教育仮設39-1 正義感が強い、律儀、こだわるとは、行動の選択肢が〇✖しかないと理解する
今月で4歳になるL君のお母さんから、時々、療育の現場やメールで、育児上の困りごとの質問を受ける。
例えば、最近の1か月では、以下のようなことだ。
①おうちで、食事中に、わざとでなく、ぼっと(偶然)牛乳をこぼしたので、お母さんが「牛乳こぼしちゃったね」と言うと、「こぼしてない!」と言い張って怒る。どうしてか?
➁ジャンケンの勝ち負けの意味は分かるのだが、保育園で、じゃんけんをして負けると泣く。泣かないようにするにはどうしたらいいか?
③保育園で、タッチ鬼をしていて、タッチされると泣く。泣かないようにするにはどうしたらいいか?
④保育園で、散歩に行く直前に、友だちの帽子と靴を、胸に抱えて持って行ってしまう。「 返せ」という友だちとトラブルになる。どうしたらいいか?
⑤保育園の給食で、嫌いなタケノコやエビケチャップが出ると、給食が始まる前に園庭へ逃げていく。どうしたらいいか?
⑥おうちで、食事に嫌いなものが出ると、祖父母の部屋の方へ逃げていってしまう。甘やかしていていいか?
教育仮設39-2 マイナス行動には声をかけない、物理的な対応をする、交渉言語の形成
私の理解と対応は、共通して、以下の3つになる。
1.常識を知っていて、正しさ1つにとらわれて、他の行動に変更することができない、対人交渉コミュニケーションの下手さを理解して、マイナス行動には注意(非難)の声をかけない。
2.物理的な対応をする。
3.対人交渉コミュニケーションの言語モデルを言って見せ、真似させ、次回の行動の多選択肢を形成する。
教育仮設39-3 こぼしたら紙ナプキンを渡して「大丈夫」と言おう
以上の3点から考えれば、①~⑥の理解と対応は以下になる。
①L君は、どう行動すべきかという常識は分かっている。どういう行動が〇で、どういう行動が✖かの、2択は知っている。
それで①のような時、牛乳はこぼすべきではないと知っているから、僕は「こぼしていない」と言う。
嘘をついているわけではない。
「こぼさないと良かった!こぼさないと良かった!」と言っているのだ。
それが「こぼすべきではない=こぼしてない!」という言葉になったと思う。
こだわりの強い子どもたちが、〇の行動でない✖の行動をしてしまった時 、〇の行動を言い張る。
それは子どもの想定外のことに対する、後悔の現れだ。
非難の言葉を出さないで、黙ってキッチンペーパーで拭いたり、キッチンペーパーを渡したりすると良いと思う。
その時かける言葉は、「大丈夫」「拭けば、大丈夫」である。
こだわる子ども、泣く子ども、カッとする子どもが、「大丈夫」を言えるようになった時、行動が柔らかくなる。
それには大人が、たくさんの「大丈夫」を使って、「大丈夫」を刷り込まなければならない。
「うちのお母さんの口癖は『大丈夫』です。」くらいになってほしい。
教育仮設39-4 勝利至上主義でない言い方を大人が使う
➁L君は、じゃんけんは、勝つことがいいことだと考えている。
大人の、勝利至上主義が、子どもたちにも刷り込まれている。
じゃんけんは偶然の出来事に対する、3つの記銘に過ぎない。
「勝つことも負けることもある。負ける人がいないと勝つ人もいない。両方大事。」
「じゃんけんで負けた人から並んでください、負けた人から配ります。」
そういう価値観を、家族・保育士さん・学童指導員さん・学校の先生方が、子どもに刷り込んで行ってほしい。
教育仮設39-5 保育士さんの言語モデルは仲間にも利益がある
③L君は小柄だし、走るのも早くはない。
鬼になったら自分は、誰にもタッチできないと知っているのだと思う。
「鬼を代わってほしい。お願い。」 と、保育士さんが言わせて、まずは保育士さんが鬼を代わってやると良い。
次に仲間に「鬼を代わってほしい。お願い。」 と、依頼させてみると良い。
仲間に代わってもらえなかったら、「残念!」と保育士さんがモデルを言って、保育士さんが鬼を代わってやると良い。
きっと、保育士さんの真似をして代わってくれる子どもが出てくる。
不快な事、嫌な事に出会った時は、それらから脱出するための、対人交渉コミュニケーションの「依頼」を身につけるチャンスだ。
保育では、L君に、保育士さんのような言語モデルを言う人が、ついてやる必要がある。
それは、他の園児仲間にとっても利益がある。
保育士さんが、L君にどういう言葉をかけるのか、周りの子どもたちもそれを真似していく。
特別支援保育・特別支援教育は、本人支援だけではない。
【L君-保育士さん-仲間】という、トライアングルの相互性が大事だ。
周りの子どもたちにも、考え方の多様性、対応の多様性を伝えていく、チャンスなのだ。
教育仮設39-6 対人交渉のことばを形成する
④帽子⑤離脱については、2021/3/18投稿の
多動な子どもの探索に付き合ってうまくいくように輔けると落ち着く
の教育仮設38-2「情報の多い、複雑な場面で、子どもはどう振る舞うか?」に書いたので、ご覧いただきたい。
L君は、我々より100倍の感覚過敏があり、味覚過敏が生じて、偏食になる。
食べたくないものは決して食べられない、ということを我々が理解する。
周りの仲間には、「L君が園庭に逃げるほど食べられないものなら、他のものを食べてくれる方が先生は嬉しい」と言って、保育士の権威で押し切ろう。
他の子には「あなたは身体のために食べる力、ひと口、チャレンジする力があるよ」と言おう。
⑥「片付けてください」「食べたくないです」「嫌いです」「食べられません」「残していいですか」という、対人交渉コミュニケーション技術を、L君に形成する。
L君は、上記のような言葉でまだ交渉できないから、祖父母の部屋に逃げ込む行動になる。
基本的に、おうちの食事では、好きなものを出す、嫌いなものは出さない。
以上のように説明すると、お母さんは、「行動には理由があり、子どもの気持ちがあるんですね。」とメールの返事をくれた。
社会ルールやしつけ、子どもに対する理想像だけでなく、L君の心の側にも立てるお母さんである。
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