教材No.21-1 動詞の学習
動詞の学習は、動詞の学習の進め方 の教材No.18で、「食べる・飲む」で行なった。
動詞の学習が不足しているようであれば、写真や身振りや文字で、動詞を様々に学習し、横の発達(びわこ学園の創設者糸賀一雄の言葉)の力を蓄えておく必要がある。
家庭生活は「ご飯」「歯磨き」「おやつ」「お風呂」など、名詞で済む会話が多い。
文章学習の土台には、述語だけの1語文でもいいから、「起きる」「着替える」「食べる」「磨く」「出かける」「洗う」「入る」「待っている」など、動詞を意識した言葉かけが、家庭でも学校でも必要である。
教材No.21-2 2者のやり取り
また、2者のやり取りについては、自閉症スペクトラムのかたのあいさつの形成の方法 の教材No.19で、あいさつの形成を紹介した。
あいさつは「おはよう」「こんにちは」「さようなら」「おやすみなさい」のように、お互いに同じ言葉をやり取りするあいさつは、やさしい。
次は、食事の作り手は黙って出すか、あるいは「どうぞ」というだけなので、「いただきます」「ごちそうさま」など大勢で言うあいさつは、模倣することがやさしい。
難しいのは、「どうぞ」に対するお礼の「ありがとう」、叱られたことに対する謝罪の「ごめんなさい」である。
お礼が言えない、謝罪が言えない子どもに、時々出会う。
自分が予期してなかったお礼や謝罪を、その場ですぐに答えることが難しくて、すぐに言えないのだと思う。
最高に難しいのは、相手とのやり取りで、会話が似ていて、意味が異なる時である。
「いってきます」と「いってらっしゃい」、「ただいま」と「おかえりなさい」などである。
子どもが黙って出かけようとするので、お母さんが先に「いってらっしゃい」と言うと、子どもも「いってらっしゃい」と言ってしまう。
子どもが黙って玄関から上がってくるので、お母さんが先に「お帰りなさい」と言うと、子どもも「お帰りなさい」と言ってしまう。
オウム返しでもっともだ、と思える難しさだ。
1年間くらい、お母さんが子どもの役割の「いってきます」「ただいま」を見本として言ってやっていいくらいだ。
教材No.19「あいさつの形成」に書いたように、子ども本人が言うべき吹き出しの文字を、子どもに手渡して、玄関でやり取りするといいと思う。
正答教授法で形成すると考える、困らせないことが原則だ。
教材No.21-3 2者のやり取りを外側からモニターする
動詞やあいさつが、子どもの生活場面でも、汎用されているようであれば、次のやりもらい文=授受文=能動受動文に進める。
教材No.19「あいさつあいさつの形成」では、あいさつの習得の混乱を避け、現場で使えることを狙って、本人の側の言葉「いってきます」「ただいま」だけを、習得させるように提案した。
今回はいよいよ、2者のやり取りを、客観的に外側からモニターする立場になってもらう。
本人は、 a になったり、 b になったりして、立場を移動させて考えることを学ぶ。
ここが能動・受動文の重要なキーポイントである。
a の立場になる b の立場になるということが、相手の立場に立つということにもつながる。
心の理論(イギリスの自閉症研究者バロン-コーエンらによって1985年に作成された登場人物の考えを当てるテスト)の通過課題のようなものである。
2者のやり取りを読み取って、文章を形成する学習なので、通過テスト課題より意義があると考えている。
教材No.21-4 能動受動文の学習
教材は、単語から文章構成へ移行する方法 の多語連鎖、動詞の学習の進め方 の動詞学習、事象と文章の対応の強化法 の大小比較構文の学習でも使った、2構文のボール紙枠などの、定型の材料を今回も使う。
単語カードを属性ごとに並べる枠だけ、つい最近、100円ショップのセリアで、縁の浅い箱を見つけた。
単語カードは白でもよいが、より属性が分かりやすいように、カラー上質紙とダイソーのカラー単語カードを使って、主語・目的語・述語を色分けした。
➀はじめに、絵カード状況の確認、絵カード見本に書いてある動詞「あげる」「もらう」を読ませる。
ボール紙の黒枠に、動詞の語群から先生が「あげる」を取って黒枠に置いて、子どもに「もらう」の単語カードを渡し、黒枠に置いてもらう。
「あげる」「もらう」が書いてある、見本の絵カードを、ボール紙枠の下にしまう。
見本絵カードを裏返すと、男の子(もらう)女の子(あげる)の位置が逆になるので、混乱を避けるため、位置の手がかりをそのままに、厚紙の枠の下へ入れた。
➁次に、目的語+述語の文章の、1つを先生が構成し、他方を子どもが構成する。
そうやって、構文のルールを伝えたら、「りんご」「ぶどう」「バナナ」など別の目的語で汎化する。
円滑に構文できるよう、正答を手伝う。
「先生が先に置くね」と、先生の正答単語カードを、裏返しで文章枠に先において、子どもに単語カードをのせさせて、答え合わせ照合をしても良い。
③ここが重要だが、先生に指定された主語に対応する、主語+目的語+述語を構成する。
下の画像のように、抽出1構文にする。
目的語が邪魔するようであれば、主語+述語だけにして、強化する。
④最後に、1構文で、主語を入れ替えても、主語に対応する、主語+目的語+述語を構成する。
ボール紙枠の下にしまった見本の絵カードを、いつでも見てよいこととする。
⑤事象に合わせた文章を作ることが上手くなったら、上記と反対に、指定された文章に合わせた絵カードを取ってきて、事象を構成する。
主語が「男の子・女の子」で似すぎていれば、「お母さん・ぼく」「私・猫」など、似ていない対象に変える。
家庭や学校の生活の中で「あげてきて」「もらってきて」などの、依頼に対応する行動が取れれば、完成である。
似ている学習に「お母さんが 僕を 叱る」「僕が お母さんに 叱られる」などの能動受動文がある。
内容に差し障りがあるようであれば、「犬が 猫を 追いかける」「猫が 犬に 追いかけられる」などでも良い。
犬と猫のおいかけっこの現場写真を撮るのは難しそうだが、犬と猫を材料にする方が、本人が事象の中に入らないので、事象を客観視しやすく、絵も描きやすいかもしれない。
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