読み書きに大きな問題はない
初診で、WISC(ウィスク)という、心理検査をしました。
再診で、STRAW(ストロー)という、読み書き発達検査をしました。
この子どもさんは、平仮名とカタカナの読みは、自由自在でした。
書くことでは、平仮名もカタカナも思い出せますが、書く運筆に時間がかかります。
努力して書いているので、書き順を正さない・直さないことが、重要なポイントです。
小さな「ャ・ュ・ョ」のカタカナの拗音は、いくつか書けない未修得がありました。
漢字も意味で記憶していないので、小学校2年生程度です。
拗音と漢字は、家庭、病院小児科の療育、通級指導教室で、聴覚法の個別指導を、週4日、1年以上学習する必要があります。
週4日、1年以上の聴覚法指導のあと、6年生になったら再び、STRAW(ストロー)読み書き発達検査をする予定です。
1年以上の指導後のストローでも、全く進歩がないと、IQ 90以上で、限局性学習症の判断となります。
正確に書けるが 書く速度が非常に遅い
3回目の療育で、本人と保護者に、2つの検査結果について、説明しました。
彼の特性は、WISC心理検査から、他の分野よりも「処理の速さ」が、遅いことが目立ちます。
STRAW(ストロー)読み書き発達検査から、時間が平均の人の1.5倍かかることも、分かりました。
保育園の頃から、行動に非常に時間がかかるという指摘がありました。
文字の形や鉛筆の持ち方を見ると、発達性協調運動症も疑われました。
体育が苦手だそうです。
本人は時間をかけて、印刷文字のように、丁寧に書いています。
2つの検査結果について、通常学級の担任の先生と、通級指導教室の先生に、保護者への報告書と同じ書類を持っていってもらいました。
時間をかけて丁寧に書くことが優先か、時間内に急ぐことが優先か
私が自分のカルテのメモを見せて、「急いで書くときはこのように乱暴でも良い。」
「時間のある時は丁寧に、急ぐ時は読める程度で良い。」
「授業ではどっちを優先するといいか、選べるか?」と質問しました。
ご本人は苦笑いをして、乱暴でもいいので急いで書く、ということは選べない様子がありました。
私から本人に学校での困りごとを聞くと、本人から、授業中に困ることが、教科ごとに4つ出されました。
社会科の板書の書写
主訴1.「社会の時、先生の板書を時間内にノートに写しきれない。」
提案1.残りの板書の書写は、①タブレットで撮影して先生にプリントしてもらう。➁友だちのノートを借りて、休み時間に写したいか、③友だちのノートを先生にコピーしてもらって貼るのはどうか?
①タブレット撮影及び➁友だちのノートを借りるにあたっては、写す速さが4年生の平均の1.5倍時間がかかることを、先生からクラスの仲間に公開しても良いか?➡本人と保護者の同意がありました。
➁③借りられそうな前の席の友だちに、自分からも直接「ノートを貸してください。お願いします。」と頼めるか?➡本人の同意がありました。
前の席の仲間の名前を尋ねると、前の席の子どもさんの名前をまだ覚えていませんでした。
➁③担任の先生から「何々さんにノートを貸して欲しい」と頼んでもらえるように、私がお願い文を書くから持って行ってください。➡保護者が、「担任の先生にこれから会う」というので、お願い文を持って行ってもらいました。
理科の野外観察のメモ
主訴2.「理科の授業の板書の、ノートの書写はできるが、校庭へ出て、観察したことをその場でメモすることは、時間がかかってできない。」
提案2.プリントの端に、単語でメモして、自宅へ宿題で持ち帰り、翌日提出するのを認めてもらうのはどうか?➡本人の同意がありました。
算数の問題量
主訴3.「授業中の算数の練習問題の量を、皆のように時間内にはやりきれない。」
提案3.授業中の問題はできたところまでを出す、残りは家で宿題とする、翌日出すのはどうか?➡本人の同意がありました。
国語の音読の速さ
主訴4.「授業の音読の時、みんなバラバラに練習で読む時、誰の速さに合わせたらいいかがわからない。」
これが最も、この子どもさんの特性を表わしている疑問だと、私はとらえています。
大抵の子どもさんは疑問に思わないで楽々やっている行動に、戸惑う様子がよく表われています。
提案4.家で読んでいる音読の速さで良い。誰にも合わせなくて良い。自分の速度で良い。授業の音読練習の時に、習っている単元を最後まで読み切らなくても良い。➡本人の理解と同意がありました。
皆にずるいと言われないか?
本人から、私の4つの提案を、担任の先生が自分だけにしてくれると、「みんなからズルいって言われる」という心配が出されました。
そこで、「2つの検査結果から、先生は特性を理解してくれる。そして4つの提案に近い、合理的な配慮をしてくれる。それはあなたの権利です。先生からの配慮をもらうには、皆の1.5倍時間がかかることを、先生からクラスの仲間に伝えてもいいですか?」と話すと、本人も保護者も同意と希望がありました。
自分の特性を公開してもよいという、本人と保護者の同意があるので、先生も合理的な配慮をしやすい事例です。
特性の公開が難しい時は
保護者や本人の同意が得られず、仲間への特性の公開ができない時は、担任の先生から、以下のように声をかけてもらうといいです。
特にこの子どもさんの場合は、やる気はあるが時間が足りないので、「宿題として時間を設定」すれば良さそうです。
提案1社会、「次の授業の始まりまで、黒板を消さないでおくから、休み時間に書きましょう。」
「友達のノートを見せてもらって、昼休み、放課後、明日の朝学習で、書きましょう。」
「タブレットで板書を撮影していいから、きょうの宿題で、残りをノートに家で書き、明日朝見せましょう。」
提案2理科、「プリントに観察を書ききれなかった人は宿題です。家でやってきて、明日の朝、出してください。」
提案3算数、「算数の問題がまだ残っている人は、宿題です。明日の朝、見せてください。」
提案4国語、「バラバラに読むということは、自分の速さで読むということです。読みきらなかった人は、後半を家で読んでください。」
通常学級の先生がた、お一人お一人の工夫による、書くことに非常に時間のかかる子どもさんへの特別な支援、合理的配慮をお願い致します。
書くことに苦労があって、やる気が起きない子どもさんには
先生の話を集中して聞き、板書はタブレットで撮影してよい、後でプリントしてもらい、ノートに貼って、保護者と先生に見せることにします。
「みんなは鉛筆で書くよ。○○さんは、教室を出て行く・席を離れる・机の上で寝てしまう・床に転がるほど、書くのがつらいから、タブレットを使います。」と、周囲に解説しましょう。
書く分量を減らす。先生が四角く囲ったところだけ、あるいは赤丸磁石を置いたところだけをノートに書く、と個別指導で約束しておく。
国語・社会・理科などは、授業の全体板書よりも、プリントを配布して、( )記入のプリントをノートに貼る方式にすると、書写が文章でなく、単語で良くなり、書写量が減ります。
デジタル教科書や電子黒板を使い、子どものノートと同じ紙面を画像で提示すると、写す行動をそっくり模倣しやすくなります。
皆さんの実践例があれば、コメント欄でぜひ教えてください。
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